グラトニーの攻撃は、実に容赦がなかった。女だろうと、いや女だからこそ、攻撃がより苛烈なものとなっている。自分よりも弱い存在を徹底的にいたぶる、性根のねじ曲がった彼らしいものである。背に背負った武器を次々に射出、風の魔力を用いて自由自在に操る。
しかし。その攻撃に翻弄されるのはあくまで
それぞれの攻撃を、エクスカリバーで弾き飛ばしたり、飛んできた武器をいなしたり。
透が数多の攻撃を掻い潜りながら、グラトニーの眼前まで迫るも、叩きこもうとした拳はグラトニーの顔前で急停止。
『俺の能力は
「そうか、『俺』の意志ではぶん殴れねえならよぉ――――」
ほぼ同タイミングで辿り着いた礼安が、透の右ひじを全力で蹴り、彼女の拳を顔面にデリバリー。
「『過失』の一撃は、防衛対象にはならねえよな??」
今のものは、透の意志とは関係なしに、礼安の攻撃によってもたらされて『しまった』攻撃。屁理屈のようにも思えるが、実際ヒットしたのだ。
『変な理屈ばかり並べてんじゃあねえこのドグサレ脳ミソが!!』
「でもよぉ、実際ヒットしてんのに理屈もクソもねえだろ非モテ守銭奴豚野郎。抜け道見つけやすい下らねえ
能力の弱点、それはどんなものにも存在する抜け穴。弱点のない能力など、この世には存在しないのだ。
苛立ちが頂点に達したグラトニーは迫っていた二人を豪風により弾き飛ばし、地面へと叩きつける。その場に無数の武器を同時に叩きつけようとするも、それはどこからともなく放たれた、十六発の球による乱反射によって華麗に防がれる。
そして、それを行った人物が誰なのかくらい、透には予想が出来た。
「――そうか、『過失』の一撃には、『跳弾』も入る。でかしたぞ……二人とも」
巨大なドームの入り口に立つ、剣崎と橘。その二人は、礼安と透の二人を無言で応援していた。今までの因縁を終わらせられる、希望の象徴たる二人であると。
「そして……能力に完全適応外の礼安。お前なら全力の攻撃を叩きこめるだろ。トリは任せたぜ」
「――――いや、そんなことはないよ、透ちゃん。私と透ちゃんの二人で、引導を渡せる」
その言葉に疑問を抱く透であったが、すぐにその謎が理解できることとなる。
グラトニー後方にでかでかと飾られたモニターが、急ではあるがひとりでに付く。そこに映されていたのは、エヴァと信一郎であった。
『まだるっこしいクズ相手に論議など交わす必要性は無いから、結論から言おう……天音ちゃんの借金は現時刻を以って……ぜーーんぶチャラにしたよ☆』
グラトニーは、その信一郎の言葉に呆気に取られていた。
『ふ、ふざけるな!! 数百億なんて、そんなおいそれと払えるはずが――――』
信一郎の手元に映るデバイスには、国家予算など鼻で笑えるほどの資産が映し出されていた。数百億など、たかがはした金であることを如実に示していたのだ。
『天音ちゃん。今回だけじゃあなく、『誰かに頼ること』を覚えた方がいいよ。全て、自分一人で抱え込むなんて――そんな馬鹿はもうやめなさい。もう自分に……
それは、多くのことを抱え、結果圧し潰されてしまった透の心に突き刺さる。学園長は、ただ椅子に座って踏ん反りが得るだけの存在ではない。多くの学生の状態を見やりながら、最適な学ぶ環境を提供する。それこそが、信一郎の一番の仕事であるのだ。
『――それとぉ……あの修行の時の、ビビッときた痛快な一撃、
言いたいことだけ伝えると、通信はすぐに断絶された。
「――そうかよ。俺らの枷が……外れたのか。もう自由、って訳か……」
礼安は透に笑いかけ、手を差し出す。それは、ムカつく奴を徹底的にコテンパンにしてやろうという、礼安からの救いの一手であった。
「――おう、やるしかねえだろ」
その手を力強く握ると、礼安は透をぶん回し、グラトニーに向け投げ飛ばした。
その唐突ともいえる襲撃に、無数の触手や武具を用いて応戦するグラトニー。
しかし、それは無意味なものであった。
生成した如意棒と自らの分身が、力任せに触手をぶった斬っていくのだ。
通常、如意棒に斬撃の特性があるわけではない。殴打することでダメージを生じさせる武器である如意棒でなぜ触手を斬れるのか。それは風の魔力によるものであった。かまいたちに似た風を一点に集中させることで、刃物より鋭い斬撃武器に届きうる存在となるのだ。
『や、止めろ来るなドブネズミ風情が!! 借金をまた増やされたいか!! 今以上に生きづらくなるのは嫌だろ!?』
苦し紛れの言い訳に、透は言葉ではなく行動で示すのみであった。
ただただ、怒りの感情をむき出しにしながらグラトニーの武具を破砕していく。徐々に打つ手を無くしていっているのだ。触手は再生させればまた元通りの状態になるだろうが、それにも限度は存在する。
今まで自分がやられたように、じわりじわりと追い詰めていくのだ。それこそが、今まで自分勝手な借金に悩まされた結果の、透の『復讐』であったのだ。
しかし、透の手は止まってしまう。それは、今まで自分たちが負ってきた痛みと、何ら変わらなかったためであった。グラトニーと同じ『復讐』なんて、自分たちにとってはちゃちなものだと。
大声を張り上げ、礼安の名を呼ぶ透。
「もう……奴と同じみみっちい『復讐』には飽きた! 一気に、終わらせてえんだが……相乗りしてくれるか」
その瞬間、礼安のライセンスホルダー内にある、一つのライセンスがひとりでに動き出し、礼安に語り掛けた。他でもない、あの二人のイゾルデであった。
『騎士様、ここは私たちとアーサー王様の力を合わせるべきですわ』
『本来ならもうちょいムードを……ま、ええか! 騎士様強さイカついからなぁ!』
何か言いかけたシロであったが、すぐさまライセンス内に戻り、礼安の手元に渡る。
礼安はそのライセンスに笑みかけながら、『トリスタンとイゾルデ』のライセンスを認証、装填。即座に起動させると、通常とは異なる音声が鳴る。
『アーサー×トリスタン、マッシュアップ!! アースタンフォーム!!』