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第百八話

「――という訳で、武器科と英雄科、一年次と二年次の交流も兼ねて、『合同演習会』を開催します!」

 急に講堂に集められたと思ったら、唐突に二年次すら去年経験しなかったことを告げられる。場の静まり返り方は、実に異常であった。

「……あれ、みんな強くなりたいんじゃあないの??」

 皆、「それはそうだけど……」と言いたげな困惑の表情ばかりであった。

 今まで、こんな突拍子もない催しごとは行ってこなかった。実地演習や、仮免許を持つ生徒に付き添い研修を行うことはやってきたが、こんなことは初めてである。三年次に聞いても同様の回答だろう。

「――でも、すっごい楽しそうだね!」

「……まあ、俺の最強への道を示せるなら、賛成だぜ」

「貴女がた……知ってはいましたが好戦的が過ぎませんこと?」

 真っ先に名乗りを上げたのは、礼安と透であった。大方の予想通りであった。それに付き添う形で院もなす術なく立ち上がった。

 この三人は、一年次を代表する最強格の生徒。信一郎も、より躍起になり行程やルール説明を行い始めた。用意時間がどこにあったのかは知らないが、ご丁寧にスライドも用意していた。


 ルールは単純、一年次と二年次がタッグを組み、二週間の間地下に広がる屋内実習場で、仮想敵を倒しながらポイントを稼いでいく、というもの。もっともポイントの高い生徒のタッグは、進級するのに有利になる成績点を獲得できる。

 仮想敵は、一番弱いものは未熟な一年次でも撃破できるものだが、最も強い敵は明確な弱点を突かないと一生倒せないものだったり、単純に二年次でも撃破が難しいものだったり。ただし協力すれば倒せる、絶妙なバランスに仕上げている。

「まあ、今回初めての合同演習会だから、こういう特別ルール作るのも違うかな、ってのはあったけど……最も強い仮想敵ゲストを撃破出来たら、その時点でそのチームの勝利としよう」

 特別ゲストについては、名前と姿両方、完全に伏せられていた。その点について質問を受けた信一郎は、屈託のない笑顔で、

「秘密にした方が、好奇心そそられるから教えなーい!」

 もはや言葉遣いが学園長のものではなかった。原初の英雄のくせして感覚が一人のギャラリーであった。

「パパー、一つ聞きたいんだけど……」

「学園では学園長って言いなさい礼安!!」

 院のツッコミが入るものの、信一郎は一切咎めない。モロな親バカっぷりが表面化する。

「この……『敵のポイント加算』って??」

 いい質問だね、と呟きとびっきりの笑顔を向けると、スライドを次のものへ切り換える。

 仮に、仮想敵がタッグを倒した際は、そのタッグに割り当てられている点数が敵に入る、というもの。戦闘技術もその点数分学習、向上するため、より手が付けられない存在となる。ただし、撃破した際得られるポイントもその分上昇する。雑魚敵自体のポイントは明かされていない。

 注目したいのは、それぞれのタッグに割り振られているポイントについて。それぞれ隠された計算されないポイントが分配されており、それぞれのタッグの強さに比例する。

 仮に最強格とされる礼安たちが敗北したら、その礼安+タッグとなった生徒の各氏ステータス分強くなり総ポイントが上昇するのだ。

「これら隠しステータスとされるポイントは、今のところの学業成績で決めさせてもらったよ」

 それぞれの生徒のデバイスに贈られるのは、自分のポイントデータ。タッグを決めた際は、双方のポイントが合算され可視化される。礼安、院、透は一年次内で最強の三人であるため、一律二十ポイントである。

「じゃあ、これからワクワクドキドキのタッグ決めと行こうか!」

 学園長は酷く楽しそうに、教壇の上に置かれた信一郎のデバイスを操作する。

「これからデバイス内のくじ引きアプリで、ランダムな数字が表示されるよ! 一年次、二年次双方で同じ数字の人がタッグだよ!」

 礼安は一抹の不安を感じ取ってはいたが、それがどこから齎されたものかは理解できなかった。誰と組めるか、その不安かもしれないと割り切って、デバイスの画面を凝視した。

 そして、その運命の時は、唐突に訪れる。

「一番だ、一番の人いますかー??」

 手、というかデバイス自体挙げられたその先には、二年次一同礼安に同情する目が向けられた。

「――一番は俺っちだよ、ルーキーちゃん!」

 多くの生徒が姿勢を正して座っている中、一人だけ気だるげに寝そべり、デバイスを力なく振って笑って見せる、一人だけまさかの下駄の人物。

「一番タッグ、決まったね! 前に出てきてもらおうか」

 一年次最優良生徒、そして一年次最強の生徒。瀧本礼安とタッグを組むのは。

「――森の相手をさせられるなんて、あの子も優秀なのに可哀そうだな。気まぐれに振り回されなきゃあいいけれど」

 森と呼ばれた生徒がその声をする方へ圧を向けると、途端に静まり返る二年次たち。

「――俺っちは森信玄モリ ノブハル。君と一緒、英雄科二年よん。二週間、よろしくねん」

 彼の雰囲気は、礼安と正反対でやる気なさげ。服装としては、『俺がルール』とだけ書かれた、首元がヨレヨレのTシャツに、肩まではだけるほど着崩したパーカー。それにまさかの紺の特注ボンタンを合わせる強気なファッション。ただのボンタンではなく、しっかり難読漢字が羅列されたものも刺繍もされた、元々どういう人となりをしていたのか、実に分かりやすいものである。その中にあったのは、常人には読めない『おおいちざ』の漢字だった。

 例に漏れず眉目秀麗であり、たれ目がちな表情ではあるが、そんな緩い表情に攻撃性とうさん臭さが累乗されるような、眉間の辺りの小さな丸サングラス。涙ぼくろ込みのその何を考えているかよく分からないミステリアスな表情は、多くの女子の心を射止めてきた。髪形は少々尖り気味の濃い紫のツーブロック+マンバンヘア。別名サムライヘアともいわれるヘアスタイルである。

「これからよろしく、礼安っち」

「よ、よろしくお願いするします!」

 丙良相手でないため、実にぎこちない立ち振る舞いの礼安。そんな彼女の様子を察した信一郎は、講堂の外を指さし案内する。

「決まったタッグから、屋内実習場に向かってくれたまえ! 案内は二年次の生徒が頼むよ」

 信一郎は信玄に目だけで指示を出し、礼安のエスコートを了承した信玄は、挨拶もそこそこに、礼安は信玄の案内で屋内実習場に向かうこととなった。


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