目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第百十一話

 一方、院・エヴァタッグが降り立ったその地は、既に戦場、荒れ地そのものであった。

 惨劇。まさにそう形容すべきものであった。多くの一年と二年生徒が、戦闘不能状態に陥っていたのだ。

 辺りの五階建てほどのビルは数棟倒壊し、電柱はあっさり圧し折れている。生徒たちのデバイスドライバーはすべて破壊されており、ライセンスも修復不可能なレベルまで破砕されている。

 ライセンスが修復できるために必要とされるものは、その英雄のデータとある程度の戦闘記録。昔のゲーム機のように、ライセンスは記憶媒体そのもの。ドライバーや変身機能を備えた武器は、その記憶媒体からデータを引き出しプレイするゲームハード、と表現するのが正しいか。

 しかし、これが記憶媒体として、依然として未熟なものだとしたら。修復に必要なものが片方かけてしまい、仮に修復が出来たとしても、そのスペックは以前のものより大きく下回る。他ライセンスでサポートをしないと、ライセンスを装填せず変身するエントリーフォームと大差ない戦力となってしまうのだ。

「――酷い」

 思わず口をついて出てきた言葉は、英雄やその相棒たる武器に対して向けるべきではない、心の底からの憐みの言葉。しかし、院はそこまで非情になり切れないのだ。

「一体、だれがこれほどの被害を生んだのでしょう……」

 近くでまだ無事な生徒を探していたものの、簡単には見つからなかった。瓦礫を何とかどかし、少しでも見つかる可能性を増やす努力を重ねたものの、見つかるのは重傷を負った生徒ばかり。

「――これだけの被害を生めるのは、該当者としては多くないでしょう。二年次の生徒だとしても限度があります」

「そうですね――って! 院さん、危ない!!」

 推理しようとする院を邪魔するように、どこかからか攻撃が飛来する。間一髪でエヴァが勘で気付き、院を瓦礫の少ない方へ押し倒す。

「大丈夫ですか……?」

「ええ、あいあおうおあいあうあえあえんあいありがとうございますわエヴァ先輩……|いいょういおいゅうあうういいおおおおおえあ《非常に呼吸が苦しいことを除けば》」

 どういった体勢か。まさにエヴァの豊満な双丘が、院の顔面にそのままひっくり返っている形。院自身、そこまで『大きさ』が無いため、出会った当初からなるべく意識しないようにはしていたのだが、どうもここまで如実に見せつけられると――圧倒的敗北感が彼女の脳内を支配する。

「ああごめんなさいすんごいえっちなシチュでした!!」

 しかし、そんなふざけた考えはさておいて、なおも赤面するエヴァを横に受け流しつつ立ち上がると、予想外の人物が現れた。

 それは、傷つき倒れ伏していたはずの英雄科、武器科含む二年次生徒。表情はとても虚ろで、デバイスドライバーを扱っているはずが、装着されていたのはチーティングドライバーであった。

「――一体、何が起きているんですの!?」

「英雄学園側を裏切った、ってことかな」

 しかし、その表情は芳しくなかった。まるで、『自分の不本意で』楯突いているような。

「助けて……くれ……」「部外者がいるんだ……」「痛い……」

 院は危険だと分かりつつも、思考汚染手前の二年次一人に急いで近づき、肩を揺さぶる。

「――教えて下さいまし! 誰が、このようなことを!?」

 すると、最後の力を振り絞るように呟いたのだった。

「……片手剣を携えた――誰かと……『念銃』を持っている……誰かだ――」

「――!! そろそろ不味いです、院さん!!」

 歪な魔力の脈動を感じ取ったエヴァと院。即座に飛びのくと、悲鳴や叫びをあげながら二年次生徒たちが、強制的に怪人体へ変身していく。

「――今は、とりあえず沈黙させることが大事ですわ。諸先輩方を救わないと」

「……そうですね、電光石火の如く終わらせて、詳細を聞きたいですね」

 ドライバーを装着する院は、エヴァを庇うようにして立とうとするも、エヴァは院の横に立つ。手に握られているのは、『デュアルムラマサ・Mark3』。院としては驚愕そのものであった。

