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攻撃開始③

ポコポコの隔離室のスピーカーから、イリナの声が流れる。



イリナ「リュウジさん、地上階にいる仲間たちから連絡がありました。チェーンソーを持った女子高生が暴れているらしく、すでに3名が殺されたとのことです」


リュウジ「『りょう』の人間か?」


イリナ「不明です。『魎』の職員も見境なく殺しているようで」


リュウジ「攫い屋からの報告にはなかったな……イリナ、ケンヤ、お前たちは援護に向かえ。その女子高生の始末を優先しろ。俺はポコポコ様のお食事とご友人の捜索が完了し次第向かう」


イリナ「承知しました」



スピーカーから流れていたイリナの声が止まる。



ポコポコ「なんや、手こずっとるんか?」


リュウジ「想定外の危険因子がいたようです。しかし心配には及びません。私の部下で最も腕の立つ者を援護に向かわせましたから」


ポコポコ「ああそう。オレも手伝ったるから、それまで持ちこたえてくれ。まずは腹ごしらえや」


リュウジ「この階層にもう1つ、怪異が収容されてると思われる隔離室がありました。そこにいる怪異から召し上がりますか?」


ポコポコ「アカン。なぜこんなとこにおるのかわからんけど、は全快のオレでも手に余る。放っておいたほうがええ。他の怪異を食うで」



−−−−−−−−−−



怪異研究機関「魎」本部ビル 地上8階

廊下でサブマシンガンを発砲する4人の特殊部隊員。彼らの15m前方には1体のマンティノイド。数十発の弾丸がマンティノイドを襲うが、硬質化した両腕で全て切り落とされた。マンティノイドは隊員との距離を一瞬で詰め、彼らの体と銃を切り刻む。全身がバラバラになり、床に落下する隊員たちだった肉塊。


増援に来た6人の隊員がマンティノイドの背後から銃を乱射する。マンティノイドは素早く反応し壁や天井を蹴って銃撃をかわした。直後、銃声に交じってけたたましいエンジンが響き、隊員たちが背中から血飛沫を上げて次々に倒れていく。


マンティノイドは異変に気づき、床に着地して動きを止めた。倒れた隊員たちを踏みつけながら、チェーンソーを両手で握るリオが現れる。刃から血が滴り、ブレザーは返り血で所々ドス黒く染まっている。



リオ「見つけたぜぇ、カマキリ人間。お前で5匹目だ。『魎』の連中は邪魔だから殺しておいてやるよ。さぁ、サシで殺ろうぜ」



腰を深く落とし、両腕をクロスさせながら床を蹴るマンティノイド。猛スピードでリオに接近し、両腕を開いて斬りかかる。リオはマンティノイドの斬撃をチェーンソーの刃で受け止めた。金属同士が擦れあったような高音が廊下に響き渡る。



リオ「テメーらの攻撃はもう見切ってるぜぇ。腕の鎌で斬るだけ。芸のないヤツらだ」



マンティノイドは黙々とリオの首を狙って両腕を振り回し、攻撃を続ける。しかしすべてリオのチェーンソーで防がれた。動揺し、一瞬だけ攻撃の手を緩めたマンティノイドの隙を見逃さなかったリオ。チェーンソーを左から右へ振り、マンティノイドの両腕をひじの辺りで切断する。



リオ「関節部分はもろい。テメーらの弱点だろ?戦ってるうちに理解した」



攻撃手段を失ったマンティノイドの首にチェーンソーの刃が突き刺さる。マンティノイドは首と両腕から白い体液を飛び散らせながら仰向けで床に倒れ、絶命した。



リオ「あと何匹入り込んでんだぁ?もっともっと斬らせてくれよぉ。じゃないと達成感がなくて、今夜ぐっすり眠れそうにねぇんだぜ」



リオの正面、20mほど離れた位置にある階段からイリナとケンヤが上がってきた。廊下に出てリオと向かい合う。



ケンヤ「アイツか。好き放題暴れてくれちゃったみたいっすねー」


イリナ「油断大敵だ。私とお前、2人がかりで確実に仕留めるぞ」


ケンヤ「ういっす」



新たに現れたマンティノイドを見て、不敵な笑みを浮かべるリオ。



リオ「……高速回転するチェーンソーの刃に死ぬほどキスさせてやるぜぇ」



−−−−−−−−−−



地下29階から20階までに収容されていた怪異およそ150体を食らい尽くしたポコポコ。地下19階に続く階段を上り、廊下を歩く。ポコポコの3歩後ろを着いていくリュウジ。



リュウジ「ポコポコ様、お腹の具合はいかがでしょう?」


ポコポコ「まーだまだ全然腹一杯にならへん。何週間も食っとらんかったからなぁ。野球部の男子並みの食欲になっとるわ。ガタイが一番大きい、キャッチャーかファースト守ってる男子並みになぁ」


リュウジ「『魎』には約300体の怪異が収容されているそうです。この階までにポコポコ様が召し上がった、さらに倍近い栄養源があるということになります」


ポコポコ「さよか。それだけ食えばさすがに満腹になるやろ」



廊下の左右の壁に怪異を収容している部屋の扉が並ぶ。右側の最も手前にある扉を蹴破るポコポコ。リュウジとともに入室する。真っ白い部屋の中央、床に木製のくいが打たれ、杭に結びつけられた鎖付きの首輪を巻いた人面犬・樹騎矢じゅきやが、自分の尻尾を追い回してぐるぐる回転していた。


樹騎矢を見つけ、ポコポコは顔をほころばせる。



ポコポコ「樹騎矢!お前こんなところにおったんか!」



回るのを止める樹騎矢。



樹騎矢「ポコポコ様!ご無事だったんですね!?」


ポコポコ「ああ。捕まっとったが、このカマキリ男が解放してくれたんや」



ポコポコは親指でリュウジを指す。



樹騎矢「そうでしたか……僕からもお礼を言います。ポコポコ様を助け出してくれて、どうもありがとうございました」



リュウジに向かって、樹騎矢はこうべを垂れた。



リュウジ「これはご丁寧にどうも。ポコポコ様、この人面犬が……」


ポコポコ「オレの友達や。もちろん食わへん」



樹騎矢のかたわらに膝をつき、両手で鎖を引きちぎるポコポコ。解放された喜びから、樹騎矢はその場で飛び上がる。



ポコポコ「樹騎矢、サツキちゃんがどこにいるかわかるか?怪我をして、建物のどこかで治療しとるそうなんやが、見つからなくてな」



ポコポコの質問を聞いた瞬間、樹騎矢の表情が曇った。そして視線をポコポコかららし、ゆっくりと口を開く。



樹騎矢「サツキさんは……殺されました」


ポコポコ「……はぁ?」


樹騎矢「戦いで気絶したポコポコ様をかばって、サツキさんは撃たれました……『魎』の人間にです」



ポコポコの顔から感情が一瞬にして失われ、暗く沈んだ。

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