3日後 PM 7:24
東京都内某所
店内の灯りが消えたパン屋『
男性は目の前のガードレールに寄りかかるブレザー姿のシゲミと目が合った。
シゲミ「
鷹見沢「……爆弾魔シゲミ、だよね?近いうちに挨拶に行こうと思ってたんだけど、もう俺のこと見つけた上に名前まで調査済みとは。恐れ入ったよ」
シゲミ「アナタと少しお話ししたいの」
鷹見沢「俺も話したいことがある。カフェにでも入ろうか」
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PM 7:37
カフェ店内の丸テーブルを挟んで座るシゲミと鷹見沢。シゲミから見てテーブルの右横に、鷹見沢が背負っていたチェロケースが立てかけられている。そしてシゲミの目の前にはホットミルク、鷹見沢の目の前にはアイスコーヒー。
シゲミ「良いんですか?おごってもらっちゃって」
鷹見沢「社会人の財力をなめないでよ。それに割り勘は女性からするとめちゃくちゃマイナス印象なんでしょ?」
シゲミ「いや別に」
鷹見沢「……怪異専門の殺し屋に常識は通用しないってわけか」
シゲミ「早速ですけど、いくつか質問させてください」
鷹見沢「待った。まずは俺のほうから聞かせてもらっていいかな?知りたいことは1つだけだから」
シゲミ「なんです?」
鷹見沢「どうやって俺のことを突き止めた?この前は俺の顔を見ていなかったはず」
シゲミはスカートの右ポケットから
シゲミ「調べ物が得意な身内がいましてね。弾頭に残った指紋と、猟銃・空気銃の所持許可証を持っている人物を照合して、鷹見沢さんを見つけました」
鷹見沢「すげーな。殺しの腕だけじゃなく諜報活動も一流か」
シゲミ「そのチェロ用ケース、
チェロケースの上部を左手で触る鷹見沢。
鷹見沢「ご明察。狙撃手にとって銃は命と同じくらい大切だ。外に出るときは肌身離さず持ってるよ。もちろん
シゲミ「アナタも怪異専門の殺し屋なんですね?」
鷹見沢「一応ね。といっても3カ月前に始めたばかり。まだまだひよっこだよ」
シゲミ「どうして殺し屋に?」
鷹見沢「求人雑誌で広告を見つけたんだ。とある寺が募集しててさ。『怪異を狙撃できる人募集』って」
シゲミ「そんなおおっぴらに募集してるのね」
鷹見沢「俺、普段パン屋でバイトしてるんだけど、それだけじゃ生活が厳しくてさ。ほら、最近何でも値上がりしてるでしょ?ジャムもバターもチーズも。だから副業を始めようと思ったわけ。で、俺に最適な求人があったから応募して、晴れて殺し屋デビューした」
シゲミ「……お寺が怪異専門の殺し屋を募集してるっていうのが気になる。弾が邪気をまとっていたのと関係がありそうですね」
鷹見沢「うん。その寺の住職が弾丸に悪霊の魂を憑依させてるんだ。弾丸に憑依した悪霊の邪気で怪異の邪気を相殺し、射殺する。俺の前任者がいて、寺と組んで怪異を駆除していたらしいんだが、老衰でくたばっちまったんで後任を探してたんだって」
シゲミ「なるほど」
鷹見沢「実際に戦場で人の命を奪ってきた弾丸だと悪霊が宿りやすいらしい。だから太平洋戦争まで旧日本陸軍で重用された三八式実包と、それ専用の三八式歩兵銃を使ってる。古い銃だけど反動が小さくて撃ちやすい。構造がシンプルで手入れしやすいのも魅力だよ」
シゲミ「鷹見沢さんがライフルを使えるのはなぜ?」
鷹見沢「12歳までカナダで暮らしてて、休日は親父と一緒にライフル片手に森でヘラジカやグリズリーを狩ってた。日本に戻ってきてしばらく銃からは離れていたけど、大学に射撃部があってね。競技としてライフル射撃を再開したってわけ。インカレで優勝したこともある」
考え込むシゲミ。鷹見沢の話からすると高い射撃能力を持っていることは間違いない。実際にシゲミも、1発で怪異を仕留めたその腕前を目の当たりにしている。シゲミの中でポコポコを打倒するための仲間候補として鷹見沢の評価が上がった。
一方で、仲間に引き入れる前にハッキリとさせておきたい点がまだ残っている。シゲミはホットミルクのカップを持ち、一口飲んだ。