「え!? エヴァ先輩も変身できるんですの!?」

「――まあ、『色々』ありまして。英雄たちのそれとはちょーっと違うんですがね……任せっきりで待つばかりなのは……性に合わないんですよね!」

 それだけである程度納得した院は、ノールックで『ギルガメッシュ王』のライセンスを認証、装填。エヴァもまた、詳しいことを詮索せず受け入れてくれた院に対し、心の中で礼を述べつつ『ムラマサ放浪記』を認証、セットアップ。

「――変身!!」「構築、開始ビルド・スタート!!」

 炎と雷がそれぞれに分厚く纏われ、駆けながら瞬時に英雄としての姿に変貌。

 襲い掛かる怪人に対し、的確に人体の急所に拳を叩きこむ徒手空拳の院に、デュアルムラマサにより攻撃を適度にいなし、怪人たちの体中の筋を断ち切り、そこから電撃を流し込んで、むやみやたらな抵抗を抑止するエヴァ。

 いくら自分たちの方が戦力として優れているとはいえ、数で圧されると少々厄介なため、まずは無力化に徹することが正解だと、二人は悟ったのだ。

「少々近接戦は……不得手なのですが!」

 そうぼやきながら生成するのは、紅斧弓こうふきゅうバビロニア。即座に分割し、アックスモードへ変形。

 胴体ががら空きとなった怪人に対し、力任せに刀背みね打ち。それでも炎を纏った攻撃であるため、まるで焼き印を入れられたような痛みを伴う。

「優しいですね院さん――私のムラマサは諸刃なので、加減が難しいんですよね!」

 複数の怪人に対し、電光石火の如く移動しつつ、超高電圧を帯びた斬撃を放つ。心臓マッサージの電気ショックなど嘲笑うかのような、数十万ボルトの容赦ない電撃が襲い掛かる。

 脳から送られる電気信号をそれ以上の電圧で阻害しながら、相手の体力を徹底的に削いでいく。それこそが、エヴァの戦い方であった。

「――本当、意外と遠慮がありませんね。同級生だから、とほんの少しでも手が鈍ると思っていたのですが」

「まさか。大体が私のおっぱい目当てで近づくような不埒な輩だったし……私の趣味でもないし、その後恨まれるとかどうだとか、細かいことは考えませんよ! 私にはかわよさんな女の子や武器ちゃんたち、かわよさんフェスティバルな礼安さんたちがいるので!!」

 ある意味完全に吹っ切れたその思考に称賛しつつ、二人は同時に必殺技を叩きこむ態勢に入る。

『『必殺承認!』』

「Are you ready?」「言われずとも!」

 アックスモードからアロー&ボウモードへ変化させ、渾身の力を以って弦を引き絞る院と、デュアルムラマサに膨大な魔力をぶち込み、それを足元の電力と一対の短剣に分配するエヴァ。

天の牡牛、貫く灼熱の一撃ファイア・トゥ・ヘブンリーブル・ショット!!』

村正剣劇壱の段・雷電合飛燕ムラマサリハーサル・ニレンブッタギリ・ライデンモード!!』

 複数の怪人をすり抜けるように尽くぶった斬り、それら全てを貫き射抜く一筋の矢。

「知ってますか、雷と炎って……案外相性良いんですよ」

 瞬きすら許さず、空間すら軽く歪むほどの速度を持った一閃で、〆の一閃。炎の矢は内に秘めた爆炎を炸裂させ、超高電熱を辺りに撒き散らす。

「――威力は充分ですが……目には、結構毒ですわ」

「ああチカチカしますか!? 帰ったら、もうちょいこのデュアルムラマサの火力調整をしないと……」

 完膚なきまでの完勝。事実上の同士討ちであるため、ポイントには一切加算されないものの、己の成すべきことを行った二人。静かに拳を打ち合わせ、コンビネーションは心配いらず、実に天晴であった。

 院・エヴァペア、総計四十ポイントで現在順位五位であった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?