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151.炎霊祭祀場へ続く道程

 ローグドリーにはダンジョンが存在している。それは一つだけではなく、それぞれ難易度が異なるため侵入には制限が設けられている。

 炎霊祭祀場に行くためには、その中で最も難しいダンジョンを踏破せねばならず、侵入するためには最低でもシルバーⅢでなければならない。


 セナのランクはなんだかんだでシルバーⅢに達しているため、ダンジョンへ侵入することは可能だ。

 従魔を従えているため人数という問題も解決している。


《――ダンジョン:古の大火口へ侵入しました》


 入場者を管理している門番に冒険者証であるドッグタグを提示し突入したセナ一行。彼女らを出迎えたのは荒々しい洞窟であり、奥へと進むほど温度が上昇する。

 とはいえ、攻略方法はいつもとさほど変わらない。


「レギオン、いつも通りお願い」

「任せて」


 影を大きく広げ、レギオンは洞窟内部を満たしていく。雑魚は斃されレギオンの養分となり、驚きのスピードでマッピングも進んでいった。

 マップによると洞窟部分は数百メートルほど、下るように伸びているようだ。

 セナはそのままレギオンを先行させつつ、次の階層へと向かう。


「わっ……」

「あつい……」


 そうしてしばらく進むと、開けた空間に出た。

 いや、開けたなんてものじゃない。とても、とても、何処まで続いているのか分からない程とてつもなく広い空間。熱波のせいで遠くの方は朧気だ。

 前に一度だけここに来たことがある。その時は強烈な環境ダメージに耐えてまで攻略する余裕が無かったので帰還したが、今は攻略するために来たのだ。


「レギオン、飲んでね」

「美味しくないからや」

「飲んで」

「…………わかった」


 セナはインベントリから耐火のポーションを取り出し、それを服用しつつレギオンにも手渡した。

 群れレギオンの補充にも腹の足しにもならない。しかも味も苦い。しかめっ面で少女レギオンは嫌がったが、大人レギオンが嫌がりながらも大人しく飲んだことで効果が発揮される。


「(三〇分しか持たないけど、これなら大丈夫そうだね)」


 このポーションはセナが製作したものだ。彼女は仮にも【上級調合師】スキル持ち。狩りの技術のみならず調合技術もジジに叩き込まれたため、最上級には及ばないが高品質レベル100相当のポーションを製作できるのだ。


 さて、古の大火口はここからが本番である。

 奥へ進むには橋のように掛けられた細い道を通らなければならない。万が一足を踏み外せば溶岩湖へ真っ逆さまとなる。

 更にモンスターは炎属性を有し、小さな凹凸を掴んで足場の下に潜んでいたり、宙を羽ばたいていたりと厄介極まりない。


 それでもここが封鎖されないのは、岩窟の民ドワーフの聖地に繋がる唯一の道だからだ。彼らは炎霊祭祀場に己の作品を奉納することで成人の証とするため、その文化を尊重するためにも封鎖するわけにはいかない。


 とはいえ、通常の人族であるセナには関係の無い事柄だ。全方位警戒しなければならないし、足を踏み外せばさすがにデスペナルティに陥る。

 しかし、彼女はこの危険極まりない道程をスキップする術を有しているのだ。


「――《神威:|死を運ぶ騎士《ペイルライダー》》《|嵐の王、亡霊の群れ《ワイルドハント・レギオン》》」


 憑依合身状態になるために《従魔纏い:群》を使ってから、セナは神威を発動した。

 今回纏ったのは少女レギオンである。レギオンはどちらもレギオンだが、肉体変化を得意とするのは少女レギオンのほうだ。

 そして大人レギオンは、影の拡大を得意とする。


「マスターの邪魔になるから、大人しく死んでね」


 ミゼリコルデ戦の時よりも圧倒的な数の狩猟団を生み出し、亡霊の群れは足場を凄まじい速度で駆け抜けていく。

 それは柱を伝って上へ下へと侵食し、飛行系の亡霊が宙を羽ばたく敵を狩る。


「じゃあ、あとは落ちないように補強だけして先に進もう」

「ら~♪」


 今は憑依合身状態なので、セナはレギオンの影を操作して足場が崩れないように補強した。

 そして、少しでもMPの消耗を抑えるために、セナは亡霊に跨がり奥へと進む。MPポーションに余裕はあるが、湯水のように使うのは憚られるのだ。


《――ダンジョンボス:【炎熱妖精・ラヴァピクシーズ】が出現しました》


 ダンジョンの醍醐味をゴリ押しで突破しボス部屋に辿り着いたセナたちを出迎えたのは、マグマのように燃え滾る妖精の集合体である。


「炎なら冷やせばいいよね、レギオン!」

「ら~ら~ら~♪」


 ラーネのバフを乗せ、【寒鋼】を用いて強烈な氷属性ダメージを叩き込む。

 もちろん《プレイグスプレッド》を使うことも忘れない。《従魔纏い:群》でレギオンと一体化してるとはいえ、セナ自身のアーツが使えないわけではないのだから。


 それでも、さすがは高レベルのボスモンスターと言うべきか。

 炎熱妖精・ラヴァピクシーズは多種多様なAOEが発生する攻撃を繰り出してくる。直線、曲線、円範囲、ドーナツ範囲とそれぞれで対処法が異なるし、HPもかなり多い。

 群れだからなのか当たり判定も個体ごとに設定されているし、うろちょろ飛び回るため厄介と言えるだろう。


「――《アローショット》」


 だが、セナの敵ではない。

 これは獲物だ。狩りの獲物なのだ。


《――【炎熱妖精・ラヴァピクシーズ】が討伐されました》

《――初討伐報酬として【炎熱妖宝玉】が贈与されます》


 兎さん爆弾を交えつつ、セナは着実にHPを削っていた。【邪神の尖兵】と比べればこの程度のボスなんて雑魚同然。

 面倒なギミックも存在しないため、時間は掛かったが無事に討伐出来たのだ。

 神威を使う必要すら無い。完璧な勝利である。

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