赤い夕日が見える浜辺に立ちすくむポコポコ。波打ち際で女性が三角座りをしている。ポコポコは後ろから歩み寄り、1mほど間隔を空けて右隣に座る。海風で髪がなびき、女性の顔は口元までしか見えないが、ポコポコにはその人物が
ポコポコ「
水平線を見つめたまま微笑むサツキ。
ポコポコ「オレらの暮らしは守られた。勝利を記念して美味いもの食おうか。何食べたい?」
ポコポコに視線を向けることなく、ただ微笑み続けるサツキ。
ポコポコ「サツキちゃんの食べたいもの、何でも獲ってきたる」
やはりサツキは微笑むだけ。
ポコポコ「もしかして腹減ってへんの?ならちょっくら遊ぶ?何の遊びがしたい?」
微笑むサツキ。
ポコポコ「……何でもええ。何でもええから、答えてよサツキちゃん」
夕日が沈み、空が暗くなった。満天の星が海面に反射する。
サツキは立ち上がり、歩き出した。波に足が浸かるところまで歩くと、ポコポコのほうを振り向く。
サツキ「ありがとう。じゃあね」
サツキが微笑みながら流す涙は、どの星よりも輝かしくポコポコの目に映った。
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ポコポコ「サツキちゃん?」
目を覚ますポコポコ。そこは白い壁に囲まれた広い部屋だった。正面の壁の上半分だけが鏡になっており、ポコポコの腹部から上を映している。
ポコポコは床に固定された木製の椅子に座っていた。椅子から離れられないよう両手足、胸部、腹部にベルトが幾重にも巻きつけられている。全身を負傷し、邪気を使い果たした状態のポコポコでは、この拘束から逃れることはできない。
ポコポコから見て天井の右隅に設置されたスピーカーから「
部屋の鏡はマジックミラーになっており、隣の部屋から駒野と4名の研究員がポコポコを隔離する部屋を覗いていた。駒野の手元にあるマイクは隔離室のスピーカーとつながっており、鏡を隔ててポコポコと会話をすることが可能。
ポコポコは左右を見回し、口を開く。
ポコポコ「どこやここ?」
駒野「ようこそ、怪異研究機関『魎』本部へ。ここは地下30階。怪異を収容している階層の最深部にあたる。キミのような特に危険なヤツを収容するためのフロアだ」
ポコポコ「オレは負けたんか……
駒野「具体的な場所は言えんが、東京都内とだけ言っておこう。キミが暮らしていた
ポコポコ「つまり都会か。イヤやなぁ。都会ってストレスが溜まるんよなぁ。横に広がって道を塞ぐように歩く戦隊ヒーローみたいなヤツらがおったり、バイクのエンジン鳴らしまくって自己主張するセミみたいなヤツらがおったりするやろ?せやから都会はイヤやねん」
駒野「安心しろ。そう易々と外には出さんよ」
ポコポコ「頼まれても出たくないなぁ……だからよぉ、この椅子から解放してくれんか?部屋から外には出ない」
駒野「そうはいかん。少なくともキミの生態調査が済むまではその椅子に座り続けてもらう」
ポコポコ「えー、腰痛いねんけど。上手く力も入らへんし」
駒野「だろうね。それは座った者の生命力を奪う、椅子の形をした怪異だ。キミのような怪異が座った場合、力の源である邪気を吸い取る。その椅子に座っている限り、キミは超人的な力は出せないというわけだよ」
ポコポコ「うざいなぁ」
ポコポコは自身を拘束するベルトを無理やり外そうと体を揺さぶる。直後、全身に電流が走った。激痛がつま先からつむじまで一瞬にして駆け抜け、うな垂れるポコポコ。
駒野「電気椅子というものを知っているかね?アメリカで死刑に使われる代物だ。その椅子も、数多の囚人の命を奪ってきた。電気椅子としての機能は健在。常人にとっては処刑器具だが、キミなら拷問器具として使える……逃げようとすれば、どうなるかわかったかね?」
ポコポコ「ゔぅ……どうせならマッサージ機能でもつけとけや」
駒野「だが我々はキミを痛めつけたいわけではない。生態調査と同時進行になるが、取引をしよう。キミが取引に応じてくれれば椅子の拘束を解いてやる」
ポコポコ「取引?」
駒野「キミはここ数週間、あらゆる怪異を攻撃しまくっていたね。それを続けてほしい。ただし攻撃する怪異は我々が指定する。代わりにキミの生活を保障しよう。その部屋から許可なく出ない限り、住処や食事など全てを提供し続ける……どうかな?」
鏡に向かって笑顔を浮かべるポコポコ。
ポコポコ「イヤやと言ったら?」
駒野「お仕置きの電気ショックだ」
再びポコポコの体に電流が流れた。ポコポコの全身から黒い煙が上がる。
駒野「キミのような狂犬を
ポコポコ「……しっかり躾けろよ。中途半端なことすると噛み殺されるで」