一方、院・エヴァタッグが降り立ったその地は、既に戦場、荒れ地そのものであった。
惨劇。まさにそう形容すべきものであった。多くの一年と二年生徒が、戦闘不能状態に陥っていたのだ。
辺りの五階建てほどのビルは数棟倒壊し、電柱はあっさり圧し折れている。生徒たちのデバイスドライバーはすべて破壊されており、ライセンスも修復不可能なレベルまで破砕されている。
ライセンスが修復できるために必要とされるものは、その英雄のデータとある程度の戦闘記録。昔のゲーム機のように、ライセンスは記憶媒体そのもの。ドライバーや変身機能を備えた武器は、その記憶媒体からデータを引き出しプレイするゲームハード、と表現するのが正しいか。
しかし、これが記憶媒体として、依然として未熟なものだとしたら。修復に必要なものが片方かけてしまい、仮に修復が出来たとしても、そのスペックは以前のものより大きく下回る。他ライセンスでサポートをしないと、ライセンスを装填せず変身するエントリーフォームと大差ない戦力となってしまうのだ。
「――酷い」
思わず口をついて出てきた言葉は、英雄やその相棒たる武器に対して向けるべきではない、心の底からの憐みの言葉。しかし、院はそこまで非情になり切れないのだ。
「一体、だれがこれほどの被害を生んだのでしょう……」
近くでまだ無事な生徒を探していたものの、簡単には見つからなかった。瓦礫を何とかどかし、少しでも見つかる可能性を増やす努力を重ねたものの、見つかるのは重傷を負った生徒ばかり。
「――これだけの被害を生めるのは、該当者としては多くないでしょう。二年次の生徒だとしても限度があります」
「そうですね――って! 院さん、危ない!!」
推理しようとする院を邪魔するように、どこかからか攻撃が飛来する。間一髪でエヴァが勘で気付き、院を瓦礫の少ない方へ押し倒す。
「大丈夫ですか……?」
「ええ、
どういった体勢か。まさにエヴァの豊満な双丘が、院の顔面にそのままひっくり返っている形。院自身、そこまで『大きさ』が無いため、出会った当初からなるべく意識しないようにはしていたのだが、どうもここまで如実に見せつけられると――圧倒的敗北感が彼女の脳内を支配する。
「ああごめんなさいすんごいえっちなシチュでした!!」
しかし、そんなふざけた考えはさておいて、なおも赤面するエヴァを横に受け流しつつ立ち上がると、予想外の人物が現れた。
それは、傷つき倒れ伏していたはずの英雄科、武器科含む二年次生徒。表情はとても虚ろで、デバイスドライバーを扱っているはずが、装着されていたのはチーティングドライバーであった。
「――一体、何が起きているんですの!?」
「英雄学園側を裏切った、ってことかな」
しかし、その表情は芳しくなかった。まるで、『自分の不本意で』楯突いているような。
「助けて……くれ……」「部外者がいるんだ……」「痛い……」
院は危険だと分かりつつも、思考汚染手前の二年次一人に急いで近づき、肩を揺さぶる。
「――教えて下さいまし! 誰が、このようなことを!?」
すると、最後の力を振り絞るように呟いたのだった。
「……片手剣を携えた――誰かと……『念銃』を持っている……誰かだ――」
「――!! そろそろ不味いです、院さん!!」
歪な魔力の脈動を感じ取ったエヴァと院。即座に飛びのくと、悲鳴や叫びをあげながら二年次生徒たちが、強制的に怪人体へ変身していく。
「――今は、とりあえず沈黙させることが大事ですわ。諸先輩方を救わないと」
「……そうですね、電光石火の如く終わらせて、詳細を聞きたいですね」
ドライバーを装着する院は、エヴァを庇うようにして立とうとするも、エヴァは院の横に立つ。手に握られているのは、『デュアルムラマサ・Mark3』。院としては驚愕そのものであった。
「え!? エヴァ先輩も変身できるんですの!?」
「――まあ、『色々』ありまして。英雄たちのそれとはちょーっと違うんですがね……任せっきりで待つばかりなのは……性に合わないんですよね!」
それだけである程度納得した院は、ノールックで『ギルガメッシュ王』のライセンスを認証、装填。エヴァもまた、詳しいことを詮索せず受け入れてくれた院に対し、心の中で礼を述べつつ『ムラマサ放浪記』を認証、セットアップ。
「――変身!!」「
炎と雷がそれぞれに分厚く纏われ、駆けながら瞬時に英雄としての姿に変貌。
襲い掛かる怪人に対し、的確に人体の急所に拳を叩きこむ徒手空拳の院に、デュアルムラマサにより攻撃を適度にいなし、怪人たちの体中の筋を断ち切り、そこから電撃を流し込んで、むやみやたらな抵抗を抑止するエヴァ。
いくら自分たちの方が戦力として優れているとはいえ、数で圧されると少々厄介なため、まずは無力化に徹することが正解だと、二人は悟ったのだ。
「少々近接戦は……不得手なのですが!」
そうぼやきながら生成するのは、
胴体ががら空きとなった怪人に対し、力任せに
「優しいですね院さん――私のムラマサは諸刃なので、加減が難しいんですよね!」
複数の怪人に対し、電光石火の如く移動しつつ、超高電圧を帯びた斬撃を放つ。心臓マッサージの電気ショックなど嘲笑うかのような、数十万ボルトの容赦ない電撃が襲い掛かる。
脳から送られる電気信号をそれ以上の電圧で阻害しながら、相手の体力を徹底的に削いでいく。それこそが、エヴァの戦い方であった。
「――本当、意外と遠慮がありませんね。同級生だから、とほんの少しでも手が鈍ると思っていたのですが」
「まさか。大体が私のおっぱい目当てで近づくような不埒な輩だったし……私の趣味でもないし、その後恨まれるとかどうだとか、細かいことは考えませんよ! 私にはかわよさんな女の子や武器ちゃんたち、かわよさんフェスティバルな礼安さんたちがいるので!!」
ある意味完全に吹っ切れたその思考に称賛しつつ、二人は同時に必殺技を叩きこむ態勢に入る。
『『必殺承認!』』
「Are you ready?」「言われずとも!」
アックスモードからアロー&ボウモードへ変化させ、渾身の力を以って弦を引き絞る院と、デュアルムラマサに膨大な魔力をぶち込み、それを足元の電力と一対の短剣に分配するエヴァ。
『
『
複数の怪人をすり抜けるように尽くぶった斬り、それら全てを貫き射抜く一筋の矢。
「知ってますか、雷と炎って……案外相性良いんですよ」
瞬きすら許さず、空間すら軽く歪むほどの速度を持った一閃で、〆の一閃。炎の矢は内に秘めた爆炎を炸裂させ、超高電熱を辺りに撒き散らす。
「――威力は充分ですが……目には、結構毒ですわ」
「ああチカチカしますか!? 帰ったら、もうちょいこのデュアルムラマサの火力調整をしないと……」
完膚なきまでの完勝。事実上の同士討ちであるため、ポイントには一切加算されないものの、己の成すべきことを行った二人。静かに拳を打ち合わせ、コンビネーションは心配いらず、実に天晴であった。
院・エヴァペア、総計四十ポイントで現在順位五位であった。