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お見舞い②

シゲミ「ごめんなさい歯砂間はざまさん。ポコポコを仕留められなくて」



深刻な表情でうつむくシゲミを見つめ、微笑む歯砂間。



歯砂間「らしくないんじゃない?そんなに落ち込むなんて」


シゲミ「怪異と真っ向から戦って負けたの、初めてだったので」


歯砂間「ポコポコは怪異なんて言葉で表すのも不適切なほど人智を超えた存在。私も充分に危険性を熟知していたつもりだったけど、想像以上だった。あんなのと戦って勝てる人間、この世にいないよ。むしろ私のほうこそ申し訳ないあんなバケモノと戦わせるなんて無茶をシゲミさんにさせてしまった」



軽く頭をさげる歯砂間。



シゲミ「いえ別に……それから『りょう』での歯砂間さんの処遇も気になってます。多くの犠牲を出した上にターゲットを仕留められなかった。その責任が全て歯砂間さんにのしかかってるんじゃないかと思って」


歯砂間「あー、それこそ全く気にしなくてオッケー。本来なら責任を取って降格処分か最悪クビだったんだけど、本部に『研究員の混堂こんどうが作戦に割り込みましたー』とか、『混堂は本部の指示だと言っていましたー』とかって報告したら、アイツら黙っちゃって。結果、私のミスではなく混堂のせいってことになり、私は市目鯖しめさば支部長で据え置きになった。死人に口なし。混堂には悪いけど、死んでも利用させてもらったよ」


シゲミ「よかった。今後『魎』としてはポコポコをどうするつもりなんですか?」


歯砂間「駆除はせず、喉具呂のどぐろ島に隔離する方針へと切り替わった。海上保安庁に協力を要請し、喉具呂島の周囲5kmの海域を封鎖。まぁ打倒な措置だね。これでポコポコが島を出ない限り民間人がヤツに接触することはまずない」


シゲミ「それは組織としての方針ですよね?歯砂間さんとしては?」


歯砂間「もちろんポコポコの駆除に動く。個人的にね。やられたままってのは性に合わないんだ。『魎』に所属していればポコポコの動きに関する情報も入ってくる。その情報をもとに頃合いを見て再度ポコポコを奇襲する。リベンジ、シゲミさんもしたいよね?」



ふぅっと息を吐くシゲミ。



シゲミ「やっぱり、歯砂間さんは私と同じ意見だと思っていました。でも今のままではポコポコに勝てない。だから私は仲間を集め、ポコポコ暗殺チームを作ります。歯砂間さんにはチームの指揮官になってもらいたい」



シゲミの提案に目を丸くする歯砂間。集団行動が苦手だという理由で「魎」への加入を断ったシゲミから「仲間」という言葉が出てくるとは思わなかったのだ。



歯砂間「……とてもありがたい提案。ポコポコと戦っていない私が戦力を集めようにも、最適な人材を見つけられるかわからない。けれど実際にポコポコと戦闘をしたシゲミさんなら適切な仲間を見つけ、然るべきチームを作り上げられる……」


シゲミ「一蓮托生といきましょう」


歯砂間「では、改めてよろしくね」



右手を差し出す歯砂間。シゲミはその手を握り返す。



歯砂間「シゲミさんから協力の提案をしてくれるの、本当にうれしい。だけど私のことを心から信頼してくれているかというと違う。だよね?」


シゲミ「歯砂間さんには、まだ私に話していないことがたくさんあると思っています」


歯砂間「何を話せば信頼してもらえるかな……たとえば、シゲミさんが知りたがっていた『魎』の創設者と設立の理由なんてどうだろう?組織外の人間には話しちゃいけないことになってるんだけど」


シゲミ「大丈夫なんですか?」


歯砂間「それくらいの機密事項を伝えることが私への信頼につながるなら話す。もっとも、私はこれから『魎』の方針に背いてポコポコと戦おうとしてるわけで、バレたら今度こそクビ。隠し続ける必要もない」


シゲミ「……ぜひ聞かせてください」



足を組み、太ももの上に両手を組んで置く歯砂間。



歯砂間「私が知っていることはごく一部。まず『魎』の創設者は、とある資産家と言われている。その人物の顔と名前を知っているのは上層部の数人だけ。決して表には出てこない」


シゲミ「個人が立ち上げた組織だったんですね」


歯砂間「設立してまだ数カ月だというのに職員の数は1000人近い。現状、組織としては赤字で創業者の資金で人件費や設備費などを賄っている。相当な金持ちなんだろうね。そんな人物が怪異の駆除・出現防止を目的とした組織を作ったのは、身内が怪異に殺されたからだと聞いている」


シゲミ「復讐ってことですか。ならば大金をはたいてゼロから組織を立ち上げなくても、私たち殺し屋に依頼すれば良いのに」


歯砂間「殺し屋は怪異を仕留めるけれど、レスキュー部隊ではないから被害者を助けるとは限らない。一方『魎』は怪異の根絶による人々の救済を目的としている。創設者が怪異の被害者だからこそ、こういう目的を掲げているんだと思う。同じように家族や知り合いを怪異に殺されたため、『魎』の方針に賛同して入社した職員もたくさんいる」


シゲミ「怪異専門の殺し屋と『魎』、やっていることは近いけど実体はまるで違う。私たち殺し屋は怪異がいなくなれば仕事を失い食っていけなくなる。だから依頼がなければ基本的に動かない。けれど『魎』は自発的に怪異を駆除し、怪異のいない世界を作ろうとしている……」


歯砂間「そう。『魎』の活動が進み怪異の数が減少、あるいはゼロになればシゲミさんたち殺し屋は仕事がなくなる。実は相反しているのよね」


シゲミ「怪異を根絶し、発生を防ぐなんてことできるのかしら?」


歯砂間「さぁね。私は金払いが良いから入っただけで、心の底から『魎』に賛同しているわけじゃない。でもポコポコに関しては別。あれは駆除しなければ、もっと大きな問題になる……私が知ってることはこんな感じ。信頼してくれた?」


シゲミ「10%くらい」


歯砂間「渋いね。まぁ、ゆっくり打ち解けていきましょう。とにかく今はお大事にね」



歯砂間は椅子から立ち上がり、「じゃあね」と言い右手を振ると病室から出て行った。



<お見舞い-完->

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