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第百二話

 礼安の左横に、トリスタンの装甲が新たに生成。荒々しくも合体すると、礼安の新たな形態となったのだ。

 アーサーのメイン装甲が右側にずれ、左半身にトリスタンの装甲を纏ったもの。マントや基本武装はそのままに、二つのライセンスの力を宿しさらにパワーアップしたものであるのだ。

「一気に終わらせるなら、多分これが一番でしょ」

 透や埼玉にまつわる全ての因縁を片付けるには、オーバーな力を以って制する以外にないだろう。

「――――ありがとうよ、礼安」

 それに対し、誰にも聞こえないほどの呟きで礼を述べる透。後方に宙返って、ドライバー両側を力強く押し込む。礼安もまた、透の方へ跳躍しながらドライバー両側を勢いよく押し込んだ。

「知ってるか礼安、じわじわ『復讐』された奴に対しての、最も効率の良い尊厳破壊方法は……たった一発で終わらせること、らしいぜ!! 馬鹿みたいに思えるだろうが、その方がスカッとするからよ!!」

「――うん、一撃で終わらせよう、透ちゃん!!」

『超必殺承認!! 罪人を裁く、裁定の聖剣ルーラー・オブ・エクスカリバー!!』

 エクスカリバ―に礼安の魔力が集結し、グラトニー胸部に斬撃を飛ばし切り拓く。そこに現れるのは、フォルニカにもみられた黒い球。当人が背負った罪の大きさや罪悪感によって肥大化、異形化していくのだが、グラトニーに罪悪感は無い。背負った罪の十字架によって巨大なものとなっている。

「貴方の罪を、頂戴!」

 再度礼安のドライバー両側を押し込み、両者飛び蹴りの体勢を整える。

『『超必殺承認!!』』

「「これで終わりだァァァァァァァァッ!!」」

 どれだけ複雑怪奇なものを仕組まれようとも、結局はここに帰結する。陰湿・陰惨な復讐には、気楽で快活な復讐を。『目には目を、歯には歯を』の一文が有名なハンムラビ法典も真っ青な、華麗な復讐劇であったのだ。

その想いは電光石火のようにライトニング・リベレイター!!』

身外身たちが紡ぐ、勝利への導線シンガイシン・シャイニーヴィクトリー!!』

 胸元にある黒球目掛け、超高威力の飛び蹴りが炸裂。黒球はあっさりと壊れ果て、残るはそれでも威力を余裕で殺しきれない衝撃のみ。特に恨みつらみ全てが、常人のそれよりも遥かに重く密度のあるものであった、透による攻撃は学園長に繰り出した時の威力の、まさに二倍以上。

 衝撃を受け止めきれず、二人のキックをもろに食らうグラトニー。この時ばかりは、無駄にあるタフネスを自分自身で心底恨んだ。窮鼠猫を噛む、ではないが、元債務者と殺しを請け負ったターゲット、その当人の抵抗力を甘く見ていたのだ。

 どれだけ当人が計算高かろうとも、感情のブレによる人間の覚醒、それを計算の内に入れるのはあまりにも不確定要素が過ぎる。そう思い、復讐やお人よしさを感情に何一つ入れていなかったのだ。

 しかし、今まさにグラトニー自身の体に降りかかるは、地盤を余裕でひっくり返すほどの衝撃二発分。いくら装甲で肉体を補助していようとも、いち人間が放っていい威力などではない。もはや人間の姿をした傾国兵器であるのだ。

 だからこそ、グラトニーは自分の行いを初めて後悔した。

 風と雷の合奏曲アンサンブル、というより化学反応ケミストリー。はじめはかみ合う様子などありえなかった二つの魔力は、多くの苦難を経験しながらも次第に溶け合い、互いに共鳴しあっていく。

 そのため、通常ならあり得ないほどの威力が、さらに増していくのだ。時間にしてみれば、ほんの数瞬。しかしその数瞬が、何分にも、何時間にも感じられるほどに、痛みの波状攻撃が止まらないのだ。

 その場に、轟音と圧倒的衝撃波が巻き起こり、子供たちは前方を見ることすらできない。しかし子供たちに届く衝撃は、いつの間にか張られていた礼安と透の魔力障壁によって幾分かマシなものに。

「これは――!」「うん、間違いないよ」

 その場にいる五人の子供たちは、二人の英雄の勇敢な姿をわずかながら視認した瞬間、全てを確信した。

「「「「「二人のお姉ちゃんが、勝ったんだ!!」」」」」

 『GAME CLEAR!』の文字が、二人の結末を示していたのだ。



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