アンジーと
お互いの会話が混ざらないように、十メートルほど距離を取っているんだけど……
「はたから見ると、ひとりでブツブツ言っているだけなんだよな。アブナイ人たちやで~」
なんとなく二人を交互に見ていたら、ウチの視線に気がついたアンジーがアゴチョキでドヤってきた。
なにかわかったというサインなのだろうか。……いや、アンジーのことだ、単にからかっているだけかもしれない。
「相変わらず行動が読めねぇな~」
「なにやってんだ、あいつは」
新生もアンジーの挙動にはツッコミを禁じ得ないようだ。
「お、ねおりん、情報貰えた?」
「ああ、意外にアッサリと……。っておい、今なんつった」
「ん? え~と。……ねおりん?」
……新生の蹴りがウチの尻に炸裂しました。
「くぅぅ……
腹を水面に打ちつけた時の『バチンッ』って感じの音がして……痛えぇ。エビぞり状態で硬直してしまった。
「ねおりんも
「なんか楽しそうね~」
「痛いんだってば。なに、アンジー妬いてるの?」
「ふ~ん……私も蹴り入れてよい?」
「やめてさしあげてください。ウチの
二人が得た情報をすり合わせると、結果的にアンジーの説である“対価の存在”が正しいと証明される事になった。
しかしそれは個人差があり、そのふり幅はまさしくピンキリ。能力を使うと頭痛が起こる等の軽いものから、最悪の場合は寿命そのものを縮めてしまう可能性もあるそうだ。
「なるほどね。女神さんが拒んだ理由がわかったわ」
「うん、うかつに覚醒なんてやるものじゃないって事だね」
「でもよ、それでさっさと終わらせて帰れるならいいんじゃね?」
新生のこの一言はある意味正論なのだが……
「それが、そうもいかないんだよ。
「そのくらいどうって事は……」
この一言で、やはりなにもわかっていないと察してしまった。
今回ばかりはJKだからとかそいう言い訳は通用しない。むしろしっかり教えないと駄目な事なのだろう。
……それはアンジーも同様に感じたらしく、新生の言葉を遮って話し始めた。
「どうって事があるんだよ。その寿命ってどのくらい削られるのかって話だ。二〇年とか三〇年とか、もしかしたら五〇年縮まっているかもしれないだろ?」
新生はここにきて初めてリスクの重さに気がついた。なにか言いかけようとしてなにも言えず、結局言葉をなくしたまま話を聞いていた。
「
「それは……」
うつむく新生。多分今、残った母親が嘆き悲しむ姿を想像しているのだろう。
「だから、ウチたちの力が足りなくて、もしどうしても“覚醒”なんて力に頼らなければならなくなったら、それはウチかアンジーがやればいい」
「あ~、八白さん……」
「ん?」
「私も“覚醒”って無理なんだ」
「……マジ?」
まあ、新生を納得させるために言っただけだから、そもそもアンジーにもやらせる気はない。
これは自己犠牲なんてカッコイイもんじゃなくて、単に仲間が不幸になるのを見るのが辛いってだけなんだ。
「アンジーも帰ってからの事があるからね」
「ああ、そういう意味じゃなくてね、その……なんというか……」
……こんな煮え切らない態度は珍しいな。どうしたんだろ?
「神さんに言われて初めて気がついたんだけどさ……」
「うん」
「私、
ったく、『らしいよ?』じゃないっての。『気がついていませんでした』とかマジないわ。
ホントいつもいつもアンジーってつくづく……
「アホかぁ!」
「ひっど!」
「馬鹿だろ、死ねよ!」
「もっとひっど!」
実はこの時、ちょっと怖いことを考えてしまっていた。
もし『妹アンジーのリスクが“寿命”だったら』と。
可能性としてゼロじゃないってくらいだろうけど、のんびり構えていられないし、でもアンジーには話せないし。
……う~ん、正解が見えないぞ。
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(注)御居処-おいど-
「尻」を意味する言葉。京都弁や大阪弁、近畿地方の方言として使われている。