PM 4:04
入口の扉を開き、入室するサエ。実験用の黒い机を挟んでカズヒロとシゲミが座っている。
サエ「おっす〜」
カズヒロ「おつかれー」
シゲミ「こんにちは、サエちゃん」
サエはシゲミの右隣の椅子に座り、机の上にスクールバッグを置いた。
サエ「聞いた〜?最近また校内に怪異が出るようになったって話」
カズヒロ「知らねーな。シゲミのところに駆除の依頼来てる?」
シゲミ「来てないわね」
サエ「まだ実害は出てないらしいけど、夜、明らかに人間じゃない何かが廊下を歩いてるのを見た子がいるんだって〜」
カズヒロ「その手の話はトシキが詳しいだろうなー」
サエ「そういえばトシキは?いつも一番に来てるのに」
カズヒロ「さぁ?セミの抜け殻でも集めてるんじゃねー?」
実験室の扉が勢い良く開き、トシキが息を切らしながら入ってきた。その勢いのまま3人のところに駆け寄り、床で土下座をする。
サエ「なになになに〜?」
カズヒロ「どうしたんだよ?」
トシキ「異性との付き合い方を僕に教えてください」
サエ「はぁ?何言ってんの〜?ウケる〜」
シゲミ「何があったの?」
頭を上げるトシキ。
トシキ「まさに今日!過去かつてないほど深く恋に落ちたんだ!高校生活、いつどこで恋が始まってもおかしくないでしょう!?」
カズヒロ「まぁそうかもしれないけどよー」
サエ「相手は〜?」
トシキ「僕と同じF組のリオさん」
カズヒロ「F組のリオって、学年一かわいいって言われてる子じゃん」
サエ「私も知ってる〜。渋谷とか原宿とか歩くと1日で5回は芸能事務所にスカウトされるらしいね」
シゲミ「トシキくんの手が届く人じゃないわ。諦めたほうが賢明よ」
トシキ「何を言われても諦めないよ……僕の中で恋の歯車が音を立てて動き始める出来事があったんだ……運命としか言いようがない出来事が……」
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数時間前
2年F組で、くじ引きによる席替えが行われていた。トシキは後ろから2列目の席を引き当てたが、視力が低く黒板の字が見えないため、最前列の男子生徒と交換してもらった。先生の間近である最前列の席を引いた生徒ほど交換してくれやすいことをトシキはよく知っている。
授業をしっかり受けるためとはいえ、最前列の席は良い心地がしないトシキ。自分の目の悪さを呪ったが、ネガティブなことばかりではなかった。トシキの左隣の席が、学年一の美少女と言われるリオだったのである。
茶色いロングヘアは山間を流れる川のように美しく、大きな瞳に対して鼻と口は小さい。小柄だが手足が長くスタイルが良い。漂う香りからは高級なシャンプーやリンス、柔軟剤を使っていることが伺える。
リオに魅了され、見惚れるトシキ。そんなトシキの視線を感じたリオは口を開いた。
リオ「何ジロジロ見てんだよこのゲジゲジ!」
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トシキ「前々からかわいいなとは思ってたけど近くで見るとインパクト絶大だった。その上あんな言葉までかけられたら……もうベタ惚れだよぉ」
カズヒロ「すまん、俺が聞き逃してただけかもしれないけど、今の話で好きになる要素あったか?」
シゲミ「なかったと思うけど、どういう基準で人を好きになるかは十人十色だから」
サエ「経緯はどうあれ、リオちゃんが好きならハッキリ伝えたら良いんじゃない?」
トシキ「今日話したばかりなんだぞ!そう簡単にいくわけがない!」
シゲミ「話したっていうか一方的に罵られただけよね」
カズヒロ「それにリオさんは同性からも人気でさ。休み時間中は常に4〜5人がガードしていて、うかつに話しかけられない」
カズヒロ「友達のことガードって言うなよ。
トシキ「とにかく、現状リオさんとお付き合いするにはハードルが多い!そこでキミたちの知恵を借りたいんだ!」
トシキは再び頭を下げる。
カズヒロ「つっても、俺誰かと付き合ったことねーからアドバイスなんてできねーよ」
サエ「私も〜。告白されたことは何回かあるけど、別に自分から何かしたわけじゃないんだよね〜」
シゲミ「意外かもしれないけど、私も恋愛したことないの。興味もない」
トシキは両目を大きく開いて立ち上がると、右拳を握りしめツバキを飛ばしながら語り出した。
トシキ「なんて陰気なヤツらだ!幽霊だのUMAだのを追いかける前に恋をしろよ恋を!怪異には何歳になっても会えるが、高校での恋愛はこの3年間でしかできなんだぞ!わかってるのかこの少子化促進の元凶ども!」
「同好会の中で一番オカルトに興味津々なのは誰だよ」と思い、呆れるカズヒロとサエ。シゲミは数秒考え込み、「そういえば」と言い、続ける。
シゲミ「私の父と母は高校で出会って付き合い始めたって聞いたわ。父が母にアプローチしたらしい」
トシキ「なんだって!?じゃあシゲミちゃんのお父さんならハイスクールラブを成功に導く素晴らしいアドバイスをくれるかもしれない!ぜひ会わせてくれないか!?」
シゲミ「いいけど、あまり期待しないほうがいいわよ」
トシキ「どんな些細なアドバイスでも
シゲミはスカートの右ポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかけた。