「亜紀殿、いったい何事でござるか」
と、ウチの腰に刺さったままの短剣を見ながら、ドライアドが驚き聞いて来た。
「う~ん……なんか刺さった」
〔なんかではないでしょう、まったくもう……〕
「ヒールを。短刀を引き抜きますのでタイミングを合わせて」
ピノは指示を飛ばすと同時に、ウチの口に巻いたタオルを突っ込んで来た。これは『このあと痛い事になるから』と言う暗黙のメッセージだ。
「ふむ、それは拙者に任せて頂こう。刃物の扱いは慣れているでござるよ」
ドライアドの言葉に
ドライアドたちを救出するって目的はピノも理解している。
それでも、ウチが彼らと互いに感じるだけの信頼関係は、ピノやスーにわかるはずがないのだから。
「ピノちゃん大丈夫。ウチは、君と同じくらい
この一言で全てを納得してはいないだろうけど、ピノは黙って頷くとウチの身体を押さえ、腹部が動かないように固定した。
ウチの言葉を理解してすぐさまサポート役に徹するとか、頭の回転が速く判断力がある
「亜紀殿、呼吸をできるだけ大きく。吸い込んだらとめて下され」
ウチは言われるがまま深呼吸をして、数回目に息を止めた。
——その刹那
ドライアドは傷口以外にダメージが広がらないように、慎重にそれでいて素早く短刀を引き抜く。
セイレーンはあらかじめヒールの魔法を詠唱しておき、間髪いれずに傷を塞いだ。
チームならではの隙の無いコンビネーション、信頼関係がなせる技だった。
このあとは、身体に負担がないように回復スピードはゆっくり行うのが普通だ。
……しかし今回は救急処置、傷を塞ぐのと回復まで一気に行う必要があった。
そのせいもあって、傷のあった場所が今までになく痛い。刺された時よりも死にそうに痛い。
これはアンジーによると『健全な細胞と再生された細胞の新陳代謝のズレからくる痛み』だそうだ。
だがおかげで出血もほぼなく、多少突っ張る感じは残るものの呼吸が楽になった事には感謝しかない。
「ふう、マジで助かったよ」
「こんなところでママライバルを死なせるわけにはいきませんわ」
「……なんだよそれ。ベルノはウチの
〔八白亜紀。少しは大人しくならないのですか、あなたは〕
女神さんの“ぱふっ”としたカカト落としが、今は少しだけ背中に響く。
お互い軽口を叩いてはいるが……ウチもドライアドもセイレーンも戦えるほどの体力は残っておらず、ルカたちの闘いを岩陰から見守るだけだ。
「歯がゆいなんてもんじゃないな。ハーピー、悪いんだけど……牽制に回ってもらうことはできそう?」
じっとドライアドを見るハーピー。
「……恩義には恩義で返す。拙者の分まで返してきてくれ」
その一言を聞いた瞬間、ものすごいスピードで舞い上がって行ったハーピー。
あの羽根から撃ちだされる魔法の矢はかなり厄介な代物だ。魔法耐性を持っているウチでもなければ、全てかわすのは難しいだろう。
ドライアドにセイレーン、ハーピー。味方になると本当に心強いチームだ。
「……頼むで、みんな」
ハーピーが援護に向かったのはストーンドラゴンと対峙しているスーの所だった。
決定打は与えられないものの、スーは一人であの巨大なストーンドラゴンと対等に戦っている。そこにハーピーの支援が加われば、少しは戦況がよい方に傾くだろう。
その間にルカとピノが合流すれば……なんだけど、なかなか思うようにはいかないみたいだ。
「なんスか、このすばしっこさは……」
意外なことに、ルカは猫耳幼女にまったく触れられずに苦戦していた。
これはグレムリンが『捕まったらどうなるかわかっているっペな?』と、人質に取った家族のことをチラつかせたせいだ。
行動の先を予知し、ヒラリヒラリとかわす猫耳幼女。
……これでは保護するどころの話ではない。
フィジカル極振りなルカでこれだと、この子、
「マジで予知ってチートすぎんだろ……」
〔さらにはあの年齢と体格で、あれだけ動ける身体能力も脅威ですね〕
「だよなぁ。いくら予知しても、体がついていかなければ意味がないもんな」
マジでもう厄介すぎるぞ、メンタルチートにフィジカルチートって。姉妹揃ってなんなんだよ、
「……なんかムカつく」
もちろん、アンジーに対してだけど。