グラトニーは、礼安に対しある提案をしていた。それは、『この天音家が負うはずだった責任を、痛みを以って思い知る』こと。そして既定の『責任』を背負いきれば、子供たちを解放するという。
無論、幼子にそんなことをさせられないため、礼安はその痛みを請け負った。怪人体となったグラトニーが、一切の情け容赦なく、礼安を蹂躙していたのだ。
顔面に何発も拳を叩きこみ、腹部には臓器はおろか骨も複雑骨折してしまいそうなほどの暴力を振るわれ。
しかしそれでも執念で立ち上がり続ける礼安に苛立ち、殺すつもりで拳を振るおうとしていたのだ。
しかし、それを透が即座に変身し、その拳を何とか受け止め、礼安を下がらせる。
「馬鹿野郎、何でこうなるまで黙って殴られ続けてんだよ!! 死んでもいいのかよ!!」
透が礼安に対し怒りを露わにすると、彼女は血だらけの状態であっても苦しい表情を見せることなく、ただ笑って見せたのだ。
「だって……あの子たちは天音ちゃんの大切な『家族』だから。それなら……私が傷つくことで万事解決するなら。私は喜んで……天音ちゃんの家族の代わりに傷つけられるよ」
その狂気じみた礼安の思考に、何も言い返すことが出来ずにいた。同じようにして、家族の皆を、身を挺して守り抜いた長男を目の当たりにしていたからだ。
そんな透を目の当たりにして。グラトニーは嘲笑っていた。先ほどまで自分の暴力への欲を満たしていたばかりに、実に気分良い様子であった。
『いやはや、エントランスでは楽しんでいただけたようでなにより。そこな瀧本家のご令嬢が宣ったようなことをあの子供は言い放ちましてねえ。もとは貴女が月に返すはずの借金を返せなかったことが全てですが……そんな目も当てられない醜態をお教えするわけにはいかず。いやはや、実に悲しき物語ですねえ』
「お前が……お前みたいなド畜生が全てやったことだろうが!! 金にしか目のない、意地汚い下種野郎が!!!!」
そんな透の反抗的な態度に苛立ったグラトニーは、その場で捕らえられていた兄弟たちを殴りぬいたのだ。子供たちは頬に走る激痛に悶えながらも、力強く自分たちを守り続けてくれた姉を見習った影響か、一切泣かなかったのだ。
『実に不愉快です。
「もとはお前が理不尽に水増ししていったことだろうが、このクソ野郎!!」
透が立ち上がろうとしたものの、グラトニーは弟と妹たちを守るべくかばっていた赤の首を乱暴に持ち、透にわざと見せるようにして仁王立ち。
『あーあ、貴女が反抗的な態度をとったことで……再び『あの時』のようになってしまう『妹』が増えてしまう』
その言葉を聞いてしまった瞬間、透は怒りを忘れ、青ざめ、へたり込んでしまう。
「や、止めてくれ……あ、ああああっ止めて下さい!! どうか、俺が悪かったからああぁぁァァッ!!」
その豹変した態度に疑問を抱いた礼安は、何とか体を起こしながら問い掛ける。
「い、一体どういうこと……? 天音ちゃんの家族は天音ちゃん含めの『八人』なんだよね?」
その礼安の言葉に、グラトニーは笑いをこらえることが出来ずに、紳士然とした態度はいずこへ、大きく下品に笑ったのだった。
『おやおや、この様子だとお仲間にも打ち明けていない様子! よろしい、では天音透がひた隠しにしていた、最悪の真実を打ち明けましょうねェ?? それが、彼女の知的欲求を満たすには十分な題材ですからァ!!』
「や、止めてくれええェェェェェッ!!」
透の慟哭もむなしく、グラトニーは薄笑いの状態で、高らかに宣言した。
『天音透にはァ!! 見殺し同然に目の前で死んでいった両親のほかに、『