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第八十六話

 その礼安に似た存在は、エヴァの取り乱す様子を見て、くつくつと嗤っていた。

『エヴァちゃん、どうしたの? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてさ』

 彼女はエヴァの心を弄ぶかのようにあくどい笑みを浮かべているものの、エヴァはそんな彼女を恨めしそうに睨みつけた。

「誰だか知らないが……私の大切な人を騙るな!!」

『――しょうがないじゃない、私の十八番というか……『能力』そのものなんだもの』

 頬から土がボロボロと零れ落ち、やがてその人物の本当の顔が露わになる。

 実に見目麗しい女性であり、まるでストリップ嬢のような豊満な肉体に、ナイトドレスを着用。華美なネックレスやピアスなども好んでつけており、男を惑わす魔性の女そのものである。

「最初に開示しちゃうけど、私の能力は『欲塗れの竜宮童子デザイア・シルエット』。相手の望む姿に変身できる、って欠片も戦闘向きじゃあない能力。だって当人の身体能力とか、そう言った肝心なものをコピーできるわけじゃあないから。まあ偵察、諜報、潜入向けの能力よね」

 戦闘向きではないかもしれないが、その力は確かなもの、雰囲気こそまねできなかったものの、その見た目は間違いなく礼安そのものであった。昔話そのままに、厄介なものだと感じていた。

「私はこの『教会』埼玉支部所属、壇之浦銀行次長兼この三階ストリップ場の統括責任者。富士宮えりフジノミヤ エリよ。以後よろしく、お嬢さん」

「……英雄学園東京本校武器科二年一組所属兼『武器の匠』、エヴァ・クリストフ」

 富士宮は、エヴァを品定めするような目で全身を伺うと、ぱあと顔色が明るくなった。

「貴女、ずいぶん将来有望な肉体をしているわ。もっとおっぱいも大きくなりそうだし、スタイル抜群よ。どう、うちの劇場でゲストとして出演しない?」

「誰が。あのコンソールからしても、情報網は確かなものだと理解はしたけど……私の性的志向を分かっていてその冗談を?」

 富士宮は妖しい笑みを浮かべながらも、エヴァに触れる。

「分かっていて、よ。別にストリップが男だけのものではないわ、貴女好みの女の子たちがくんずほぐれつする姿を楽しみにする、そんな女性のお客様も少なからず存在するものよ?」

 以前の自分なら、己の欲を満たすことのできる場として、武器に向けるもの以外にほしいと、少しでもその甘言に揺らいだことだろう。結局は『武器の匠』としての人生を選ぶだろうが、選択肢としてはあり得た。

 しかし、今は違う。明確な想い人がいる中、そういった蠱惑の坩堝に身を浸らせるよりも、もっと大切な存在の傍にいたい。自分たちで、平和な世の中を作り出していきたい。そう言った英雄的ヒロイック志向に、あの一件以来目覚めているのだ。

「――魅力的な提案ではあったけれど。でも私には……礼安さんがいるので。今私の頭の大体を礼安さんで支配されていることくらい、知っているものと思いましたがね」

「あら、ごめんなさいね。別に同性愛だろうと、恋路の邪魔なんてしないわ。でも――私も『ソッチ』の気があるのよね。だからそう易々とは諦められないかな、なんてね」

 チーティングドライバーを手にし、艶めかしい手つきで装着、起動させる。

『Crunch The Story――――Game Start』

「変身」

 投げキッスと共に異形化、あの渋谷の地でも複数見られた、女性型の怪人の姿へ変貌する。

 富士宮の肉体美をそのままデザインとして落とし込み、あられもなくはだけた着物を纏い、さながら花魁のよう。顔のゆがみとして、目は確認できず唇のみ。自分の肉体に驚異的な自信を持ち合わせた、男も女も等しく堕落させてきた、淫魔サキュバスの姿であった。

 エヴァもそれに対抗するように、デュアルムラマサを手にし、勢いよく分割。

構築、開始ビルド・スタート!!」

 雷光と共に、装甲を纏うエヴァ。その瞳は、覚悟の決まった戦士のそれと同様。

『ああ、実にヒロイック。そんな貴女を性的に堕としたいわ』

「堕とされなんてしないさ、強い意志がある限り、『武器の匠』として仕事をするだけさ」



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