シゲミ「先日、
鷹見沢はニット帽の上から右手で頭をかく。
鷹見沢「少し長い話な上に情けない話でもあって……寺との契約は完全出来高制なんだが、案件がとても少ない。しかも悪霊を込めた
シゲミ「先輩……」
鷹見沢「シゲミさん、キミたち家族のことはすぐに調べられたよ。住所もネットで出てきたし、全く潜伏してないんだね」
シゲミ「ええ。もしウチに乗り込んでくる人がいたら返り討ちにすればいいだけだから」
鷹見沢「……そんなこんなで、先輩殺し屋であるシゲミさんのこと見つけて尾行し、俺の狙撃をアピールできるタイミングを見計らってた。口であれこれ説明するより、実演したほうが説得力あるでしょ?百聞は一見にしかずってやつ」
シゲミ「たしかに」
鷹見沢「申し訳ないなと思いつつ、寒部利ゼミナールに出る怪異を横取りさせてもらった。本当はすぐその場で挨拶しようと思ってたんだけど……変な触手のバケモノに追いかけられて、それどころじゃなかった。あんなに超高速で動くヤツ、ライフルじゃ仕留められないよ」
シゲミ「あー、アレは仕留めなくていい怪異ですから」
鷹見沢「まぁ少し遠回りになってしまったけど、こうしてシゲミさんと接触できた」
シゲミ「ここまでは概ね鷹見沢さんの計画通りだったってわけですね」
アイスコーヒーのグラスに刺さっているストローに口をつける鷹見沢。そして続ける。
鷹見沢「でもここから先はどう転ぶか予想できていない。俺がシゲミさんに提案したいのは業務提携。シゲミさんの手が回らない怪異駆除の依頼を俺に回してほしい。もちろんマージンは取ってもらって構わない」
鷹見沢の提案を受け、シゲミはチャンスだと悟る。
シゲミ「とてもありがたい提案。でも私がマージンを取ったら、鷹見沢さんの懐に入る金額が減ってしまう。私は報酬の9割取りますよ」
鷹見沢「マジで?法外過ぎない?」
シゲミ「できれば自分で仕事を獲って、報酬を全額自分のものにしたくないですか?」
鷹見沢「まぁ、そりゃそうだけど」
シゲミ「アナタの名を大きく広め、仕事を獲りやすくするアイデアがあります。私は今、ポコポコという邪神を駆除するために仲間を集めているところ」
鷹見沢「ポコポコ……」
シゲミ「怪異専門の殺し屋や怪異の研究者でポコポコを知らない者はいない。それくらい大きな獲物です。ポコポコを駆除したとなればアナタの名は一気に広まり、今まで以上に仕事が入ってくるはず」
鷹見沢「……」
シゲミ「けれど、ポコポコの駆除は誰かから依頼されたわけではなく私個人で動いている案件。だから報酬は出ない。あくまで将来を見据えての活動になります……鷹見沢さんにとってどっちがメリットがあるかしら?私のおこぼれをちまちまもらい続けるのと、自分自身の名前と実績で仕事を獲得するの……」
鷹見沢「……なるほどね。キミは俺と業務提携なんかする気はない。が、そのポコポコって怪異を駆除する仲間として俺を勧誘しようとしている。カフェに入ってからのやり取りは全部、仲間にするか判断するための面接だったというわけか」
シゲミ「そうですね。そして鷹見沢さんは私の中で文句なしの合格」
鷹見沢「……そこまで言われたら断れないじゃないか。わかったよ。キミの提案を受ける。でも俺がやることは1つ。引き金を引くことだけ。たとえどんな敵が相手でも」
右手を差し出すシゲミ。鷹見沢も右手でシゲミの手を握った。
<狙撃手を仲間にしよう-完->