ミツル「同じクラスに、マサカズっていう子がいるんだ。背が大きくて、いつも何人かの取り巻きと行動してる。ずっと前からその子たちに暴力を振るわれてて……」
キリミ「なんで?」
ミツル「ボク、根暗で友達がいないし、運動が苦手だし。勉強は得意なほうだけど、それがむしろマサカズくんの
キリミ「そうか?イジメやってるヤツとか、アタシみたいに理由なく学校サボってるヤツとかよりよっぽど素晴らしい小学校ライフを送ってると思うけどな」
ミツル「先生にも『もっと同級生と交流しろ』って言われてて……先生から見てもボクはダメ人間なんだよ」
キリミ「友達って必要か?アタシも友達いないけど何も困ることはないし、アタシの姉貴も友達いないって言ってるけど毎日生き生きしてる。先公がマニュアル通りの指導をしただけだろ。そんなボンクラ教師の言うこと真に受ける必要はねぇ……って今さら遅いか」
涙を流し始めるミツル。
キリミ「いじめられてることは誰かに相談しなかったのか?ボンクラ教師にはしても無駄だっただろうが、親とか、カウンセラーとか」
ミツル「できなかった……言うのが恥ずかしいこともたくさんされたし……」
キリミ「なら学校なんてサボれば良かったのに。ただでさえゴミの掃きだめみたいな空間なんだ。イヤな思いしながら行く必要なんてねーだろ?」
ミツル「ボク、中学受験をする予定だったんだ。合格には内申点も重要だってお母さんに言われてたから、学校は休めなかった」
キリミ「命より進学のほうが大事なのかよ。理解できねーな」
ミツルの瞳からあふれる涙の量が増える。
キリミ「死ぬ直前のこと、覚えているか?」
ミツル「……マサカズくんに校舎裏に呼び出されて。行ったらマサカズくんと仲間が5人いて、殴ったり蹴ったりされた。一瞬、頭がものすごく痛くなって、気がついたら動かなくなる自分の体が見えて……ボクは幽霊になってた」
キリミ「そっか。お前はいじめられて死んだのであり、怪異が原因じゃない。ならばアタシが出る幕でもないんだが……こんな話を聞いて黙っていられるほど冷静な人間でもない」
ミツル「……」
キリミは朝礼台の上から降り、笑顔でミツルのほうを向く。
キリミ「お前はよく頑張ったよ。直に見たわけじゃないけど、多分頑張った。後のことはアタシに任せとけ」
両腕の
ミツル「……ありがとう。もっと早くキリミさんに会えてたら、ボクの人生ちょっとは変わってたかも」
キリミ「それは考えるだけ無駄だな。アタシは学校に行っててもまず会えないレアキャラだから」
ミツルは上半身をひねり、朝礼台の後ろにある校舎を指さす。ミツルの指先が示す方向を見るサシミ。
ミツル「校舎の裏に花壇があるの、わかる?ボクはそこにいる。ボクを見つけてほしい」
キリミ「花壇だな。ああ、わかっ」
キリミが返答を終える前にミツルは姿を消していた。
キリミ「……アタシが嫌いな、スッキリしない
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翌日 AM 8:21
前側の扉を勢い良く開けて入室するシゲミ。教室にいた児童たちの視線が一斉にキリミに注がれる。
キリミ「マサカズってヤツいるか?」
最後列の座席にふんぞり返って座る男児が右手を高く上げ「オレだけどぉ」と気怠そうに返事をする。マサカズの座席を囲むように男子児童が5人立っていた。
キリミはマサカズの席へ近づき、取り巻きたちをにらむと「どけ」と一喝。小学生とは思えぬ剣幕に面食らった取り巻きたちは後ずさる。生まれたスペースにキリミが立ち、マサカズと向かい合った。
マサカズ「何の用だよ?ていうかお前誰だよ?」
キリミ「
表情が引きつり、額に汗をにじませるマサカズ。周りの取り巻きたちも同じようなリアクションをしている。
キリミ「ミツルを
机を左横に蹴り飛ばし、椅子から立ち上がるマサカズ。その身長はキリミより頭1つ分高い。
マサカズ「はぁ?アイツは行方不明なだけだろ!殺されたと決まったわけじゃない!もし殺されてたとして、オレたちがやった証拠がどこにある?」
キリミはズボンの右ポケットからスマートフォンを取り出し、マサカズに画面を見せつけた。映っているのは、花壇の土から露出したミツルの頭の上半分。黒目が左右別々の方向に向いている。
キリミ「花壇に埋められていたミツルの死体だ。お前らがやった証拠は、いま警察に探してもらってるところだよ。こんな
マサカズは唇を震わせながら1歩後ろに下がった。マサカズが座っていた椅子が倒れる。スマートフォンをポケットにしまうキリミ。
キリミ「イジメなんてダセェことやってんじゃねぇよ。暇ならアタシが相手してやる。ただしテメェらはこれから何年もブタ箱の中でもっと暇になるがな」
マサカズ「ふ、ふざけんじゃねぇぇぇっ!」
キリミの腹部目がけて殴りかかるマサカズ。しかしその右拳はキリミの左手につかまれ、腹部には達しなかった。キリミはマサカズの右手首を外側へ思い切りねじる。痛みでマサカズの表情が歪んだ。
キリミ「傷跡が見えないよう服に隠れる部分を殴るのがイジメの定石なんだろ?アタシも真似させてもらうぜ」
キリミはマサカズのみぞおちに右肘を入れる。マサカズは白目を剥き、その場に倒れ込んだ。意識を失っており口からよだれを流している。取り巻きたちは顔を引きつらせたまま、誰もマサカズに駆け寄ろうともしない。
キリミ「周りのヤツらは手を下すまでもない腰抜けだな。警察が来るまで震えて待ってろ」
キリミはマサカズの背中を踏んづけて教室の後ろ側の扉へ向かい、5年3組を後にした。
<埋められた真相-完->