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第九十一話

 信一郎らが戦いを繰り広げていく中、礼安、透、剣崎と橘の四人からなる第二部隊は、壇之浦銀行裏手から地下へ降りていった。

 第一舞台であるエヴァたちが正面から銀行を制圧する部隊なら、礼安たちは『教会』埼玉支部の完全制圧に動く部隊。地下は一階しかないものの、何が起きるか理解しがたいため、なるべく人員を割きたい意向をくみこういう部隊構成と相成った。

 その理由の最たるものが、地下だけはガジェット類を用いてスキャンが不可能であったのだ。他はバレてもいいがここだけは死守したい、その考えがあったのか、一切の事前情報がなかった。

 地下へ続くエレベーター内で、それぞれが戦いの準備を進めていた中、前線を張る二人が視線すら合わせることなく、互いの覚悟を確認しあう。

「油断すんなよ、礼安」

「大丈夫、私たちならどうにかできるよ」

 自身に満ち溢れていた二人をよそに、透の方をチラチラ見ては何とももどかしそうな態度をとる、剣崎と橘の二人。その二人の視線がよほどくすぐったかったのか、透はこらえきれず優しく語り掛ける。

「――ンだよ二人とも、言いたいことあるんなら早く言え」

 二人は何か語ろうとしていたものの、だいぶバツが悪そうにしていたため、透は「悪ィ」とだけ呟くと、エレベーター出入口の方へ向き直った。

 揺られること、ほんの二分。その二分すら、緊張感で何十倍にも膨れ上がっているように感じていた。冷汗が、静かに頬を伝うほどである。

 やがて、出入り口がゆっくりと開くと、研究所じみた場所へ辿り着く。

「ここが……埼玉支部の地下か。ここまで真新しい雰囲気かよ。成金行き着くとこうなんのかよ」

「何だか……嫌なほど静かで、命の香りや色すら感じないよ」

 一見謎ともいえる、礼安のぽつりと呟いた感想。しかし、その礼安の感想はすぐさま的中することとなる。

 エレベーターから出てすぐに、呼吸音すら聞こえない怪人が立ったまま項垂れていたのだ。間違いなく、近づいた瞬間に攻撃を仕掛けてくる、それほどの殺気を放出していたのだ。

 実にデザインはシンプル。しかし、他の怪人と比べると少々体躯は小さいほうであった。

 身長はざっと百七十センチ、中肉中背でありながらも体中からは歪な魔力が漏れ出していた。頭部には雷を思わせる形状の角に、背には蝙蝠のような悪魔の翼が生えており、尾?骨の辺りにはゆらゆらと揺れる、先端がとがった尾が一本。総じて、怪人というよりも悪魔と表現するのが正しいだろう。

 すると、透が剣崎と橘を背に、礼安を先に行くようジェスチャーをする。

「――でも、あの怪人……近くにいるだけで、殺気で噎せ返りそうだよ」

「――いや、よく分かんねえんだけどよ。グラトニーには殺してやりたいほどの恨みがあんだけどよ。こいつが……俺らを『呼んでる』んだよ。戦いてぇのかは分からねえけどな」

 試しに、武器を構えつつその怪人の横を急いで通るものの、礼安には見向きもしなかった。最初から怪人にとって、相手は透以外にあり得ないといえる様子であった。

 礼安は透らに静かにサムズアップだけすると、グラトニーが待ち構えているであろうその先へ急ぐのだった。

「……さて、お前に何の縁があるんだか。喋ってもらおうか」

 その透の問いかけに一切答えることなく、フリッカースタイルの構えを取る怪人。その構えに違和感を覚えながらも、剣崎と橘の二人に目線を合わせ共に叩くことを示す。

 しかし、二人は透の前に出て、それぞれが念じ始める。するとすぐに、二人は人とは異なる姿へ変貌。その姿は、ビリヤードで用いるキューとボール十六種。

「――は?」

 事情を知らない透は、呆気に取られてしまう。しかし、透の新たな『武器』となった二人は彼女に語り掛ける。

『――ウチら、どうやら力のあり方というか……因子の方面としては武器に近いらしくて』

『アタシらを武器としてこき使ってよ! トーちゃん!』

 通常のビリヤードのキューよりも、はるかに太く強靭なキューと、魔力を少し込め打つだけで尋常でない速度で飛ぶ白球。本来の西遊記の物語では一切の縁のないものであったため、最初は気圧されたものの、キューを如意棒に見立て構える透。

「――へえ。確かに……今は現代。昔からの物語に、少しくらい現代のスパイス加えた方が、戦いの幅が広がるってことかよ。面白ェこと考えやがったよ学園長」

 ドライバーを装着し、すぐさま変身する透。そして挑発的に手を何度か招く。それが開戦の合図となった。

「英雄学園東京本校一年一組所属、天音透!! 殺されていったスラムの人々のため、そして俺の大切な家族を取り戻すため!! いざ、尋常に勝負だこの野郎!!」



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