ポコポコとゼラが出会ってから、2年が経った。ポコポコは荒れ狂う人間も、怪異も、その力で蹂躙。
ポコポコは、常に1000以上の友達を侍らせて行動する。その中には人間も、怪異も、動物も含まれており、いがみ合うことは決してない。文字通り「分け隔てない」コミュニティが形成されていた。すべてはポコポコという絶対的存在、神に等しい存在がいるからこそ。ポコポコとゼラが求めていた世界が出来上がりつつあった。
ある日、ゼラが20歳の誕生日を迎える。人間と怪異とが和解しつつある現状を作り出した影の功労者として、ゼラの活躍は誰もが認めていた。ポコポコも例外ではない。そこでポコポコ自ら、盛大な誕生日会を企画した。
およそ2万の友達が見守る中、ゼラはバースデーケーキに立てられたロウソクの火を吹き消す。同時に、大陸が揺れそうなほどの大喝采が会場を包んだ。ゼラの右隣でポコポコも拍手をしている。
ゼラ「みんな、ありがとう。とてもうれしい。しかし、我々が目指す世界の実現はまだまだ先のこと。これからも一緒に、ポコポコ様をサポートしていこう」
友達たちが一斉に「YEAH!」と大声を上げる。
ゼラ「だが今日だけは、お休みの日にしていいかもしれない」
友達たちは「YEAH! めっちゃホリデー!」と声を張り上げる。
ゼラ「私も少しだけ息抜きとして、20歳を超えたらやりたいと思ってたことを、この場でやってみようと思う。ポコポコ様の目標とは全く関係のない、私個人の目標だったことを」
履いている白い短パンの右ポケットに手を突っ込むゼラ。取り出したのは、1本のタバコ。咥えて、親指と中指を擦り火花を起こし、タバコに火をつける。
ゼラ「これが私のやりたかったこと……20歳になったら、タバコを吸いたかっ」
そう言いかけたところで、ゼラの後頭部に衝撃が走った。視界がぐらりと揺れる。隣にいるポコポコが、ゼラの頭を強く叩いたのだ。ゼラの口からタバコを引き抜き、握りつぶすポコポコ。
ポコポコ「オレ、タバコ嫌いやねん。喫煙者も無理や。ゼラ、お前とは絶好。金輪際、オレの周囲5m以内に近づくな」
ゼラ「……そ、そんな! 待ってくださいポコポコ様! たかが1本吸っただけじゃないですか!」
ポコポコ「人生初のタバコは美味かったか? 正直に答えてみぃ」
ゼラ「ええ……美味しかったですが」
ポコポコ「1本でも吸って美味いと感じたヤツは、タバコの魅力から逃れることはできん」
ゼラ「いや……お気に召さないようでしたら、今後は吸いません!」
ポコポコ「アカン。お前は絶対に陰で吸う。オレにはわかんねん。だから、あばよ、ゼラ」
ゼラの眼前に、ポコポコの右足が迫る。頭蓋骨が砕けるほどの威力で蹴り飛ばされた。森の木々をなぎ倒し、大岩を貫き、海まで吹き飛んだゼラ。海面を200回以上バウンドし、深海へと沈んでいった。
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以来3500年以上、ゼラとポコポコは対面していない。理不尽な目に遭ったゼラだが、自分の人生を明るく照らしてくれたポコポコを恨むことができなかった。言いつけを守り、近づかないようにしてきた。ポコポコに気づかれないよう、その野望を邪魔する危険因子は排除しつつも、彼の前に姿を現すことは絶対にしない。そうやってゼラは、ポコポコの完全なる影となって生き続けてきたのである。
ゼラ「我らが神・ポコポコ様を除霊した者……その者が誰か、調べはついたかぁ!?」
幸福者たちはそれぞれ「シゲミ……シゲミ……」と口にする。
ゼラ「シゲミ……ソイツの顔写真は手に入れたかぁ!?」
沈黙する幸福者たち。写真など、シゲミの素顔がわかるものは誰も集めていなかった。
ゼラ「ちっ。幸福者どもは1つの指示しか実行できないのが難点だな……指示にないことを要求するとフリーズしてしまう。こればかりは、3000年以上能力を使ってきても解消できない……私の課題であり、伸びしろでもある」
両腕を大きく開くゼラ。
ゼラ「次はシゲミという人物の顔がわかるものを集めろ! 写真でも動画でも何でも良い。私が満足できる情報を持ってきた者には、『ポコポコ様大解剖図鑑』の最新第463版を無料でプレゼントだぁ!」
幸福者たちは「シゲミ……シゲミ……図鑑……図鑑……」とつぶやきながら、ゾロゾロと公園から立ち去って行く。公園から幸福者がいなくなったのを確認し、ゼラは両腕を閉じた。
ゼラ「さて……捜索はアホな幸福者どもに任せて、私は『ポコポコ様大解剖図鑑』の製本と販売の準備だ」