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ゾンビの町③

 パトカーを停める守屋もりや。シゲミたちが車から降りたのを確認し、自身も運転席から出る。


 バリケードに囲まれた守屋の家。敷地内の庭は、一画がトマトやキュウリ、ナスなどが実る野菜畑になっている。畑の他に牛舎があり、中には牛が2頭。自給自足生活を送っていることは、一目瞭然だった。



守屋「野菜や牛の世話は弟の仕事でね。大学を卒業してウチに帰って来てからずっと部屋に引きこもってたけど、2年前くらいから敷地の中なら行動できるようになった。私が仕事に行ってる間、家のことを任せてる。バリケードの外からは1歩たりとも出ようとしないけどね」



 守屋はそう言うと、自宅の扉を開けてシゲミたちに入るよう促す。家の周囲こそ異様ではあるが、家自体は白い外壁に茶色い瓦屋根を乗せた、どこにでもありそうな二階建てだった。


 中に入るシゲミたち。守屋の案内で、奥のリビングへと通される。15畳ほどの部屋。中央にローテーブルが置かれている。テーブルのすぐ脇にベッドがあり、その上には齢80は超えているであろう老爺が寝そべって読書をしている。「ただいま」という守屋の声を聞き、老爺は本を閉じた。



老爺「おかえり、ミチヒコ……後ろの若人わこうどたちは……?」


守屋「町でゾンビに襲われていたところを助けた。騒ぎが収まるまでウチにいてもらおうと思うんだけど、いいだろ?」


老爺「おお、もちろん。ゆっくりしていきなさい……今、お茶を用意するからね。ハーブティーで良いかな? ワシが植えたハーブでね。脱法ハーブではないから安心しなさい」



 ベッドから起き上がろうとする老爺。その肩を守屋が押さえ「俺がやるから」と寝かせる。老爺なりに、家主としてシゲミたちをもてなそうとしたようだ。気を遣ったカズヒロが「お構いなく」と伝える。


 そのとき、シゲミたちの背後から「誰だよ、このガキども」という男性のぼそぼそとした声がした。振り向く4人。長髪で小太りの男性が立っている。身長は公称170cm(167cm)のトシキと同じくらい。上下灰色のスウェットを着て、黒いヘアバンドを頭に巻いている。



守屋「ノリオ、部屋から出てきたのか?」



 ノリオと呼ばれた男性は、気怠そうに、か細い声で続ける。



ノリオ「監視カメラで兄貴が帰ってくるのを見てたから。で、このガキどもは?」


守屋「町で拾ったんだ。しばらくウチに泊まる」



 ノリオは横目でシゲミたちをチラリと見た。そして唇を舌で一周舐める。



ノリオ「食い扶持が増えるじゃないか……兄貴、お人好しもいい加減にしろよ」


守屋「俺は警官だ。市民を守る義務がある」


ノリオ「いつもそうやって警官、警官って。無職の俺に対する当てつけだろ」


守屋「劣等感があるなら、そろそろ就職したらどうだ?」


ノリオ「……俺には家を守るという仕事がある」



 ノリオは背を向け、廊下の突き当たりにある階段を上っていった。「はぁ」と息を吐く守屋。



守屋「アイツはノリオ。さっき話した、引きこもりの弟ね。人当たりが良いほうではないけど、アイツがキミたちに関わってくることはないだろうから、あまり気にしないで」



 守屋は「座ってて」と言うと、リビングの奥にあるキッチンへと向かう。ローテーブルを囲んで座るシゲミたち。数分後、守屋がカップに入ったハーブティーを4人分持ってきた。それぞれの前に置き、座る。



守屋「さて、ゾンビの元凶を探し出すことについてだけど……私のパトカーで移動するにしても、やみくもに町の中を動き回るのはとても危険だ。捜索するエリアをある程度絞って、動きを最小限にしたほうが良いだろう」



 シゲミがハーブティーを少しすすり、口を開く。



シゲミ「最初にゾンビになった犠牲者は誰か、どこでゾンビ化したかは、わかりますか?」


守屋「いいや。ゾンビに噛まれると、その人もゾンビになる……気がついたときにはパンデミックと化していたよ」


シゲミ「第一の犠牲者はゼラ本人と接触しているはず。その人を特定できれば、ゾンビになった前後の行動からゼラの動きも予想できるかもしれない」


守屋「難しいな……あっ、そうだ。キミが言ってる『ゼラ』だけど、ちょっと思い当たる節があるんだ。いま思いだしたよ」


シゲミ「何です?」


守屋「4丁目に是羅木戸ぜらきどさんという人の家があるんだ。ずっと昔から一人暮らしをしている人でね。珍しい苗字だから覚えていたし、彼には職務質問をしたことが何度もある。道行く人に突然声をかけるんだよ。だから不審人物として警察でマークしていたんだ」


シゲミ「どんな人なんです?」


守屋「背が高い男の人。髪は銀色で、白人っぽい見た目をしいてる。ハーフなのかな?」


シゲミ「私が祖母から聞いたゼラの特徴と合致してるわ」



 カズヒロが左手でアゴを押さえながら、シゲミのほうを向く。



カズヒロ「じゃあ、ゼラってヤツが偽名を使って素紺部すこんぶ町に住んでたってことか? あまりにもバレバレな偽名だけど」


シゲミ「可能性はある」



 サエがティーカップを持ちながら口を挟む。



サエ「つーか、その人って午前中にお祭りで会った人じゃない? トシキのことを殴ったおじさん」


トシキ「あっ! たしかに! あの人も背が高くて銀髪だった!」


シゲミ「……ゼラはポコポコのファンだとも聞いたわ。あのおじさん、ポコポコの図鑑を作って売ってたわよね。外見的特徴に好みまで一致してる……私たちは既にゼラと接触していたのか」


カズヒロ「シゲミよー、祭りの時点で気づけなかったのか?」


シゲミ「お祭り気分で浮かれてて、注意散漫になってたわ」



 すくっと立ち上がるシゲミ。



シゲミ「一人暮らしの是羅木戸さんと、祭りで私たちが接触したおじさん。この2人が同一人物でゼラだと仮定した場合、ゼラの家は今、無人の状態。そして祭りが終わったら家に帰ってくる……」


トシキ「そう……かもね。で、どうするの?」


シゲミ「ゼラの家に罠を仕掛け、帰ってきたところを駆除するわ。守屋さん、是羅木戸という人の家に連れて行ってください」

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