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第八十一話

 一瞬の静寂。その後に現れた院は、実に晴れやかな顔をしていた。

「今なら何でも――出来そうですわ!」

 瞬時にワイヤーガンを生成、はるか上空目掛け打つと、今まで院が登っていた建物側面にがっちりとフックが食らいつく。

 超高速でワイヤーを巻き取りながら、東仙による数多の妨害を華麗に潜り抜けていく。

 やがて、標高千メートルはあろうかという上層へと辿り着く。しかし、そこまで辿り着くと東仙の妨害は無くなっていた。

 パッチワークかのように、現実ではありえないほどに組みあがっている謎構造の建物群は、まだ頂上すら見える気配はない。それゆえに、院のやる気を削いでいく。

「まあ……先に『目的地』に辿り着くのは私ですわ!」

 新たにもう一丁生成したワイヤーガンを携え、二丁拳銃のようにボルダリングの最高速を平気で追い抜く、時速二百キロ以上。その速度のままに、建物の崩壊に気を配りながらも上昇していく。

 しかし、ここで安定する場所に座り、小休憩を取っていた院。一切邪魔が来ないことに違和感を覚えていたのだ。あれだけ、下層にいたときは統率の取れた妨害をしてきたのにも拘らず。

 建物の材質が違うのか、とも思ったものの、全て同じ土製のものばかり。東仙の声すら一切届かないほどの高所であるのも関係しているのか、とも思ったが、魔力はしっかり建物全体にいきわたっている。距離により精密さなどの能力は落ちるだろうが、力が振るえない、ということはなさそうである。

「――妙ですわ。ここまで妨害がないなんて……何でもありのレースにしてはぬる過ぎる」

 その疑念を払拭するべく、そしてこの建物群の頂点にまで辿り着くべく、ワイヤーガンを上部に飛ばし高速で向かっていく。それで、彼の目的や何かしらが見えてくるかもしれない。僅かな期待、そして胸中のほぼ全てを占める違和感を胸に、向かっていった。

 その結果。その世界の頂上、ともいえる場所には何もなかったのだ。ゴールとでかでかと表示されているような、仰々しい扉も、慎ましい扉も一切なし。あるのは、広く澄み渡った空ばかり。

 行き着いた結論。それは。

「『目的地』と称されたこの世界のゴールは……下にあった――!!」



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