「姐さん!」
「ルカ殿、さっさと行ってきやがるデス。ピノ殿も、あとは任されやがるでございますよ!」
スーは自分の身長よりも長い大鎌を構え、ルカをかばうようにして岩でできたドラゴンに向き合った。
「おい、なにやってんスか!」
ルカはウチの腕の中から猫耳幼女を引っ張りだし、そのまま無造作に投げ飛ばそうとした。
もちろんその行動は、ウチを気遣ってのことで悪気がないのはわかっている。
……だけどそれはダメだ。
ウチは必死で腕を伸ばし、爪を立てて猫耳幼女のジャケットに食い込ませた。これなら力が入らなくても手が離れることはない。
猫人でよかったと、つくづく思う。美形エルフだったらこうはいかなかったな。
「ルカちゃ……ダメだって」
さすが、十メートル超の恐竜の力を凝縮した
「姐さん、なんでっスか」
「なんでも、だよ。ルカちゃん、ウチはそんな
〔はあ……元気そうな軽口でなによりです〕
女神さん、そう言わんといて……刃先が丸々刺さってんだぞ、マジ痛いって、実際余裕なんてないって。
「ああ、もう……わかったから爪をはずしてくださいっス」
「優しくしてあげてよ。この子は、なにも悪くないから」
ルカはウチの意思を優先してくれ、猫耳幼女の肩を掴んで起き上がらせると、身体についた砂をはらってあげた。
「大丈夫っスか? 転ばしてしまって悪かったっス」
「ありがとうね、ルカちゃん」
「まったく、姐さんも人がよすぎっスよ……」
「まあ、そう言わんといて」
「え……。あれ?」
直後、絶句するルカ。
「これは……なんでっスか? 姐さん」
どうやらルカも
多分、どうすればよいかわからなかったのだろう、目をパチクリさせながらウチの顔を見て指示を待っていた。
猫耳少女の砂を払うために膝をついたルカ。それは、丁度フードの中の顔が見える高さだった。
――ありえない。想像すらできない。
フードの中には、クリクリっとした目の可愛らしい顔があった。それはグレムリンの言う通り、紛れもなく
「そんな、姐さんこの子って……。マジっスか~。いや、でも……え~」
実はウチも、覆いかぶさった時に猫耳幼女の顔を見ていた。多分“素の状態”だったら、ルカと同じ反応をしていたと思う。
だけど、幸か不幸か刺された痛みに意識を持って行かれてて、目の前の現実にあまり衝撃を受けずにすんでいた。
ウチは『これは二人の秘密だぞ!』っと、人差し指を口に当てて見せた。……黙って頷くルカ。
「亜紀さん、担ぎますよ。痛み、耐えて下さいね」
なんかピノがものすごいテキパキしてる。
ルカが短刀を引き抜こうとした時も『出血が増えるから抜かないで』とか言っていたし。なんかまるっと任せて安心できそうだ。
「洞窟に、お願い。セイレーンがヒール使えるから……」
呼吸はしっかりできているし、目も耳もはっきりしている。とりあえず、すぐにも“死にそう”って感じではないのだけが救いだ。
先日の“ジュラたま三個全力ダッシュ”の時よりはマシに思えるから、多分……大丈夫。
「なんつーか、戦力外通告を受けてしまった気分やで……」
「J1からJ3に落ちるより酷いですね」
「……ピノちゃん、君は意外と刺さる事を言うねぇ」
「物理的に刺さっていることを危惧してください。口閉じていないと舌噛みますよ」
はいはい。と言うかそろそろ声をだすのがキツイから嫌でも黙るけど。
「ルカちゃん、その子の保護頼む」
「わかったっス。ピノ、姐さんのこと任せるっスよ!」
「心得ました。すぐ戻るので」
ピノはウチを担ぎあげると、洞窟の方に向かって全力で走り始めた。
……ミノタウロスといいピノといい、なぜにウチは米俵扱いなんや。
猫耳幼女の事は、今は誰にも話すわけにはいかなかった。この事実はみんなにどれだけ影響でるか、まったく予測ができない。
どうすればいいのかわからないけど、とりあえずはウチとルカだけの秘密にしておかないとだ。
特にアンジーには絶対に話せないし、話してはいけない。
フードの下にあった“初めて見る同じ顏”。
間違いない。あれは、あの顔は……
……アンジーの妹だ。