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第百三十一話

 復讐以外の道などありえない。しかし、その復讐対象は、いつだって握りつぶそうとする自分の手をすり抜けていく。今信玄を殺したら、本来のプランとは異なった未来を辿る。しかし、本来のターゲットは信玄自身の殺害、英雄陣営の戦力阻害。

 自分の理想を叶えるには、それ相応の労力がかかるうえに、相手が逃げるストレスを負わなければいけない。しかし『教会』上層部の願いを叶えることを優先すると、自分のこれまでの痛みは意味のないものへ立ち返る。

 嫉妬もクソもない。森信之という人間の存在意義すら疑ってしまうほどの、呆気ないものとなる。

 変身を解除し、追うことはない。しかしもし、この今の立場さえなかったら、追っていた。たとえ今が試合期間外とは言え、大将格が落ちたら、恐らくではあるが敗北する。拠点に攻め込む、夜時間の間、その陣営の者が裏切り同士討ちをする。この二点に関しては、試合の勝敗に直接的には関係のないものであるため、英雄たちのトップである学園長は直接出張らない。

 しかし、試合時間中の同士討ちや勝敗そのものと言える大将格の陥落は、無視できるものではない。英雄側が万が一、何かしら信之を陥れる策を講じていたとしたら、そしてそれにより大将の首が取られたら。どれだけ数的有利状況にあったとしても敗北するだろうし、何よりそれを無視し動き続ければ、学園長により確実な死が齎される。

 ルールの穴を突く上では『教会』側の完全有利。真っ当から勝負をしたがる英雄たちと比べると、そういった奇襲はある程度得手である。

 しかし、ここに大将格のルールが存在することで、不用心に攻めた瞬間にどれほど攻めていたところで、敗北する可能性が並走する。大将首のルールこそ、その奇襲を促すものでありながら、行き過ぎた奇襲を殺すルールであるのだ。

 行き場のない感情を処理することすら叶わず、その場に現れたのは待田ただ一人。その表情は浮かないものであった。

「――よォ、リーダー。何か、癇癪に触れたかい」

「……何でもない。そちらは、きっちり仕事をこなしたのか」

「……ああ、一年次殺すの俺に命じるなんざ、随分用意周到なこったァ」

 待田が信之に命じられていたのは、瀧本礼安の殺害。しかし、待田は瀕死で止めていた。まごう事なき嘘である。上の指示よりも、自分の楽しさを優先した結果、情けすらかけた。しかしそんなことは明かさない。現状どれほどの癇癪をぶつけられるのか、分かったものではない。

「――策を講じることに、やり過ぎなんて概念は存在しない。いつだって作戦内容をやり過ぎるくらいがちょうどいい。それこそが……俺の復讐の終着点なんだから」

「……手前の兄貴の絶望に対して、ご執心なこった。命じられれば……じじいが何でもこなしてやるよ。茨城支部に所属している以上、お前さんがトップであり、お前さんが俺の上司なんだ」

 その待田の言葉に、薄気味悪く笑んでその場を去る信之。去り際に、待田への書置きを手渡しながら。面倒に思いつつ開くと、信之の容赦のなさを思い知った。

『残存している英雄陣、特に女どもを皆殺しにしろ。女だろうと、容赦のないように』

 丙良を抜いた面子を全員殺せ。恐らく、信之は待田の嘘に感づいたのだろう。

「――――仮にも、俺の上司たる洞察力を見せてくれるな。あのガキンチョ……戦力で言ったら俺の方が上なんだが……」


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