デバイスにそれぞれ、戦闘時以外の休息をとる場として設けられたのは、一つの区を丸々利用した仮設休憩所。お互い、その場所は明かされていない。英雄サイドの仮説休憩所が設けられた場所は大田区全体である。
仮想フィールドのため、区をまたぐ境目全域に、現実にはあり得ないほどのメカニカルな城壁が聳え立つ。扉の傍には、監視カメラとそれに付随する形でご立派なガトリングガンが備え付けられている。
それに城壁と城門は、並大抵の火力が高い攻撃だろうと簡単には壊れないようになっている。一番の馬鹿力である学園長だったら……壊れる。
デバイスを認証し、硬い城門がゆっくりと開く。その間も銃口とカメラはこちらを向いている。エヴァは酷く気分が悪そうであった。
「……エヴァちゃん、大丈夫?」
「――心配ご無用です……ありがとうございます礼安女神」
女神と呼ばれ、口角が緩みまんざらでもない表情だった礼安。その間も扉を開くのを待つばかり。
「――大分ゆっくりだね?」
「まあそこんところもアノ人考えてんでしょ。大凡五分くらい、ってところか。その間に英雄以外か無理やりこっち側の人間が入り込もうもんなら、扉脇のご立派なもので門番直々におしおき、って流れだろうねん。俺っちが築城した人間ならそうする」
ようやく開ききったのは、きっかり五分後。最強格六人が、特権など何もなしにようやく壁の向こう側に入り込めた。
壁の向こう側では、無人の大田区の街並みに、英雄の卵たちの営みが広がっていた。礼安たちの来訪を見やるも、特にこれと言ったアクションはしない。裏切るにもタイミングがあるのか、実に挙動不審な人物ばかり。
そんな英雄の卵たちに肝を冷やしながらも、礼安たちは割り振られた休憩施設の方へ向かうのだった。
大田区は、旧大森区と旧蒲田区が、昭和二十二年に合併し誕生した区である。日本有数の高級住宅地である田園調布、山王に代表される住宅都市の一面や、東部の臨海部や多摩区沿いは、京浜工業地帯に含まれる工業都市であり、町企業が集積する日本を代表する中小企業の街である。
故に、現在生存している英雄や武器たちにとっては、非常に居心地のいい場所そのもの。
礼安たち六人をはじめとして、皆にあてがわれたのは、当然と言わんばかりの田園調布の高級住宅。ただし、エリア急造でそこまで数は用意できなかったのか、三から四タッグで一棟、といった具合で用意された。
礼安たちが家に足を踏み入れたと同時に、二年次三人は部屋中を索敵。信玄は超聴覚、丙良は
結果、何も仕掛けられていないことが判明したため、二年次三人は静かに笑んで頷いた。それぞれが、しっかりと羽を伸ばせる完全空間と相成った。
「あーようやく休憩できる……割かしぶっ通しで礼安っちと一緒に走りこんだから……とにかく風呂入りてェ……」
「奇遇だね、僕もだよ……」
疲労が目に見えていた丙良達と打って変わって、女子四人は部屋決めで楽しそうに騒いでいた。
「私この部屋がいい! 一緒の部屋になりたい人ー!」
「礼安のお世話は私しかできませんの!」
「……俺が立候補しようかな。ガキンチョたちも世話してきたしよ」
「不肖ながら私エヴァが立候補させていただきます!!」
まさに、百合の花園。色んな騒動があった中でも、凛々しく咲き誇っている。いつしか、暗い表情だったエヴァの表情は、武器を目の前にした『いつも』のように、明るくなっていた。
「じじ臭い感じになっちゃうけど……女子同士楽しそうでいいねェ。学園長の思惑もあっただろうが……俺と組むことになっちまって申し訳ねえなァ」
「――多分、礼安ちゃんが軸となって盛り上げているんだろうね。先ほどのエヴァさんの表情や雰囲気を、無意識に感じ取った結果だと思うよ」
「――なに、礼安っちってエスパーかなんかの類?? あの子ベース『雷』よな??」
「ある意味ね。男同士、裸の付き合い中にでも、信玄にさっくり話しておくよ」
女子四人が楽しそうに部屋決めを行っていたため、四人に許可を取って男二人きりの相風呂の時間が生まれることとなった。