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第四十一話

 院から離れた透。自分の寮に帰ると、デバイスを起動し兄弟たちへ連絡を取ろうと試みる。しかし、いくらかけようと繋がらない。不安感が募る中、見たくもない人物から連絡が。借金取りであるグラトニーであった。

『もしもし、天音さんの電話ですね』

「気味悪い猫なで声で話しかけんじゃあねえ、借金取り如きが。虫唾が走る」

 敗北を喫したグラトニーにすら、苛立ちが募っているせいか刺々しい態度を崩さない透。しかし、電話の向こう側の相手は表情こそ見えないものの、口角を歪に歪ませているようであった。

『そんな態度をしていていいんですかねえ、電話の相手、変わって差し上げましょうか?』

 その一言で嫌な予感を感じ取った透は、変わった相手の声を聞いた瞬間に、すっと青ざめた。

『お姉ちゃん……教えてくれたように抵抗したんだけど――捕まっちゃったよ』

「!? その声は――!!」

 察知した透は、途端に息が荒くなる。

『返済はかなり頑張っているようですが、それでどうにもならないほどに借金がかさんでいるそうで。ちょくちょく学内通貨を通常通貨に兌換だかんして仕送りしているそうですが……それでも足りないようで』

「そんなはず無い!! 今月の分、求める金額は確かに渡したはずだ!!」

 透自身、学園都市内で得た学内通貨を一切使うことなく、家族全体が抱える借金返済と、弟や妹たちの贅沢のために仕送りしていた。借金は日々生活していくだけでかさんでいく極限状態の中、少しでも楽が出来るように多めに送っていた。透は、誰よりも早く学園都市内で幾つものバイトを重ね、そして学園長に直談判を重ね多額の学内通貨を借金返済へ充てていたのだ。

「今月の分、確かに……」

『諸経費にて、貴女が返済した分が消費されてしまいまして。より借金が膨れ上がっている一方なんですよ。今よりも、ペース上げてもらわないと、ねえ?』

「――は??」

 出自不明の『諸経費』。それは借金地獄で永遠の金づるとして雁字搦めにする、ただの方便であったのだ。恐らくではあるが、あの成金じみたグラトニーの指輪や贅肉代となっているのだろう。

「ふざけんじゃあねえ、俺がどれだけ返済に充ててると思ってんだよ!? 今月だけで累計一千万だ!!」

『口答えする胆力を見せるより、お宅の小さい子たちを気にしなくてどうするんですか?』

 震えが止まらなくなる透。家族を失う怖さは、喪失感は、そしてそれに伴う重圧は、何より理解していた。

『一週間、それだけは待ちましょう。それまでに利息分の『一億』、払ってもらわないと……どうなっちゃうんでしょうねえ』

 それだけ言い残すと、透への電話は切れてしまった。


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