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第133話・らしいよ?

 アンジーと初代はつしろ新生ねおがそれぞれの神さんに『覚醒とはなんぞ?』と尋ねてくれている。


 お互いの会話が混ざらないように、十メートルほど距離を取っているんだけど……


「はたから見ると、ひとりでブツブツ言っているだけなんだよな。アブナイ人たちやで~」


 なんとなく二人を交互に見ていたら、ウチの視線に気がついたアンジーがアゴチョキでドヤってきた。


 なにかわかったというサインなのだろうか。……いや、アンジーのことだ、単にからかっているだけかもしれない。


「相変わらず行動が読めねぇな~」 

「なにやってんだ、あいつは」


 新生もアンジーの挙動にはツッコミを禁じ得ないようだ。


「お、ねおりん、情報貰えた?」

「ああ、意外にアッサリと……。っておい、今なんつった」

「ん?  え~と。……ねおりん?」


 ……新生の蹴りがウチの尻に炸裂しました。


「くぅぅ……新生ねおたん、本気で蹴っただろ」


 腹を水面に打ちつけた時の『バチンッ』って感じの音がして……痛えぇ。エビぞり状態で硬直してしまった。


「ねおりんも新生ねおたんもやめろ!」

「なんか楽しそうね~」

「痛いんだってば。なに、アンジー妬いてるの?」

「ふ~ん……私も蹴り入れてよい?」

「やめてさしあげてください。ウチの御居処おいどさん(注)が泣きそうです……」


 二人が得た情報をすり合わせると、結果的にアンジーの説である“対価の存在”が正しいと証明される事になった。


 しかしそれは個人差があり、そのふり幅はまさしくピンキリ。能力を使うと頭痛が起こる等の軽いものから、最悪の場合は寿命そのものを縮めてしまう可能性もあるそうだ。


「なるほどね。女神さんが拒んだ理由がわかったわ」

「うん、うかつに覚醒なんてやるものじゃないって事だね」

「でもよ、それでさっさと終わらせて帰れるならいいんじゃね?」


 新生のこの一言はある意味正論なのだが……


「それが、そうもいかないんだよ。新生ねおたん、例えば最悪のリスクのひとつとして“寿命が縮む”ってのがあるっしょ?」

「そのくらいどうって事は……」


 この一言で、やはりなにもわかっていないと察してしまった。


 今回ばかりはJKだからとかそいう言い訳は通用しない。むしろしっかり教えないと駄目な事なのだろう。


 ……それはアンジーも同様に感じたらしく、新生の言葉を遮って話し始めた。


「どうって事があるんだよ。その寿命ってどのくらい削られるのかって話だ。二〇年とか三〇年とか、もしかしたら五〇年縮まっているかもしれないだろ?」


 新生はここにきて初めてリスクの重さに気がついた。なにか言いかけようとしてなにも言えず、結局言葉をなくしたまま話を聞いていた。


新生ねおたんはさ、元の時代に戻ったら母親を看なきゃならないんだろ? それでもし自分が先に逝ったらどうなるんだよ」

「それは……」


 うつむく新生。多分今、残った母親が嘆き悲しむ姿を想像しているのだろう。


「だから、ウチたちの力が足りなくて、もしどうしても“覚醒”なんて力に頼らなければならなくなったら、それはウチかアンジーがやればいい」

「あ~、八白さん……」

「ん?」

「私も“覚醒”って無理なんだ」

「……マジ?」


 まあ、新生を納得させるために言っただけだから、そもそもアンジーにもやらせる気はない。


 これは自己犠牲なんてカッコイイもんじゃなくて、単に仲間が不幸になるのを見るのが辛いってだけなんだ。


「アンジーも帰ってからの事があるからね」

「ああ、そういう意味じゃなくてね、その……なんというか……」


 ……こんな煮え切らない態度は珍しいな。どうしたんだろ?


「神さんに言われて初めて気がついたんだけどさ……」

「うん」

「私、


 ったく、『らしいよ?』じゃないっての。『気がついていませんでした』とかマジないわ。


 ホントいつもいつもアンジーってつくづく……


「アホかぁ!」

「ひっど!」

「馬鹿だろ、死ねよ!」

「もっとひっど!」


 実はこの時、ちょっと怖いことを考えてしまっていた。


 もし『妹アンジーのリスクが“寿命”だったら』と。


 可能性としてゼロじゃないってくらいだろうけど、のんびり構えていられないし、でもアンジーには話せないし。



 ……う~ん、正解が見えないぞ。






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(注)御居処-おいど-

 「尻」を意味する言葉。京都弁や大阪弁、近畿地方の方言として使われている。


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