学園を出てすぐに出会ったのは、エヴァだった。礼安はいてもたってもいられなかったのか、すぐさま声をかける。
「エヴァちゃん!」
手を激しく振り、自身の存在を誇示する礼安と、実年齢高校一年生と思えない彼女に対し、ただ隣で呆れかえる院。そしてそんな二人に鼻血を出しながらこちらにやってくるエヴァ。数日前の再来である。
「らららららら礼安さん!? そんなそちらからお声がけいただけるなんて恐悦至極の極みにございます!!」
(――これ、どちらが先輩でしたっけ?)
無論、エヴァが一年先輩である。
しかし、院は辺りにこれと言った生徒がいないことに疑問を抱く。
「……今、武器科の生徒がどこかに行く、だとかそういった要件はあるのですか、エヴァ先輩?」
その院の最もな指摘に、鼻血を乱暴に拭い姿勢を正すエヴァ。
「――実は」
「『学園長』に要請のかかった増援、とは貴女の事でしょう??」
的を射た答えに、黙って頷くエヴァ。
「まあ……私が十中八九悪いことではありますが……礼安さんたちと出会う前は結構単位が危ない状態にありまして。数日前の事件解決の功労は十分に認められたのですが……今回の頑張り次第で、今まで積み重なった足りない単位分を目一杯補充してあげる、と本人に言われ……一も二もなく飛びついた次第です……ええ」
何とも公平性に欠ける学園長の振る舞い。いくら『武器の匠』とはいえ、やっていることが学校生活をフケた代償を、補講など無しに簡単な条件で踏み倒させることと同義なため、院はあとで依怙贔屓全開な本人をこってり叱ってやろうと考えていた。仮にも実の父親であるのに。
「――と言うことは、事のあらましは学園長から聞いていますね先輩?」
「ええ、だいたいは分かっています。また『教会』からの襲撃とは……何ともツイてませんね」
「本当ですわ……全く」
何かしらの存在に気づいていた院は、そこで素早く炎の弓を顕現させ、エヴァ越しに誰もいないはずの曲がり角に向け超高速で弓を放った。
その放たれた炎矢に驚いた何者かは、転げて姿を現す。その正体は、礼安たちのクラスメイト兼透の取り巻きである二人。「
それぞれ、透と同様に黄色のメッシュを前髪に施し、透と同じように制服を着崩す。一見成績不良児に見えるものの、透と同様にかなりの好成績を残して、この英雄学園東京本校に入学した、未来明るい英雄の卵であった。ちなみに透が首席、この二人は次点である。
「盗み聞きとは……あまり感心しませんわね、天音透の取り巻きお二方」
「いきなり打つのはダメだよ、びっくりしちゃうよ!」
「礼安さんそこじゃあありません争点は」
剣崎と橘は、バレたことを承知のうえで、透を下した存在である礼安に土下座する。
「お願いだ、アタシたちも透を助けるために連れて行ってくれないか!?」
とは言っても、二人はつい数時間前に力を覚醒させたばかり、力のコントロールもままならないであろう二人をコーチングできるほど、礼安と院の二人は出来上がってはいない。
「――申し訳ありませんが、私たちは貴女がたを器用に守りながら戦うほどの力は……まだ備えておりませんわ」
「分かってる、ウチらはそんな『守りながら戦ってくれ』だなんて図々しいことは言わない。そして自分たちがもしケガを負ったとしても、それは自分の重い責任だ、何も文句は言わない」
そう言う二人の表情は、二面性を一切感じさせないほど真剣な面持ちであった。透に対し、何らかしらの大恩を抱えているのだろう、そう感じ取った院は礼安に目くばせする。その彼女も笑顔で頷き返すだけ。エヴァも同様であった。
「――分かりました。ちなみに『必要書類』、書きました?」
その発言に対し、一切分かっていない様子の二人を見て、「まずはそこからか」と院とエヴァは頭を抱え、二人を連れ校舎に連れていくのであった。