ここは、長い年月をかけて波が作り上げた天然の洞窟。そのゴツゴツとした黒っぽい岩肌の空間にウチとドライアドたちは避難していた。
砂浜では岩石で生成された巨大なストーンドラゴンと、それに対峙するスーとハーピー。
そして、黒ローブの猫耳幼女に翻弄されているルカ。
戦局としての優位性がどちらにあるのか、今は全く判断がつかなかった。
「……ところで、なにしてるの? ピノちゃん」
ピノは洞窟の壁を触ったり足元の石を持ってみたりと、なにか調査しているようだ。先の尖ったハンマーを取りだし、手に持った石を砕いてルーペでじ~っと観察している。
さらには、粉状になった破片をつまんですり合わせたり、においを確かめたりもしていた。
「この辺りの砂や岩には、かなりの比率で鉱物が混ざっています」
「……はい?」
なにが始まったかと思えば、見た目のまんま発掘が趣味とか?
だとしても今はそんな事をしている余裕はなんだけど。
「多分、遥か昔に北の山からの溶岩がこの辺りまで来たのでしょう。それが固まって岩を作り、細かく砕けたものが砂浜を形成したと思われます」
たしかにこの辺りはゴツゴツをした岩が多い。それと関係があるのかウチには分からないけど、砂浜の色も褐色寄りな気がする。
「自分にはスーやルカさんみたいな戦闘力はありませんので。ですが土壌や環境を味方につけることで、戦況を有利に持って行けるはずです」
ウチの
「
なにがどう言う意味で大当たりなのかわからないし、石の種類を言われてもちんぷんかんぷんだけど、これがストーンドラゴンを倒すヒントになるのだろうか?
「道筋が見えました。行きます」
う〜む、わからん。ウチにはわからんけど、ピノは確信を持ったのだろう。スッと立ち上がり帽子の位置を直しながら、ルカたちの状況を確認していた。
「ピノちゃん、気をつけて。
「はい、心得ました」
戦場へ戻るピノ。走りながら腰に付けている鞭を外し、右手に構えた。
一口に鞭と言っても、その長さや太さによって用途は様々だ。
動物の皮などで作られた、しなりが強い軟鞭。
鉄などで作られた硬い棒状の硬鞭。
それぞれに長い物短い物があり、狩猟や馬に乗るための補助具、所によっては拷問道具になっていた時代もある。
ピノが持つのは軟便の方で、有名な冒険映画の主人公が使っていたタイプの物だ。
確かにその武器からしても、攻撃力という意味ではルカやスーに見劣りするかもしれない。
……だけどウチには、ピノが弱いなんて全然思えなかった。そしてそれは、ドライアドも同様に感じていたみたいだ。
「あの
……ああ、そうか。ドライアドは彼女たちと戦ったあと、アンジーがトレーニングしていたのを知らないんだ。
「多分、今のピノちゃんが本来の姿だと思う」
「うむ、一切の迷いがない、よい戦士でござる」
ドライアドがべた褒めとか、ピノやるじゃんか。
「しかし、めちゃ博識だったな。初めて聞いたぞ、角閃石なんて」
アンジーの知識も入ってきているだろうから、その影響もあるのだろうけどさ。でも、まあ……
「アンジーに限っては、“博識”と書いてアホと読むんだよな」
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「……ぶぇっくし!!」
「マスター・アンジュ、風邪ですか?」
「いや……。う~ん……なんだろう?」