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マンティノイド④

マンティノイドが攻め込めば『りょう』の人間は全員殺されると語るツバサ。神妙な面持ちで続ける。



ツバサ「カマキリが人間サイズになったら地上最強って話、聞いたことある?」


シゲミ「あるわ」


ツバサ「それを体現しちゃったのが俺たちマンティノイド。人間のままでも身体能力はプロアスリート以上だし、カマキリの姿になれば文字通り超人的な力を発揮できる」


シゲミ「そういえばアナタ、車でも追いつけないスピードで走ってたわね」


ツバサ「まだ学生で、特別な訓練を積んでいない俺でもそれだけの身体能力を持っている。そんなマンティノイドが、例えば海外の軍隊でトレーニングし、肉体を鍛え上げたらどうなると思う?」


シゲミ「……まさに最強」


ツバサ「ポコポコを狙ってるマンティノイドたちは、全員が軍事訓練を受けている。一族が誇る最強の精鋭部隊。実戦に乏しい日本の特殊部隊員100人程度が勝てる相手じゃない」



シゲミは数秒うつむき、視線をツバサの顔に戻す。



シゲミ「だとしても私が関知するところではないわ。ポコポコを仕留めずに捕獲を断行したのは『魎』よ。そういうリスクを承知の上で決定したはず」



きっぱりと断るシゲミの言葉を受け、ツバサは眉間に薄くしわを寄せ、下唇を前に突き出す。



ツバサ「……わかったよ。ありがとう。ひとまず『魎』に連絡を入れてみる」


シゲミ「相手にされないかもしれないけどね」


ツバサ「攻撃開始まで、まだ時間はあるはず。何度はねのけられても粘るさ」


シゲミ「ツバサくんの行動は仲間を裏切ることになるんじゃない?大丈夫なの?」


ツバサ「わかりやすいよう『仲間』って言い方をしたけど、計画を実行しようとしてるのはマンティノイドのごく一部。俺はソイツらと面識はない」


シゲミ「……」


ツバサ「一方で、人類を攻撃する動きがあること自体はマンティノイド全体に周知されている。仮に情報を流す裏切り者がいても誰かは特定できないだろうし、そもそも情報が漏れたことで攻撃を中止するような連中じゃない。俺から見れば、頭のネジが外れちゃってるヤツらさ」


シゲミ「そう」



数秒黙り、口を開くツバサ。



ツバサ「……もしソイツらがポコポコの奪取に成功して、ポコポコがマンティノイド側に協力したら……そのときはシゲミさん、人類を救ってくれる?」


シゲミ「……考えておくわ」


ツバサ「ありがとう。俺から伝えたかったのはそれだけ。時間をとらせて悪かったね。これからは同じクラスの一員としてよろしく」



ツバサはシゲミの右横を通り、屋上から出ようとする。シゲミは振り返り、「待って」とツバサを呼び止めた。



シゲミ「マンティノイドは幼児を手術して後天的に生み出すと言っていたわよね?アナタもそうだったの?」



シゲミに背を向けたまま、ツバサは答える。



ツバサ「たぶんね。記憶がないんだ。それくらい小さな頃に手術されたんだと思う」


シゲミ「ご両親は?」


ツバサ「いるよ。でも育ての親であって、産みの親は顔も名前も知らない」


シゲミ「……そう」



ツバサは背中越しにシゲミに手を振り、階下へ続く階段を下っていった。



−−−−−−−−−−



怪異研究機関『魎』 地下30階

ポコポコが収容されている隔離室の扉が開き、白衣を着た男性研究員が5人の子供を中に入れ、扉を閉めた。幼稚園児程度の年齢の子供たちは、部屋の隅にかたまり泣きわめく。


中央で電気椅子に座りながら寝ていたポコポコは、子供たちの泣き声で目を覚ました。



ポコポコ「なんや……?ガキ?」



天井に設置されたスピーカーから駒野こまのの声が流れる。



駒野「約束通り人間を用意したぞ。食べたまえ」


ポコポコ「……たしかに人間を摂取せなアカンと言うたが、ガキは食いにくいわ。心が痛むねん」


駒野「だが食べなければ、キミは消えてしまうんだろう?」


ポコポコ「……せやなぁ。背に腹は代えられんか。んじゃ、いただきまぁす」



ポコポコの頭が20倍ほどの大きさに膨れ上がり、座ったまま、泣き叫ぶ子供たちを丸呑みにした。


その様子を監視室からマジックミラー越しに眺める駒野。駒野の右隣には、黒いニット帽を被り上下紺色のジャージを着た小太りの男性が一人。



駒野「組織のためとはいえ、未来ある子供を犠牲にするのは少々つらいな。さらい屋よ、もっと年配の人間を用意することはできないのかね?」



攫い屋と呼ばれた小太りの男性は笑顔を浮かべながら答える。



攫い屋「大人は攫うのが難しいんですよ。デカいんでね。もしご希望なら追加料金がかかりますよ」


駒野「なら子供で構わん。1週間後、また5人頼むよ」


攫い屋「了解しました」



−−−−−−−−−−



『魎』地下駐車場

駐車されている白いキャラバンの運転席に乗り込む攫い屋。左ポケットからスマートフォンを取り出し、耳に当てて電話をかける。



攫い屋「……もしもし、俺です。ポコポコ様を確認しました。怪異研究機関『魎』という組織の地下30階に幽閉されています……はい。ええ。今後も接触できる機会がありそうなので、建物の内部構造や職員の数なんかを調べて都度報告します。では」



攫い屋は通話を止めてスマートフォンをポケットにしまうと、左手でニット帽を頭から外し数秒うなだれた。そして右手で車のキーを刺しエンジンをかける。正面を向いた攫い屋の顔は、カマキリに変貌していた。



<マンティノイド-完->

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