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第百十話

 所変わって、屋内実習場別入り口。

 屋内実習場には、色んな場所から入り込むことができる。その総数、百以上。いざというときのシェルターの役割を果たす場所でもあるため、複数設置しているのだ。そのうちの一つが第一図書室だった、というだけである。

 礼安たちと同じく、優勝候補と称されたのは丙良・透ペア。お互いエレベーターから出でて、屋内実習場に足を踏み入れた。礼安たちとは異なり、奇襲を受けることは無かった。

「――なるほど、もう各場所で粗方始まっているようだね。僕たちも優勝目指し張り切って行こうか」

「……ああ」

 丙良は、ここに来るまでの道のり……廊下やエレベーター内でも会話を何度か振っているものの、空気感は実によろしくない。

 それもそのはず、つい二週間前まで実に険悪な雰囲気であった。事情を何も知らなかったとはいえ、礼安や院のことを『七光り』呼ばわり。挙句の果てに丙良にも結構酷い罵倒を浴びせた。これまた神奈川支部との攻防を何も知らないため。

 埼玉での案件以降、透は一度頭を下げ丙良もそれを許したはずだが、一度悪くなってしまった空気感というのは、どこぞのハイテンションガールがいない限りどうにもならない。透は何だかんだ重度の不器用者。丙良もかつて人間関係で深刻なトラブルを経験している。

 二人とも、罪悪感のある者同士でタッグを組まされたことを、心底辛く思っていたのだ。

「――透ちゃん、僕たちも早速仮想敵を倒していかないと、同期たちに置いていかれてしまう。過去の蟠りは一度捨て置いて、協力してくれないか」

 透は目を合わせることもできないままであったが、静かに頷いた。

(――きっと、この間のことをまだ引きずっているんだ。僕は許したけど……きっと自分が許さないんだろうな。透ちゃんは、あの二人同様だいぶ自分に厳しい子だから)

 お互い複雑な心境であったが、透はデバイスを確認しつつ、風を生みだし、辺りに散らしながら仮想敵を索敵しだした。

「……凄いね、もうベース能力をコントロールできるようになったんだね」

「――まあ、そうっスすね。色々、あったんで」

 ようやく少しは会話出来たことをうれしく思いながら、ロック・バスターを肩に担ぎながら、土の能力を発動。集中するため目を閉じ、地表から伝わる微細な振動を感じ取る。仮想敵の特徴は、形態によって様々であるが、英雄や武器側を探し回るため野蛮に走り回るだろう。

 人間の走るリズムではない場合、例えば四足歩行の場合。それは即座に現地に駆け付け撃破。

 人間と同じ二足歩行のリズムの場合。その場合は勢いを感じ取り、まずは観察。変身動作等を行ったら同業者とみなす。それ以外は様子見か、駆け付け撃破。

 土の力だけだとこういった『観察』の時間がいるのが弱点だが、ここでタッグを組む者の力が活かされる。一年次内だとベース能力を好きに発動できるのは、礼安、院、透の三人のみ。その内透のベース能力である風こそ、最も相性がいいのだ。

 今のような索敵方法を行った場合、疑念が生まれる対象の生む『風』を感じ取れるのだ。つまりは、息遣い。明瞭になっていない不確定要素を、風の一要素である程度確定させることができるのだ。

(――この二人が組んだのも、正直学園長の何かしらの作為を感じてはいるけど……タッグになれたのはある意味ラッキーかもしれないな)

 次第に、微細な音が収束していき、近くに仮想敵が三体ほど集まっているのを理解した丙良は、透を呼び止める。

「――敵っスか」

「ああ、そのようだ」

 ロック・バスターを地面に突き立て、振動のする方へ地面を流動させる。異変を感じ取った獣型仮想敵三体が、即座に木陰から現れる。

「準備は良いかい、透ちゃん!」

「……言われずとも!」

 透はドライバーを装着し、『孫悟空』のライセンスを認証。丙良はすかさず『ヘラクレス』のライセンスを認証する。同時に装填するとともに、同じ先を見据える二人。

「「変身!!」」

 風を纏い現れる、俊敏な装甲と、土塊を大剣で薙ぎ払い現れる、強固な装甲。

 正反対の存在でありながら、互いに手を取り合ったのだ。

 何も語らず、足裏から暴風を噴射させ高速移動。獣型仮想敵三体を逃がさないように、周囲を暴風で囲っていく。それにより巻き上げられるのは、正しく土煙。

「――! そういう事。ナイスだよ、透ちゃん!」

 ロック・バスターのグリップ部を二度捻り、大剣を豪快に振って、魔力を辺りにばらまく丙良。

 その魔力に触発され、土煙中の粒子はやがて固体となり、無数の強固な礫に。中心点に向かって乱回転する風に乗り、敵個体を容赦なく屠っていく。

 手を前に突き出し、全力で握りしめると礫が獣仮想敵を巻き込んで収束。誰も逃げられないほど硬質化された、土の繭が生まれる。

 さらにグリップ部を捻り、丙良自身を包み込むほどの魔力の奔流を起こしていく。

『必殺承認! 壕放磊落ごうほうらいらく!!』

 ロック・バスターを重力そのままに、全力で振り下ろす。魔力のみの斬撃が、やがて当たりの土を全て巻き込みながら、斬撃の性質と共存させるように土を纏い殴打の性質メインへ変化。

 繭を打ち壊し、獣仮想敵も相当のダメージを負った。しかし、敢えて倒す寸前で止めたのだ。それは今回のタッグの進化を目の当たりにしたい一心。

「――一番おいしいところは、君に全部譲ろう」

 風に乗り、数メートル上空に留まる透。丙良の声は暴風により一切聞こえていなかったが、未だ倒されていないことから全てを察知した。

「――! ……悪ィな、センパイ」

 ドライバー両側を押し込み、右足に魔力を奔らせる。瞬時に、本体含め九人に分身する。

『必殺承認! 身外身たちによる大騒ぎの夜シンガイシン・フィーバーナイト!!』

「改良版初お披露目だ、有難く食らっとけ!」

 八人の分身体が、三体の獣仮想敵に蹴りを叩きこみ、一直線に並んだほんの一瞬を狙い本体である透の蹴りが貫き、全てをかっさらう。

 オーバーキルとも思えるダメージを受けた仮想敵たちは、盛大に爆散しデータの粒子となり消えていく。ロック・バスターからライセンスを取り出し、拍手しながら変身解除。着地しスムーズに変身解除した透が、デバイスの画面を丙良につきつける。

 丙良と透、それぞれ生徒中最大点数を保持しているため四十点スタート。そこに三体の敵の点数である十五ポイントが加算され、合計は五十五ポイントに。

「先ほどの敵は一体辺り五ポイント……塵も積もれば何とやら、といった感じかな?」

「――丙良、センパイ。俺を信じてくれたの……感謝するッス」

 まだぎこちなくはあるが、それでも名を呼んでくれたことが丙良にとって、何より嬉しかった。丙良は優しく笑いかけ、透に拳を向ける。

「……こちらこそ。言葉なしにあれだけの連携が、現時点で取れたのは最高さ。ともに二週間、しっかり頑張っていこうじゃあないか」

「――スポ根ものみたいなノリ、嫌いじゃあ無いっスよ」

 その丙良の拳に、透自身の拳を軽くぶつけた。少しは関係が改善されたようで、空気は二人の足取りと一緒に、ほんの少し軽くなっていた。

 一年次最強クラスの透と二年次最強クラスの丙良。礼安たち同様優勝候補たる透・丙良タッグは現在順位『三位』であった。

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