「でも、人間、本当に、見た目だけじゃないと思いますよ?」
私は人が落ち込んでいると慰めずにはいられない性格だ。
だからつい、そんな事を言ってしまった。
「さっき、見た目と中身の二択がありましたけど、人柄が一番って言うのは本音ですし」
田中さんは溜息をつく。
「マナトは人柄もいいんだよなあ。敵だ……」
山田さんが同情したように、田中さんのコップへビールを注ぐ。
「まあまあ、お前も大変だよな。飲もう!」
木下さんが、ポン、と手を叩く。
「そう言えば、田中さんって、バランスとれてますよね。社長ほどじゃないけどイケメンだし、性格は面倒見がよくて申し分ないし。朝倉さん、彼氏いないなら、田中さんとくっついたらどうですか!?」
邪気のない笑顔。
私は唖然とした。
「何を言ってるんですか。もう。そういう話はやめましょう」
慌てて止めようとするが、山田さんと村上さんまで、何やら考え込んでいる。
「確かにお似合いかも」
「悔しいけど……」
もう、本当に、チャラ男のノリにはついていけない!
「田中さん、聞き流しましょう。ごめんなさい。巻き込んじゃって」
申し訳なく思いながら彼を見ると、妙に瞳がキラキラしていた。
「本当に、お似合いですか? ベストカップル? 朝倉さんと私が?」
ちょっと待って。この顔。
なんだかすごく嬉しそうなんですけど!
「ベストカップルとまでは言ってない。己惚れるな」
「でもまあ、似合ってるとは思うよ」
「へえええ。嬉しいなあ。ですって。朝倉さん」
田中さんはニコニコ笑顔で私を見る。
なんだ、この展開は。
山田、村上、木下のトリオと違って、田中さんはチャラ男のノリとはちょっと違うから、反応に困る。
と、誰かが、すっと私の背後に立ち、頭上から「楽しそうな話をしてるじゃないの。俺も混ぜて」聞きなれた声が降ってきた。
驚いて振り向くと、想像通りの人が、こめかみをピクピクさせながら立っていた。
黒いフードというラフな格好……。
えっ?
さっき咳き込んでた……あれはマナトさんだったの?
「「「社長!」」」」
「マナト」
田中さんとチャラ男トリオは声を合わせる。
トリオは明らかに驚いているが、田中さんはどこか冷静だ。
位置的にマナトさんの背中は見えていたはずだから、もしかしたらとっくに気がついていたのかも。
「社長!!!」
遅れてその場にいる全員がマナトさんに気が付き、騒然となる。
いつもよりうんとカジュアルな格好だが、存在感は変わらず圧倒的だった。
「たまたまカウンターで飲んでてね。邪魔しちゃいけないと思って黙ってたんけど、あんまり楽しそうだから参加していいかな? ごめんね」
マナトさんは白々しくそう言うと、「ちょっとずれて」と私に耳打ちしてきた。
「あ、はい」
驚きにまだ心臓をバクバクさせつつも、私は腰を浮かし彼のスペースを作ろうとする。
ところが、「社長! こっち来てください!」一番端の女性たちが、ウキウキした様子でマナトさんを呼ぶ。
「あ、いや」
マナトさんはそれでも私の横に座ろうとした。
「朝倉さんとはいつでも一緒にいられるでしょう。せっかくだから、総務の女性たちとも親睦を深めてきては? いい機会ですし」
田中さんがすまし顔で言う。
「……わかったよ」
マナトさんは渋々と言った調子で女性陣に向き直る。
「お邪魔します」
にっこり笑うと、歓声が起きた。
やっぱり人気があるなあ、と感心している場合ではなく、マナトさんはその張り付いた笑顔のまま、私に向き直った。
「じゃ、後でじっくりと」
「は、はい」
私は首を竦めながら、(私、浮気なんてしてないよね? セーフよね?)と心の中で呟いていた。