思えば、青はいつだって他の兄弟を思いやる心優しい男であった。それに透からの施しも命が保てる最低限までしかもらうことはなく、より幼い弟や妹たちに分け与える。
それは、妹や弟、ひいては透を心から信頼し、愛していたからだ。
透自身に語ることはなかったが、青は透のことを家族としてだけではなく、異性として好きだった。もし大きくなったら、そしてお互いに決まった相手がいなかったとき、青は透と結ばれたいと思っていたのだ。剣崎と橘はそのことを知っているがゆえに、より涙が溢れだし止まらなかったのだ。
透は、その事実を知らなくとも、非常に義理堅い、家族のために戦う存在。青の魂を確かに受け取ると、大粒の涙を流しながらも残された二人に指示する。
「ケンちゃん、タッちゃん!! ――ここから出ようとするやつは、容赦なく攻撃しろ。俺は――二人の意志の分まで……青の仇を討ちに行ってくる。」
号泣しながらも、静かに頷いて肯定する二人。そしてその二人の思いも受け継ぎ、礼安のもとへ走る透。
走りながらも、思い返すは家族の思い出。スラム街で暮らしていたために、全くもって恵まれなかった環境下でありながらも、その生活は辛く楽しいものであった。殺戮された家族との生活も悪くはなかったが、スラムに落ちてからもそれは変わらず。
青たちとの共同生活で、透は多くのものを学んだ。生きる上で必要な基本知識から、家族であることの大切さ。そしてその間に生まれる、人として大切な情緒。どれだけこの環境であることを強制した存在が憎たらしかろうと、そこで得たものは確かなものばかり。
涙が、とめどなく溢れる。自分のふがいなさから結局はこうなってしまったがゆえに、自分がとにかく許せなかった。そして、まだ年端もいかない中で、勇猛果敢に殴り込んだ家族たちに対する親ゆえの怒りと、勇敢さを湛える称賛。それが渦巻いていたのだ。
(お前らは……いつだって無茶をする。俺を思ってくれているが故の行動だってのは……分かっているがよォ)
そう家族への悲しみにふけっていると、遠くの方に人影を見た。それも複数。現時点だと該当者が多かったがために、逆に絞れてしまったのだ。
(――そうかよ。お前はどこまで行っても外道だし……アイツはどこまで行ってもクソお人よしだ)
血を流しながらも、その場に辿り着いた透。その場では、今まさに礼安が生身のままグラトニーに痛めつけられていたのだ。