PM 4:25
学校から帰宅し、自室の学習机の上にスクールバッグを置いたシゲミ。直後、部屋の扉が開き、シゲミの祖母・ハルミが入ってきた。迷彩柄の戦闘服を着て、長い白髪を後ろで1つに束ねている。
ハルミ「シゲミ、仕事じゃ。手を貸せ」
シゲミ「どんな?」
ハルミ「推定体長60mのバカでかい怪異・デイダラボッチの駆除」
シゲミ「ウルトラマン並みね。けど大きな標的の駆除はババ上の得意分野でしょ?私の出番あるの?」
ハルミ「うむ。アタシャのステルス爆撃機で上空から攻撃すれば一瞬で片付く依頼だと思って引き受けたんじゃが、そう簡単にはいかんようでな。そのデイダラボッチが
シゲミ「重要な場所なのね」
ハルミ「詳しくは教えてくれんかったが、古い時代に生きた権力者の墓が埋まっていると専門家が推測しとるらしい。で、発掘調査をしたいが近づこうとするとデイダラボッチが山を守るように暴れるそうじゃ。60mもあるデカブツが散歩するだけでも脅威。地上から接近するのはまず不可能と判断し、上空から攻撃するべくアタシャに白羽の矢が立ったといわけじゃ」
シゲミ「クライアントは?」
ハルミ「怪異研究機関『
シゲミ「あそこか……新設したばかりで、ババ上を雇えるほどの資金があるとは思えないのだけれど」
ハルミ「おそらく『魎』は二次請けか三次請けじゃろう。目的は墓の調査ということは、歴史研究をしている民間組織や大学、地方自治体、企業なんかが真のクライアントで、協力してアタシャに依頼できるだけの予算を捻出したのだと考えとる」
シゲミ「『魎』って得たいが知れないからあまり関わりたくないんだけど、元請けが別の組織ならまだ信用できるかも」
ハルミ「お前とキリミ、サシミが良い働きをしたことで、『魎』はアタシャら一家をかなり気に入っとるようじゃな。クライアントが増えるのは良いことじゃ。たんまり搾り取ってやろう」
シゲミ「私は何をすれば良い?」
ハルミ「道中で話す」
シゲミ「どうせ無茶なことさせるつもりでしょ?」
ハルミ「よくわかっとるな。リスクが高い分、お前への報酬もたんまり弾むぞ。アタシャが受け取る報酬の10%でどうじゃ?」
シゲミ「……20%」
ハルミ「ふむ。まぁええじゃろう。着替えるか?」
シゲミ「不要。ブレザーが私の戦闘服」
ハルミ「ならばすぐに出発するぞ」
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上空3000m
夕日で赤く染まった空をカラスのように飛行するステルス爆撃機。コックピットにはマイク付きヘルメットを被って並んで座るハルミとシゲミ。
ハルミ「間もなく目的地、
シゲミ「はぁ……あまりやりたくないのよね。結構怖いから」
ハルミ「ターゲットのデイダラボッチまではアタシャが誘導する」
シゲミ「
シゲミは座席にヘルメットを置いて、爆撃機の後部へ移動した。
ハルミがコックピットのボタンを操作し、ステルス爆撃機下部のハッチを開く。
ハルミ「今じゃシゲミ、飛べ」
ヘッドセットを頭につけ、パラシュートリュックを背負い、左肩にスクールバッグをかけたシゲミがハッチから空へ飛び出した。
猛スピードで落下し、雲の中を突き抜けるシゲミ。ヘッドセットからハルミの声が流れる。
ハルミ「山の南西部、岩肌が露出している箇所にデイダラボッチを確認。体を丸めて岩に擬態しとるが、周りのと若干色が異なる。茶褐色の岩が見えるか?それがターゲットじゃ」
シゲミは眼下の親友山を見回す。ハルミの言う岩肌が露出している地帯が見えた。茶褐色の巨大な岩らしきものもその目で捉える。
シゲミ「ターゲットを確認」
シゲミはパラシュートを開き、大きく上昇。落下速度を緩めながら茶褐色の岩らしきものの上に着地した。背中からパラシュートリュックを下ろす。その瞬間、岩らしきものが震動を始めた。シゲミが着地した衝撃でデイダラボッチが目を覚ましたのだ。大きな揺れで体勢を崩すシゲミ。振り落とされないようしゃがむ。
デイダラボッチが立ち上がった。体毛が一本もない裸の成人男性のような怪異。身長はハルミの言ったとおり、60mほどある。シゲミが着地したのはデイダラボッチの頭の上だった。
デイダラボッチの右手が頭上にいるシゲミに向かって振り下ろされる。シゲミはスクールバッグに左手を突っ込むとC-4を取り出し、デイダラボッチのはげ頭に貼りつけると、首の後ろに移動。ギリギリで巨大な右手を避ける。そして首の後ろにもC-4をセット。デイダラボッチの体を螺旋状に伝って下りながら、左肩、左胸、右脇腹、腰、股間、右太もも、右ふくらはぎにそれぞれC-4を貼りつけた。
地面に降りたシゲミは、デイダラボッチの踏みつけ攻撃をかわしながら近くの岩の陰に逃げる。デイダラボッチから充分に距離を取ったのを確認すると、スカートの右ポケットに入れていた黒い円筒形の起爆ボタンを押した。
デイダラボッチの体に貼りつけられたC-4が一斉に爆発し、その体をバラバラに吹き飛ばす。地面を揺らしながらデイダラボッチの肢体が落下した。