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守護者②

バラバラになって地面に落ちたデイダラボッチの肢体が全て霧散し始めた。シゲミはヘッドセットでハルミに連絡を入れる。



シゲミ「ターゲットダウン」


ハルミ「よくやった。周辺の破壊を極力防ぎながら怪異を爆殺する『ピンポイントシゲミミサイル作戦』、成功じゃな」


シゲミ「人を爆発物みたいに扱わないでくれるかしら?」


ハルミ「お前がいる地点は大きな岩が密集していて着陸できん。着陸可能なポイントを見つけたら連絡する。そこで合流するぞ」


シゲミ「りょう……ちょっと待って」



デイダラボッチの肢体が作り出す霧の中、何者かが歩く陰が見えたシゲミ。霧を突っ切って現れたのは、うす汚れた死装束をまとった骸骨がいこつ。全身に皮と筋肉は一切残っていない。その左腰には、さやに入った日本刀を帯びている。



骸骨「守らねば……我が友との再会の地」



シゲミは再びマイクに向かって語りかける。



シゲミ「骸骨の風体ふうていをした怪異が出現。日本刀を所持。ババ上、何か聞いてる?」


ハルミ「いや知らんぞ。なんじゃソイツ、こわっ」



右手で刀のつかを握る骸骨。シゲミはスクールバッグに左手を入れ、臨戦態勢を取る。



シゲミ「アナタ誰?」


骸骨「我が名、田代次郎左衛門たしろじろうざえもん……友との再開の地を守る者なり」



骸骨は目にも留まらぬ速度でシゲミとの距離を詰め、抜刀。後退して日本刀の軌道から逃れるシゲミ。しかし刃の先端がシゲミのブレザーの胸元を浅く切り裂く。


シゲミは手榴弾を取り出し、足下に放った。2人の間で爆発する。手榴弾が作った爆煙に紛れ、シゲミは近くの岩の陰に身を潜めた。骸骨はシゲミが投げたものが爆弾だと勘づき、爆発に巻き込まれない距離まで瞬時に下がっていた。


ヘッドセットからハルミの声が流れる。



ハルミ「シゲミどうした?」


シゲミ「戦闘発生。ババ上、一旦通信を切る。しゃべりながら戦う余裕はなさそう」


ハルミ「わかった。アタシャが行くまで持ちこたえろ」



ヘッドセットを外しスクールバッグの中に仕舞うシゲミ。同時に手榴弾を2つ取り出し、口で安全ピンを咥えて抜くと、岩陰から身を出しながら骸骨に向かって投げつける。骸骨は下がることなく手榴弾へと突っ込み、刀を素早く何度も振り回した。空中で手榴弾が細切れになり、爆発しない。



シゲミ「何っ!?」



骸骨は勢いそのままにシゲミとの間合いを狭めると、刀を上から下へ振り抜いた。刀がシゲミの右肩を深く傷つける。傷口から飛び出た血が岩肌にかかった。



骸骨「約束の地を荒らす者……何人たりとも切り捨てる」


シゲミ「手榴弾が効かないなら……」



シゲミはスカートをまくると、左の太ももにベルトで巻きつけていた閃光手榴弾を手に取ってピンを抜き、自身の背後で破裂させた。強い光が骸骨の視界を奪う。刀を持った右腕で顔を覆う骸骨。光が収まったときには、シゲミは姿をくらませていた。


再び別の岩陰に身を隠したシゲミ。顔だけチラリと出し、骸骨の背後を覗く。



シゲミ「閃光手榴弾の光エネルギーだけでは成仏しないか……より高火力な爆撃を至近距離で発生させなければ」



作戦を考えるシゲミだが、頭が上手く回らない。大量に血を流したことで疲弊していた。岩を背にしてしゃがみ込む。追い込まれている自身の状況を見てシゲミは、敵が今まで戦ったどの怪異よりも強いことを認識する。普通に戦っていては勝てない。相打ち覚悟で自爆特攻することも視野に入れる必要がある。


必死で思案するシゲミの背筋に冷たいものが走った。振り返ると、シゲミが背にして隠れていた岩の上に骸骨が立っている。



シゲミ「なぜ?……血か!」



シゲミが閃光手榴弾を投げた地点から岩陰まで、ところどころ血が垂れていた。シゲミの肩口から流れ出た血が道しるべを作っていたのだ。


距離を取ろうとするシゲミだが、足がもつれ、尻餅をつく。骸骨が岩から飛び降り、倒れたシゲミの上にまたがった。



骸骨「覚悟……」



骸骨がシゲミの首を斬り落とすように刀を横に振る。



ハルミ「シゲミぃぃぃっ!!!」



ハルミが骸骨の背中をドロップキックで蹴り飛ばした。シゲミの体の上から離れ、前のめりになる骸骨。ハルミが作り出した隙を見逃さず、シゲミが手榴弾を3つ、骸骨の足下へと投げる。動けないシゲミをハルミが右脇に抱え、岩の上へ飛び乗った。


シゲミが投げた手榴弾が骸骨を巻き込んで爆破。骨をパズルピースのように粉々に砕いた。



シゲミ「ババ上……助かった」


ハルミ「間一髪じゃったのう」



ハルミとシゲミが乗る岩のすぐ下に、骸骨の頭部が転がってきた。頭部は原型を残しており、意識を留めている。



ハルミ「ちょっと待っとれよ、シゲミ。トドメを刺してくる」



岩から飛び降り、骸骨の頭を左足で踏みつけるハルミ。骸骨は口をカタカタと動かし、言葉を発する。



骸骨「我が友との誓い……果たせなかった……」


ハルミ「誓いとは、ここにあるという墓を守ることか?」


骸骨「この地に戻ると友は約束してくれた……そのときまで守り続けることが我が使命……」


ハルミ「墓は壊しはせん。未来永劫、保護され続けるだろう。じゃから安心してけ」


骸骨「……友に……謝罪をせねば」


ハルミ「その友ってのは誰じゃ?」


骸骨「……ポコポコ様」


ハルミ「ふん、邪神か。そんなヤツとの縁はさっさと切れ」



ハルミは骸骨の頭を踏み潰した。



−−−−−−−−−−



遠く離れた、東京都の島嶼とうしょ地域にある喉具呂のどぐろ

オカルト雑誌ライター・筆見ふでみ サツキとともに埠頭ふとうを散歩していたポコポコが足を止める。そして夕日が沈みかけている水平線の向こうを眺めた。



サツキ「ポコポコくん、どうしたの?」


ポコポコ「なんか、一瞬だけ寂しい気持ちがした。大切な何かを失ったような」


サツキ「何かって?」


ポコポコ「う〜ん、どうも思い出せへんなぁ。まぁ大したことやあらへんのやろ。あっ、ちなみに今の質問もインタビューとして取材料もらうでぇ」


サツキ「せこい〜!」

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