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罪悪感④

四ノ宮しのみや「……母さん?」



目の前に現れた老婆を見てつぶやく四ノ宮。老婆は細くてしわくちゃの両腕を前に伸ばしながらよたよたと歩き、四ノ宮の目の前で正座をする。



四ノ宮「母さん……ゴメン、僕が母さんを……」


老婆「殺した。知ってる。だって殺されたんだから」



老婆は両手で四ノ宮の首を締め付ける。



老婆「なんで殺した?なんで私を殺した?お前をここまで育てた私をなんで殺した?恩義はなかったのか?同情はしなかったのか?」



異様な光景を前に、呆然と立ち尽くすカズヒロたち。唯一シゲミが四ノ宮を助け出そうと前に出るが、村人数名が立ち塞がった。


みさきがシゲミに向けて言い放つ。



岬「これは彼が望んだことです。部外者は手出ししないように」


シゲミ「……」



四ノ宮は抵抗することなく、首を絞め続けられる。



四ノ宮「か、母さん……い、いいんだ……これで……いい……母さんを殺すくらいなら……殺されたほうが……まし……」



四ノ宮は失禁し、口から泡を吹く。数秒後、視線が明後日のほうを向き、全身の力が抜けた。老婆が手を離すと、四ノ宮の体は糸が切れた操り人形のように地面に倒れる。


立ち上がり、後ずさる老婆。



老婆「死んだ……?死んだ……?わ、私は……息子を……息子を殺して……ひぃぃぃっ!」



白髪頭をかきむしる老婆の背後から岬が近寄り、抱擁する。



岬「大丈夫。相手が我が子であろうが、殺された相手を恨むのは当然。アナタのしたことを誰もとがめません。そして殺したことによる罪悪感にさいなまれるのもまた必然です。憎しみと罪悪感は両立するもの。それこそ、アナタが人間として再びこの世に生を受けた証」


老婆「わ、私は……どうしたら……?」


岬「悔い改めれば良いのです。この村で息子さんを想いながら私に奉仕しなさい。息子さんは、母親を殺した罪悪感から解放してくれた私に心の底から感謝しているはず。その私に尽くすことこそ、アナタができる息子さんへのとむらいなのです」


老婆「……はい……わかりました……私の全てを捧げます」


岬「よろしい……さて」



老婆から両腕を離し、シゲミたちのほうを向く岬。



岬「次はどなたの儀式を執り行いましょうか?」


カズヒロ「こんなの……」


ツバサ「シゲミさん、あの岬って人」


シゲミ「おそらく怪異ね」



シゲミの前に立ち塞がっていた村人たちは、参道の左右に分かれて道を空ける。岬はシゲミを指さした。



岬「アナタからやりましょう。人を殺してるから。しかも1人や2人なんてものじゃない。ですよね?」


シゲミ「……」


岬「私にはわかるのです。こういった儀式を何度も行ってきた立場柄、血の染みこんだ人間の匂いを嗅ぎ分けられる」


サエ「シゲミ……」


岬「今のアナタたちには選択肢が2つあります。1つ、おとなしく儀式を受けること。2つ、ここにいる約200人の村人たちになぶり殺されること。死者が出た儀式を見たアナタたちを生かして蔵毛村くらげむらから出すわけにはいきません。警察に通報されると厄介ですので」


トシキ「シゲミちゃん、どうしよう……」


シゲミ「岬さん、選択肢は2つと言ったけど、もう1つあるわよ」


岬「何です?」


シゲミ「逃げる!みんな、目を閉じて」



シゲミの言葉に従い目を閉じるカズヒロ、サエ、ツバサ、トシキ。シゲミはスカートの左右のポケットから閃光手榴弾を1つずつ取り出し、安全ピンを口で引き抜くと岬の足下に転がした。


強い光が神社の境内けいだいに広がり、岬と村人たちの視界を奪う。光は数秒で消失。岬が目を開けると、シゲミたち5人は姿をくらませていた。



岬「無駄なことを……」



−−−−−−−−−−



村の中を走るシゲミたち。



サエ「なんだったのよさっきの〜」


カズヒロ「蔵毛村のウワサは本当だったんだ……人を生き返らせる儀式をやってる」


ツバサ「でもその実態はおぞましいものだった……」


トシキ「僕こんな村イヤだぁぁぁっ!」



数百m後方、松明たいまつを持った大勢の村人がシゲミたちを追う。



サエ「アイツら来てるよ〜!」


シゲミ「土地勘がない分、私たちのほうが不利……すぐに追いつかれるわね」


カズヒロ「どうするんだよー?」



ツバサが足を止め、振り返る。少し遅れてシゲミたちも走るのをやめた。



シゲミ「ツバサくん?」


ツバサ「シゲミさん、ここは俺に任せて、みんなを安全なところに避難させて。誰かが足止めしないと」


サエ「でもツバサくんだけじゃ」


ツバサ「心配ないって」


シゲミ「……」


ツバサ「シゲミさん頼むよ。みんなの前だと俺、出せないから」


シゲミ「わかった。任せるわ。先を急ぎましょう」


カズヒロ「ツバサ……絶対に無理するなよ!」


トシキ「もしキミが死んだら葬式には必ず行くからね!」



背中越しに右手でサムズアップするツバサ。シゲミたちは再び走り出した。



ツバサ「さて、やりますかぁ」



ツバサはブレザーのそでひじまでまくる。直後、農具と松明を持った村人たちがツバサの前に駆けつけた。



男性村人「よぉ、お坊ちゃん。観念したのかぁ?」


女性村人「200人相手にまさか1人で戦おうなんて甘いこと考えてないわよねぇ?」



ツバサは左手で顔を覆う。そして離すと、カマキリの顔に変わった。両腕は緑色になり、手首から肘までがギロチンの刃のように鋭く尖る。



男性村人「なんだぁコイツぅ!?珍妙な顔しおってからに!」



左足を前に、右足を後ろに開いて腰を深く落とすツバサ。そして足と平行になるよう腕を鎌のように構える。



ツバサ「とくと味わえ、本物のカマキリ拳法……アチョ〜〜〜」

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