怪異研究機関『
白い壁に囲まれた部屋の中心で電気椅子に縛り付けられたまま座り、目を閉じるポコポコ。隣の監視室では白衣を着た4人の研究員がコンピュータに向かい、ポコポコの生態調査を行っている。
監視室に理事の
駒野「ポコポコの様子はどうだ?」
研究員「収容してから2週間以上、飲食を拒絶しています。サツキという女性に会わせない限り何も摂取しないと
駒野「ハンガーストライキのつもりか。だが万が一ということもある。私が交渉しよう。マイクをつなげ」
研究員は手元のスイッチを押す。駒野はコンピュータの左隣に設置されたマイクに向かって語りかけた。
ポコポコの隔離室に駒野の声が流れる。
駒野「ポコポコ。飲まず食わずでずっと座り続けているそうだな。つらいだろう?」
ポコポコは目を開き、応答する。
ポコポコ「せやな」
駒野「何か要求があっての行動なのだろうが、怪異の中でも『邪神』と呼ばれるキミが飢え死にするとは思えん」
ポコポコ「たしかにメシを食い続ける必要はあらへん。せやけどオレはちょっと特殊でな。食った人間の想像力でできている。つまり人間を食わんとオレという存在は消えてしまうっちゅうことや。オレが消えたらアンタらの企みは全部パーやろ?」
駒野「たしかに、キミの言っていることが本当なら困る」
ポコポコ「オレにとって人間の絶食は超ハイリスク。ハッタリなんかでやらん」
駒野「……要求を言いたまえ。善処しよう」
ポコポコ「サツキちゃんに会わせろ」
駒野「誰だ?」
ポコポコ「
駒野「ああ、あの女性か。彼女なら
ポコポコ「……ほんまか?」
駒野「真実だ。現状、彼女を医務室から動かすことはできない。それに我々としても、キミと民間人を安易に接触させるわけにはいかないのだよ。我々の活動目的は危険な怪異から人々を守ることだからね」
ポコポコ「オレはサツキちゃんを殺したりせぇへん」
駒野「……キミたちに信頼関係があることは理解した。だが彼女の治療が終わるまで会わせることはできない。その間にキミの存在が消えてしまっては、二度と会えなくなってしまうのではないか?」
ポコポコ「……せやな」
駒野「彼女がいつ回復してもいいように、まずはキミ自身の安全を確保しようじゃないか。絶食をやめ、必要な栄養を摂取したまえ。人間が必要だというのなら用意する」
ポコポコ「……ええで。だがサツキちゃんに会わせてくれん限り、お前らの計画には協力せぇへん。忘れんなよ」
駒野「もちろんだ」
マイクのスイッチを切るよう研究員に目で合図を送る駒野。そして研究員の左耳に顔を近づける。
駒野「サツキという女はポコポコをコントロールする餌になる。彼女の死を悟らせるな」
研究員「わかりました」
駒野「それから
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AM 8:25
ショートホームルームの時間になり、担任・
教卓へ向かう皮崎の後ろに男子生徒が一人。皮崎と並び立つその姿は背が高く細身で、若い頃の
皮崎「皆さんに転入生を紹介します。
男子生徒は生徒たちに背を向け、黒板に白いチョークで縦に「青切 ツバサ」と書いた。そして振り返る。
ツバサ「今日からお世話になります。青切 ツバサです。前の学校では陸上部に入ってました。得意科目は……道徳です。どうぞよろしく」
皮崎「青切くん、残念ながらウチの学校に道徳の試験はありません」
教室が生徒たちの笑いで包まれる。そんな中一人、教卓の目の前の席で獲物を狙うピューマのような眼光でツバサをにらみつけるシゲミ。シゲミの視線を感じたツバサは、見つめ返して小さく微笑んだ。
皮崎「一番後ろに席を用意しましたから、そこを使ってください。では皆さん、青切くんと仲良くしてあげてくださいね。わからないこともあるでしょうから、困ってそうなときは助けてあげてください」
ツバサはシゲミの横を通り抜け、最後尾の席に座った。