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第百十四話

「――あいつの……信玄の身近な存在を一人残らず消すこと。それによって英雄側の戦力を削ぐこと。それが俺たち……『教会』茨城支部全体の使命だ」

「メインミッションとサブミッション……どうも逆転しているような気がしてならないが? 仕事に私情は禁物だろう?」

 瓜二つの男は、目深に被ったフードを脱ぎ去り、その奥に湛えた、深い絶望に染まった瞳を覗かせる。本人と同じ垂れ目ではあったが、与えるプレッシャーは別格。信玄とは異なり黒子は無いのだが、本人同様女を堕とす美貌を持ち合わせている。

「教祖は――『それでいい』と肯定してくださった。故に、文句は言わせないぞ」

「わーったよ、迂闊にお前さんの面倒くさい事情に、足踏み入れたくはないからよ」

 屈強な男はその場で自ら折れたものの、瓜二つの男はまさに手にしているその剣を指差す。

「――なら、なぜ俺たちの作戦に相乗りしてきた? 貴様もまた、あの『タキモトライア』に肩入れしている証だろう」

「……俺は、ただ『血沸き肉躍る闘争』を求めているだけだ。そこに因子元の英雄がどうだとかは関係ねェ」

「嘘をつけ。貴様の内に秘める英雄に感化されて、だろう」

 屈強な男は、即座に瓜二つの男の首元に刃を向ける。皮一枚隔てているだけで、剣をほんの少し引くだけで肉がもっていかれるほどの、強靭な殺意が具現化しているような、重みを感じ取る。

「別に俺らは、口論するためにここに来たわけじゃあねえはずだぜ? それに、俺とお前の立場は……俺の方がいくらか上だ」

「何を。喧嘩などするものか。――だが、立場はこの事件を元に、すぐに塗り替わることを示してやるが?」

 首元に刃が肉薄しているとは思えないほど、狂気的に笑って見せる、瓜二つの男。しばらくにらみ合っていたが、またもや屈強な男の方が先に折れた。

「――あーもー、わーったよ。なんだってガキンチョばりに強情だな、お前さんは。今回はこちらも合同演習会のようなものでもあるんだ。いがみ合わず、タッグマッチと行こうぜ」

「不本意ではあるが、仕方がない。千葉支部、足を引っ張るなよ」

 最悪の共同戦線。それはお互い様。この演習会を強引に舞台にした、内輪揉め、直接実力行使、騙し、奇策何でもありの、『英雄殲滅作戦』が始まろうとしていたのだ。


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