ツバサの顔がカマキリに変わったのを見て、瞬時にスクールバッグに手を入れるシゲミ。左手に手榴弾を握る。
シゲミ「カマキリ人間!?アナタまさか」
ツバサの鋭く尖った口が左右に開く。
ツバサ「この前は悪いことをしたね。キミの友達を攫おうとして。どうしてもキミとだけ話がしたかったから誘き出そうと思ったんだ。でも強引だったと反省しているよ。だから穏便に話ができるよう、こうして転校してきたんだ」
シゲミ「何が狙い?場合によってはアナタをこの場で駆除する」
両手のひらを開いてシゲミに見えるツバサ。
ツバサ「俺はキミと争うつもりはない。さっき言ったとおり、俺の一族とポコポコによる人類の殲滅を止める。その協力をお願いしたいだけなんだ。ポコポコと戦って捕獲したシゲミさんなら間違いなく戦力になる」
黙り込むシゲミ。ツバサは続ける。
ツバサ「俺たちは『マンティノイド』っていう、カマキリと人間をハイブリッドした怪異なんだ。普段は人間に擬態して社会に紛れて暮らしている」
シゲミ「カマキリと人間のハイブリッド?」
ツバサ「人間にカマキリの遺伝子を組み込む手術をして、後天的に生み出された怪異。それがマンティノイドさ」
シゲミ「……少し前に、人間と動物を組み合わせる実験をしていた研究者に会ったことがあるわ」
ツバサ「おそらくその研究者は、マンティノイドを生み出す手術を利用したんだろうね」
シゲミ「誰が何のためにアナタたちを生み出したの?」
ツバサ「人間に嫌われ、カマキリを愛した人間……それがマンティノイド研究の第一人者だと言われている」
シゲミ「言われている?」
ツバサ「もう何十年も前に死んでいて、今はその人物の思想と研究成果が受け継がれているだけなんだ。俺もどんな人なのかは知らない。ただ、彼が人間に強く恨みを持っていたのは確か。マンティノイドはその思想を継承し、全員『人類は敵であり、殲滅すべき対象』と教え、育てられる。実際に正体を見られて迫害されたり、殺されたりした仲間も大勢いるから、人類に対する恨みは強い」
シゲミ「……アナタたちを育てる教育機関のような場所があるの?」
ツバサ「あるよ。一見すると普通の小学校や中学校なんだけど、通っているのはみんなマンティノイドの子供。手術は0歳から5歳までの幼児に施され、成功した子供は全員その学校に放り込まれて教育を受ける。大人に手術は施さない。なぜなら再教育が難しいから。で、中学を卒業すると人間社会に進出し、その後は人間に紛れて生活する。あらゆる国の中枢に潜り込むことを目標にしてね」
シゲミ「じゃあアナタたちはすでに……」
ツバサ「いろんな組織に潜伏しているよ。数は少ないけどね。マンティノイドは繁殖能力がなくて一族を増やす手段は手術しかない。その手術も成功率は10分の1未満……俺は運が良かった」
シゲミ「手術に使う子供たちはどこから?」
ツバサ「病院や幼稚園、公園……人間の幼児がいる場所から攫ってくるんだ。そういう人攫いを生業としているマンティノイドもいる」
シゲミ「アナタも人攫いを?」
ツバサ「やり方は教わった。でも強要されているわけじゃない。学校を卒業したらどう生きるかは自由。俺は一族を拡大しようとか、人類を滅ぼそうとかなんて大層なことは考えていない。マンティノイドの中じゃ、はみ出し者って感じかな」
シゲミ「なぜ?」
ツバサ「人間だって同じ教育を受けるけど、考え方はみんな違うでしょ?マンティノイドも全員が全員、同じ思想を持ってるわけじゃない。『人類は殲滅すべき』派が大多数ではあるけど。俺、結構ルックスが良いから人間社会の中でも生きやすいんだよね。いろんな人がちやほやしてくれる。けどカマキリの顔はイマイチっぽくて……だから人類には滅んでほしくない」
シゲミ「高慢ね」
ツバサ「もちろん理由はそれだけじゃないよ。マンティノイドが人類に戦いを挑んだところで数に圧倒的な差があって、返り討ちに遭うのは確実。だから人間と敵対した邪神・ポコポコを人類への対抗策にしようとしてるわけだけど……それでも勝てる可能性は低いと俺は思っている」
シゲミ「たしかにポコポコは尋常じゃなく強い。けれど人類が総力を出して、例えばアメリカ軍なんかが動き出したら……」
ツバサ「無謀な戦いになることは間違いない、でしょ?俺たち一族は今までどおりひっそりと人間に紛れて生きていたほうが平和なんだ。一族を無駄死にさせないためにも、ポコポコの奪取を止めたい。ポコポコが確保できなければ計画は頓挫するはず」
ツバサの話を聞いたシゲミは手榴弾から左手を離し、腕をスクールバッグの中から抜く。
シゲミ「まだ理解できていない部分もあるけど、マンティノイドという怪異が人類滅亡を狙っていて、アナタは穏健派だということはわかったわ。そしてアナタは仲間たちが企てているポコポコを使った大規模テロを止めたいと……」
ツバサ「そのとおり」
シゲミ「私に頼むのは見当外れね。ポコポコは今、怪異研究機関『
ツバサ「……たぶん、そうなるね」
シゲミ「今までの話は私ではなく『魎』にするべきよ。『魎』がポコポコを守り切れば全部解決でしょ?ちなみに私は『魎』と手を切った」
ツバサは右手で顔を覆い、人間に戻る。
ツバサ「そうなんだ……ならシゲミさんに言っても仕方ないか……ゴメン、余計な話をした」
シゲミ「別に。よくあることだから」
ツバサ「……迷惑ついでに1つ聞きたいんだけど、その『魎』っていう組織は、シゲミさんのような戦力を所持しているのかな?」
シゲミ「持ってない。だから今まで私に仕事を依頼していた。一応、私設部隊を抱えてる。数は100人ちょっと」
ツバサ「そっか……俺が警告したところで無駄かもしれないなぁ。マンティノイドが攻め込んだら、『魎』って組織の人たちは全員殺される」