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150.目的を定めて

 通常フィールドに帰還したセナは、宿の一室で交換したアイテムの一覧を開いて確認する。

 過去のイベントでも入手出来たスキルオーブが一つ、EXPブースターが一〇個。今回のイベントで追加された信仰の巻物が五つ。これらは消耗品だ。

 素材枠には秩序の聖鋼が一〇個、混沌の魔鋼が一〇個、『完全遺骸ランダムボックス』が三つ。


 そして……ユニークアイテムの【ルミナストリアの羽根】が一つ。

 この【ルミナストリアの羽根】は各街に存在する教会へワープ出来るアイテムで、再使用にリアルタイムで四八時間という非常に長いクールタイムが必要になるが、ファストトラベルが可能になるのはとても便利だ。


「とりあえずブースターは全部ラーネにあげるね」

「らー♪」


 薬品のようなEXPブースターは全て植木鉢に注ぎ入れる。

 レベルが上がる実感があるのか、ラーネは喜んでいる。


「はい、レギオン」

「「わくわく」」


 『完全遺骸ランダムボックス』はレギオン行きだ。異口同音で楽しみにしながら開封すると、いつもの豪運が発揮される。


《――『アサルトハルピュイアの完全遺骸』を入手しました》

《――『イロウシェンシャドウの完全遺骸』を入手しました》

《――【寒鋼のフルルイヴェルの完全遺骸】を入手しました》


 出現したのはユニークモンスターの完全遺骸だ。どこかで発生したはずのユニークモンスターは、日の目を浴びること無くアイテムになってしまった。

 それは金属質でありながら生物的で、氷の結晶のような形をしたモンスターだった。フィールド上で遭遇することはもう無いのが、どのような生態をしているのか少しだけ気になるセナである。


 レギオンが【寒鋼のフルルイヴェル】を捕食して得たのは【寒鋼】というスキルだった。これは氷属性の金属化という非常に珍しい特性で、どのように使えばいいか判断に困る性能である。

 また、他の二つからは翼を生やして飛行できる能力と影の範囲拡大という、無難で分かりやすい特性を獲得した。


 ……余談だが、一部のユニークモンスターは管理者であるデルタが自主的に回収している。それは〝■■の種〟を植え込んだにも関わらず想定未満の変化しなかった個体からユニークの資格を剥奪するためであったり、都合の悪い方向へ進化を遂げてしまった個体を処理するためだったりである。

 そして、想定以上の性能を有する進化をしておきながら誰にも発見されず、以降も発見されたり変化することが無いと判断された個体は、〝■■の種〟だけ抽出した後に素材として再利用されるのだ。


「どんな感じ?」

「うーん……? んー……こう?」

「違う、こう」


 レギオンは戸惑いながらも【寒鋼】の扱いを理解し、それが極めて高い殺戮能力を有していることをセナも確認する。

 ざっくり説明すると、レギオンが広げた影を【寒鋼】の対象にした場合、それらは物質として存在しながら影という非物質の状態に落ち着くのだ。他者の干渉を受け付けないのに、相手に攻撃が命中するときだけ物質として判定される。そして、影の最大の弱点である極めて強い光に晒されても、物質としての特性によって影が薄くなることが無くなった。

 なにより、これは氷属性なのだ。触れただけで凍傷を負うレベルの冷気を宿した金属が弱いわけが無い。


「……寒いから室内はやめようか」

「レギオンもそう思う……」


 ただ、室内だとすぐに冷気が溢れて寒い。セナは防寒装備が手に入るまで狭い空間では使わせないようにしようと決めた。今の装備から乗り換えるつもりは一切無いので、恐らくポーションで一時的に耐性を得ることになるだろうが。




 さて、後は消耗品とその他素材の確認だ。スキルオーブはすでに死蔵しているので省く。


「信仰の巻物は、使用すると信仰量が増加します……? まあ、使っていいかな。貯めてもメリット無さそうだし」


 古びた羊皮紙の巻物を投げるように使用すると、封が外れてボウッ! と燃え尽きる。使い捨てアイテムであるスクロールと同じ消え方だったため、これで効果が発揮されたのだろうとセナは思った。

 しかし、あちらは使うと記された魔法が発動するという分かりやすい結果があるが、信仰量の増加はとても分かりづらい。パラメータを表示してくれればいいのだが、このゲームのシステムはプレイヤーに自身のパラメータの値を開示しないようになっている。


 まあ、何かが減ったわけでもなし。セナは気にしないことにした。


「こっちは後で使うから……」


 秩序の聖鋼、混沌の魔鋼はどちらもインベントリに仕舞う。

 本格的な金属加工は【鍛冶師】系統か【彫金師】系統のスキルが無ければ出来ない。それは運営が定めた仕様だ。スキルという概念があるからこそ、それを無視することは出来ないのである。


 そもそも使用用途は既に決めてある。

 選定の剣に関して精霊から情報を集めるユニーククエスト。これの最終地点は恐らく、剣の修復だろうとセナは予想していた。

 だからそれの素材にしようと思ったのだ。自分で使えないならクエストを達成するために使っちゃえと。


「行くよ、レギオン」

「ん、いよいよ」

「熱いのやだ……」

「ら~……」


 腰掛けていたベッドから立ち上がり、セナたちは宿を後にする。

 その足が向かう先は火山内部へと繋がっているダンジョン。目的地はそのダンジョンによって隔絶された最奥にある、ローグドリーという街が興る前から存在する岩窟の民ドワーフの聖地。

 その名を『炎霊祭祀場』。炎と鍛冶を体現する精霊が居るとされる場所だ。

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