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罪悪感⑤

男性村人が振り下ろしたくわの柄を、硬質化したツバサの右腕が切断する。そして腹部に蹴りを入れた。男性村人は吹き飛び、他の村人を巻き込むように倒れる。


ツバサの背後から女性村人が松明たいまつで殴りかかるが、頭を下げってかわし、左手で女性の喉元を突く。女性は大量の唾液を口から吐き、仰向けに倒れ込んだ。


次々に襲いかかる村人たちの攻撃をかわしては反撃を加えるツバサ。すべて致命傷にならない箇所を狙う。一撃も食らうことなく、村人を気絶させていく。



ツバサ「一人ひとりは大したことないけど、数が多いな……やっぱシゲミさんに協力してもらうべきだったか」



村人たちをかき分け、一際ひときわ体の大きな男が現れた。右手にスレッジハンマーを握っている。



大男「そこそこやるようだな、お坊ちゃん。ならば蔵毛村くらげむら腕相撲大会23連覇中であるこの俺、バッファロー・末尾まつおが相手をしよう」



バッファロー・末尾はハンマーを右から左にぐ。末尾の頭より高くジャンプして避けたツバサは、右足で末尾の側頭部に回し蹴りを見舞った。体勢を崩す末尾だが、倒れることなく踏みとどまる。


着地したツバサに向けて末尾はハンマーを振った。ハンマーがツバサの右脇腹に当たり、体ごと大きく吹き飛ばす。ツバサは田んぼの中に落ちた。



末尾「でえゃっはっはっはっ!どうだお坊ちゃん?肋骨ろっこつがバキバキに折れた気分は?苦しいだろう?苦しいよなぁ?わかるぜ、その気持ち。俺も苦しかった。だからみさき様に仕えることにしたんだ」



田んぼの水の中で立ち上がるツバサ。



末尾「今度は俺が苦しむ人を解放してやる番だ。人から受けた恩は別の人に返してなんぼだよなぁ。頭を砕いてやる!」



ツバサへ一直線に駆ける末尾。ハンマーを両手で握り、頭の後ろに振り上げる。ツバサも末尾に向かって駆け出した。末尾が振り下ろしたハンマーを、体を傾けてかわし、みぞおち目がけて右手を突き出す。しかし、末尾は足を田んぼの泥にとられて体勢が揺らいだ。ツバサの意に反して鋭いひじで末尾の左脇腹を切り裂いてしまう。



ツバサ「マズい!深く切りすぎた!」



切れた末尾の腹部からは血が流れ出ない。代わりに白い砂のような粒がさらさらと空中に流れ出し、末尾の体は消失した。



ツバサ「コイツも怪異だったのか……?まさか他の村人も?」



田んぼから畦道あぜみちへと戻るツバサ。末尾が消えたのを目の当たりにした村人たちの表情は恐怖にゆがみ、じりじりと下がりツバサから距離をとる。



ツバサ「……そうか。全員、岬って人が誰かの罪悪感を具現化した存在なんだな。四ノ宮しのみやさんのお母さんと同じ……言いくるめられ、村人として使役されている。本来なら生きているはずのない人間……なら遠慮することはないか」



−−−−−−−−−−



村を抜け、シゲミを先頭に山道を走るカズヒロ、サエ、トシキ。



サエ「ツバサくん、大丈夫かな?」


シゲミ「彼なら多分平気よ」


トシキ「ちょ、ちょっとタイム……30秒でいいから休憩しよう」


カズヒロ「何言ってんだ愚図ぐずトシキ!ツバサが稼いでくれた時間を無駄にする気かよ!」


トシキ「でも……もうずっと走って……体力が……」



よろめき、つまずいたトシキを、カズヒロが腕を引っ張って立ち上がらせる。直後シゲミたちの視線の先、地面がモコモコと膨らみだした。カズヒロ、サエ、トシキより1歩前に出て、左肩にかけたスクールバッグの中に手を入れるシゲミ。


地中から、植物の芽が生えるように岬の頭が現れた。



岬「アナタたちに『逃げる』なんて選択肢はありません。儀式を受けるか殺されるか。その二択だと言ったでしょう?」


トシキ「うわぁぁぁっ!」



岬は地面からズリズリと這い出る。その全身があらわになった。



岬「では儀式の続きをしましょうか、お嬢さん?」



岬は視線をシゲミに注ぐ。



シゲミ「……わかったわ。やってみて」


カズヒロ「おいシゲミ!」


岬「ふふふ。最初から素直に言うことを聞けば、こんなくだらない鬼ごっこなんてせずに済んだのに……さぁ、アナタが殺した人間のことを思い浮かべてください。なるべく鮮明に」



目を閉じるシゲミ。



岬「殺した人たちのことを想うと、罪悪感が湧いてくるでしょう?その感覚をもっと、もっと強くしてください。心の中を罪悪感で満たしてください」



シゲミは目を閉じ続ける。



岬「そして生まれるのです……罪悪感の虫よ!」


サエ「シゲミ!!」



両腕を左右に大きく広げる岬。しかし、シゲミの体に変化はない。シゲミは両目を開く。



シゲミ「こうなったか」


岬「……なぜ?……なぜ虫が生まれない!?」


シゲミ「岬さん、アナタの言うとおり私の爆弾に巻き込まれて死んだ人は何人もいる。でもそれは全て。私は自分の意思で人間を殺したことはない」


岬「何っ!?」


シゲミ「だから罪悪感もない」


岬「人を殺しておいて罪悪感がないだと……この腐れ外道が!」


シゲミ「そうね。私は腐れ外道。冷徹で感情のない殺し屋。で、アナタはどうなの?さっきやったみたいに、儀式で人を大勢殺してきたはず。罪悪感を覚えたことは?」


岬「……ない。でもアナタとは違う。私は人を助けるために儀式を行った。その結果、死者が出た。私のせいではない。私は誰も殺していない……むしろ多くの人々を苦痛から救ってきた……」


シゲミ「それだけ慈悲深いアナタの心に、罪悪感が芽生えないなんてことがあるのかしら?」


岬「そうだ……私は……私は誰も……うぐぅ、うぐぅぅぅ……」



岬の腹が大きく膨張し始めた。

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