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罪悪感⑥

最後の村人の首を左腕で切断したツバサ。男性村人の体がちりと化す。



ツバサ「これで終了。さすがにちょいと疲れたな……休んだら、シゲミさんたちを追いかけよう」



ツバサは地面に腰を下ろした。



−−−−−−−−−−



「きぃぃぃぃっ!」と甲高いうめき声を発するみさき。膨張した腹がしぼみ、足下に赤子が産み落とされる。そして再び腹がふくれ、赤子が生まれた。岬の妊娠と出産は止まらない。やがて数百もの赤子が山道に産み落とされた。


岬は体力を失い、痩せ細り、横たわる。赤子たちを踏まないようシゲミが歩いて岬に近寄った。



岬「はぁ……はぁ……はぁ……」


シゲミ「この子たちは全て、アナタが行った儀式による犠牲者ね。アナタは犠牲になった人たちに罪悪感を抱いていた。口では誤魔化せても、本心までは誤魔化せなかった」



赤子たちはみるみると成長していく。20歳から70歳の男女に変貌した。その中には、先ほど死んだ四ノ宮しのみやの姿もある。



岬「そんな……はぁ……私は……」


シゲミ「人間の罪悪感を利用し、自らのコミュニティを作り出す怪異」


岬「すべては……罪悪感で苦しむ人のため……私は……」


シゲミ「褒められた方法ではないけれど、なぜアナタが人助けをしようとしたのか……その理由を聞くつもりはないわ。聞いたら私の中に罪悪感が生まれそうだから」


岬「はぁ……はぁ……こんなことが……私は良い行いをしてきた……他の怪異どもとは違う……」


シゲミ「アナタをおぞましい化け物と呼ぶ人もいるかもしれない。でも安心して。アナタは、私よりはよっぽど人間らしいわ」



岬の呼吸が止まり、体が霧散し始める。数秒遅れて、岬の罪悪感が具現化した人々も塵となり、夜空の彼方へと消え去っていった。


緊張感がほぐれ、代わりに疲労感に見舞われたカズヒロ、サエ、トシキは、「はぁ〜」とため息を吐き、その場で腰を抜かす。



トシキ「一時はどうなることかと……」


カズヒロ「マジあせった……今度こそシゲミが死んじまうんじゃねーかって」


サエ「シゲミ、わかってたの?……自分に罪悪感がないことを」


シゲミ「半信半疑だった。だから試そうと思った。私は人並みに罪悪感を抱く人間なのかどうか。戦うために生きてきた私に、人間らしさが残っているのかどうか」


サエ「……」


カズヒロ「シゲミ……」


シゲミ「どうやら違ったみたいだけど、助かったから結果オーライね」



シゲミに何と言葉をかければ良いかわからず、黙るカズヒロたち。その背後から「おーい」とツバサが駆け寄ってきた。体は人間に戻っている。



ツバサ「大丈夫だったかい?」


シゲミ「ええ。全て片付いた。そっちは?」


ツバサ「こっちも問題なし」


カズヒロ「よく無事だったなー、ツバサ。どうやって切り抜けたんだよ?あんな大人数相手に」


ツバサ「えっと、まぁその……俺、柔道初段だからさ。全員田んぼの中に投げ飛ばしたやったよ」


トシキ「初段の人ができる芸当じゃないと思うんだけど……」



ヨロヨロと立ち上がるカズヒロ、サエ、トシキ。



シゲミ「ひとまず、もう脅威は去ったと見て間違いなさそうね」


サエ「一安心だね〜」


カズヒロ「そうだなー。でも油断は禁物。こんな村とはさっさとおさらばしようぜー」


トシキ「いや、まだ大きな問題が残ってるよ」


ツバサ「なに?」


トシキ「もう最終バスがない。次に来るのは明日の朝8時」


シゲミ「……野宿ね」



<罪悪感-完->

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