ロック・バスターの取っ手を、思い切りバイクのアクセルの要領で豪快に三回ほど捻る。辺りの地面が流動し、まるで虫の繭のように丙良を包み込む。
「変……身ッ!」
凝固した土の繭を、ロック・バスターで粉砕する。その余波は、不意打ちを仕掛けようとするヘリオが派手に弾き飛ばされるほど。
あたりの土や岩の破片が引き寄せられるように丙良を覆い、見る見るうちに強固な装甲へと早変わり。あの時よりも、より頑強な鎧であった。
「覚悟も決めたことだ、長い戦いはオーディエンスも冷えるだろう? 早々にケリをつけよう」
『知った口を利くなし!!』
丙良は大剣であるはずのロック・バスター中央のもう一つの取っ手を持ち、その取っ手を先ほどの要領で捻る。すると、少し小ぶりな片刃の剣が新しく現れたのだ。巨大な剣と、少し小ぶりの剣。丙良の武器、ロック・バスターの真の姿は、二刀流であったのだ。
小ぶりな方はロック、もう一つの巨大な剣はバスター。
その姿は、ギリシャの英雄ではなく、まるで二刀流の名手、宮本武蔵のようであった。
「あの時は扱いが慣れてなくてね。今ならある程度慣らしている……二刀流対決と行こう」
ヘリオの攻撃にロックで合わせ、バスターで弾く。攻守を兼ね備えた一対の剣に、死角は無いに等しい。
怒りに任せ振るう剣と、それを諫める穏やかに振るわれる剣。最上層での戦いの再来であった。
徐々に、ペースを握られていることに対しての苛立ちを隠さなくなったヘリオ。
『クッソ……ムカつくんですけど!!』
「お褒めいただきどうも、少しは上達したろう? 僕の剣も」
爽やかな雰囲気の中にある、飄々とした笑み。今の丙良にとって、精神動揺が無い限り赤子の手をひねるように楽なものであった。
よろけた一瞬の隙を突いた、腹部への一撃。後方へ吹っ飛び、なすすべなく転がるヘリオ。
ロックとバスター、それぞれ刃と呼べるほどの物はない。全てが衝撃や打撃といったものであるため、臓腑が漏れ出る……なんてことは無い。傷つけることをあまり好まない彼だからこそ、仕上がったものである。
「良かったね、僕が相手を斬ることが苦手で。ただその分、打ち据える痛みはかなりのものだから覚悟しておいて」
悔しさによっての叫びをあげながら、丙良に無策で突進するヘリオ。
しかし、まるで芸能人が取り巻きを軽くあしらうように、肺と足を打つ、二刀の一撃。
呼吸を絶たれパニックになったヘリオを見逃すことなく、バスターにて宙へかちあげる。
「そろそろ、フィナーレだ」
それぞれのグリップを三度捻ると、剣からは雄々しい声と共に魔力が渦巻きだし、辺りの土がまるで生き物のように蠢き始める。
『超必殺承認!!』
「先輩、殺された後輩ちゃん二人……一緒に、行くよ!!」
思い切り地を踏みしめ、勢いのままに高く飛び上がる。
『クッソ……クソがよォォォォッ!!』
胸部、顔面、背面、両足、両腕。全てを一対の剣で打ち、二つの剣を逆手に持ち替える。
「これが……あの先輩から教わった技――――」
ありったけのFワードをぶちまけるヘリオを嘲笑うかのように、最後の二撃が、腹部に突き刺さる。
「
そのとどめの二撃によって、ドライバーや怪人としての装甲、その他諸々が完全に破壊され、人間としての姿を取り戻す。
「……やったよ、借り、返せたよ」
自分の中でのひとつの区切りをつけられたことに対する安堵の感情は、計り知れなかった。
あれだけ打ち据えられたために、完全に瀕死の状態となったヘリオ。それを変身解除し、見下ろす丙良。
助ける義理など、さらさらない。ただ脳裏に浮かぶのは、あの敵すら生きていてほしいと願う、究極のお人よしの後輩。自分の与り知らないところで、死んでいたなんて知ったら、きっと落胆する。
そう考えたら、取れる行動は一つであった。
「これ……本当に使いたくないんだけどなあ……!!」
そのライセンスの名は、『黄金の林檎争奪戦!』。ここで使うことになるなんて、夢にも思っていなかった丙良。これに対する覚悟なんて決まっているわけはない。
嫌々ロック・バスターに認証、装填しグリップを捻る。そしてヘリオの胸部に手を置いて、じっとする。
すると、見る見るうちに傷ついた肉体が元通りに修復されていく。何なら、元以上につやつや肌になっていく。
しかし、一方は全く持って無事ではない。言語化できないほど間抜けな叫び声を上げながら、見る見るうちにゲッソリしていき、爽やかな見た目から一転、不健康そうな見た目へと変わってしまった。
「……これ、僕の中にある生命のエネルギーを……そのまま産地直送で送るからね……どれだけ鍛えようと……精力だからね……限度があるっつーの……賢者タイム通り越した何かだよ今……」
力がやせ細りながらも、運ぶ丙良。肩を貸すような体勢ではあるが、どちらかというと肩を貸されているように見えるものの、やっとの思いで出口へとたどり着く。
「……これもう二度と使わないからな!!!!」
半泣きで宙に叫ぶ丙良。そんなことはつゆ知らず、艶々テカテカの肌で気持ちよさそうに涎を垂らしながら眠りについているヘリオ。
(前回嫌々使った時よりも……何でかへとへとだ……体力落ちたか……僕)
これにより、第二回戦、『軽薄の使徒』ヘリオVS『質実剛健な超新星』丙良慎介。勝者は丙良、こちらは戦いによる傷こそついていないものの、別角度から信じられないほどのダメージ(?)を負って決着がついた。