『――――それが、全ての顛末。そこにいる存在を徹底的に搾り取る。なんせ私をコケにした存在の子供ですから。それくらいは当然でしょうに。理解が遅い、変に自我を持ったガキはこれだから躾なければなりませんね』
未だ、グラトニーの腐った性根は健在であった。
心の古傷をこじ開けられ、さらにその傷に塩をこれでもかと塗り込まれた、下手したらそんな状況などまだましだ、生ぬるいと思えるほどに、透は壊れていた。
虚空に「ごめんなさい」とつぶやき続ける透。それはスラム街の同志に対してのものか、両親に対してのものか、それとも妹に対してのものか。瞳に光など宿っておらず、ただぼろぼろと涙を流し続けるのみ。
先ほど、仮とはいえ家族を一人殺した事実が、より傷をえぐる。自分には何も守れない、『最強』なんて夢のまた夢、身の丈を知り搾取され続けている状況が何より平穏であったことが、最悪の状況を作り上げている理由そのものであった。
少しでも歯向かう意思を持った瞬間に、大切なものが次々に消えていく。その絶望が、皆に分かるだろうか。それが今、たった十五歳の少女の身に降りかかっている、絶望のかたちであるのだ。
『私の当然なる『復讐』は、これからも無論ずっと続く。貴女が私に少しでも歯向かう意思を見せた瞬間に、そのレベルはどんどん上昇していく。死のうとするのは……お優しい貴女だからできませんよね? ここに存在する年端もいかない子供たちを……たかだか『自分が辛いから』、たったそれだけの理由で投げ出しませんよねえ??』
グラトニーが、子供たちの頬を乱暴に掴み、宙へ持ち上げる。実に苦しそうな表情をしていたものの、絶望の底に辿り着いていた透に、助けを求めることはしなかった。同じ痛みを知っているからこそ、精一杯の気遣いであった。
『だけどそれがァ……甘い甘い甘い甘い甘いィィィッ!! 実に甘ちゃんな部分なんですよ!! 結局は私のような絶対的強者に搾取され続ける!! それが一番平和な選択肢になりうるのですから!! 自分たちの身銭を切って、崇高な存在たる私に金銭の徹底的な奉仕を行っていれば、死ぬことは無いのですから!!』
高嗤うグラトニーに、何も言い返せず自分の行いを悔いるばかりの透。
歯向かうことは悪。そう考えていた透が目の当たりにしたのは。
「――――あああァァッぁぁああああああああッ!!」
繰り出される右拳。無論変身などしていないため、生身の肉体そのまま。対して相手はチーティングドライバーで変身している怪人体。普通なら、怪人体を生身の状態で傷つけることなど不可能。鋼鉄に拳を叩きこむような無謀。
しかし。そんなことは知らないといわんばかりに。
礼安が、グラトニーを全身全霊の限りを以って、殴り飛ばす光景であった。