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153.打ち直してもらおう!

「さて……此の激情に巻き込んでしまったな! 詫びに何か打ってやろう!」


 しばらくして元の場所に戻ってくると、精霊はセナにそう告げた。

 攻撃する気は無かったとはいえ、精霊が放つ炎は後付けの耐性を貫通してセナにダメージを与えている。

 失敗作のポーションで全快する程度のダメージ量なのでそこまで気にしていないが、どうやらこの精霊はきちんと詫びないと気が済まないらしい。


「あ、じゃあ武器の強化とかって」

「金属製なら可能だ!」


 そこでセナは、腰からサブウェポンである短剣を抜いて見せた。この短剣はジョブに就く前、神域でジジから渡されたものである。

 補正があるわけでも装備スキルが付いているわけでもないが、当時入手可能だった他の武器と比べてもやけに性能が高かった短剣だ。


「……無理だな! 此がどうこうできる武器ではない!」

「え」


 しかし、炎の精霊はこの短剣を一目見て、自分ではどうしようもないと断言した。


「此は大抵のものは打てると自負しているが、さすがに神が製作した武器は無理だ! 此の手に余る!」

「神様が……」


 師匠であるジジからもらったという思い出補正に加え、欠損付与攻撃を可能とする《クルーエルハンティング》の性能に武器の良し悪しは寄与しない事実、メインウェポンは弓と従魔。これらの条件が重なってなんとなく交換せずにいた短剣だが、予想外の言葉が精霊の口から飛び出てセナは驚きを隠せなかった。

 思わず手に持ったそれを注視するが、しかしどう見ても普通の短剣にしか見えない。


「此が言えるのは、神器ではないが神器に等しい武器ということだけだな! その装束に似た力を感じるが……鍛冶の神が打ったか、他の神が編んだか、此では判断のしようが無い!」


 神器なんて現物があるかどうかすら疑わしいぐらい貴重な品だが、ジジはとんでもないものを弟子への餞別にしたようだ。

 とはいえ……本当に見た目は何処にでもありそうな短剣だ。神器に等しいと言われても信じ切ることが出来ない。


「故に、此が打ち直すとすれば装飾品に限られるが……」


 ジロジロと品定めするようにセナを観察する精霊。


「ふむ、どうせなら全て一つに纏めてしまおうか!」

「え、あの……っ!?」


 どれか一つだけ、というのが面倒だったのだろう。そう言い放つと精霊は、セナが装備していた装飾品を取り上げ、自らの炎で炙り始めた。


「ふむ、ふむ、ふむ! 魔法で編まれたにしては良い品だ! 根底にあるのが過去の記憶であるのも良い! これならば此の力で十二分に強化できる!」


 指環に、腕輪、ピアスと、セナが装備していた装飾品の種類は多い。それらが精霊の炎で融解し、一つに混ざり合っていく。


「安心するがいい! 此は鍛冶を司る精霊なれば、素晴らしき逸品に仕立て上げて見せようぞ!」


 混ざり合って一つの金属塊になったソレは、炎の槌で叩かれるたびに激しく光り、ぐにゃぐにゃと意味のある形へと変化する。

 セナの意見を一辺たりとも聞いていないが、ステータスを下降させずに装飾品の枠を空けられるなら、メリットしか無いのも事実。そのため、咄嗟に出かかった「やめて」という単語を呑み込み、成り行きを見守っているのだ。


「――完成だ! と、言いたいところだが、これでは凡庸に過ぎるか……」


 燃え盛る炎が消失し、一つの腕輪が残る。それは筒状の腕輪であり、鋼色の本体が炎で焼かれたことで濃淡が生まれている。

 また、腕の外側に当たる部分には五色の宝玉と三つの魔宝石が埋め込まれており、基となった魔塔の番人たち由来の装備スキルも備わっているのだろう。


 しかし、炎の精霊はこれを凡庸だと言った。


「此が見たところ、他にも同じものを身に付けた人間がいるな? 凡庸とはつまり、唯一性の無さにある! 相当な業物であったが、量産されているのであれば稀少とは言い難い!」

「……たぶん、強い人は持ってると思います」


 キルゼムオールはセナとは違うルートを通って帝国に来ていたため分からないが、あよんはシャリアの魔塔に挑戦している旨を話していた。

 友達が多そうな彼のことだ、きっとパーティーを組んでいるに違いない。そう考えれば、番人を撃破することで入手できる装飾品も当然ゲットしているだろう。


「で、あろうな。ならば、貴様専用に誂えてやろう! そうだな……病、毒、影、此はそれらに関する力を持たぬが、力の受け皿は作れる! 貴様、何か神に関する物品は持っていないか!?」

「……《プレイグスプレッド》」

「重畳!」


 疫病の珠を生成すると、炎の精霊はそれを受け取って腕輪と溶かし合わせた。

 金属を溶かす炎で炙れば疫病も消えてしまいそうだが、疫病そのものではなく込められた力を溶かし込んでいると彼は語る。


「他にもあれば出すがいい! 此が全て纏めてやろう!」


 ということなので、セナは思いつく限りのアイテムを取り出して精霊に渡した。

 《プレイグポイゾ》をたくさん重ねがけした『壊毒のポーション』に、ずっと前からインベントリの肥やしになっていた【王蛇の毒水晶】、他の毒物もぽいぽいと取り出していく。


「そういうことなら……レギオンの影も素材にしていい」

「いいの?」

「マスターの力になれるなら、レギオンも嬉しい」

「じゃあ……」


 小さなレギオンを一体だけ作って切り離すと、「もえるぜー」と言いながら炎で燃やされ素材になった。

 そうして集められた素材が全て、腕輪へと集約される。

 最後にガンッ! と思い切り炎の槌で鍛えられれば、今度こそ完成だ。


「さあ、持っていくがいい! 無論、此からの詫びであるため礼はいらん!」


 形は先ほどとあまり変わらない。鋼色だった箇所は全て黒色と紫色によって塗りつぶされ、濃淡によって炎のような紋様を形成している。

 五色の宝玉の中心には毒々しい紫色の宝玉が新たに埋められ、腕輪自体も少し長くなっている。


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【セナの腕輪】

 焔の始祖が幾つかの装飾品を下地に鍛えあげた至高の逸品。毒と病を司る神の力の一片、かつての英雄の残滓、深い絆を結んだ従魔の一部、稀少なアイテムを注ぎ込まれたことで破格の性能を有している。神器ではないが、もしも世に出ることがあれば神器として認定されるだろう。


装備スキル:【魔力貯蔵・極大】【病毒補正】【孤群との絆】【アルバートの火】【リムリスの水】【ニーチェの土】【トゥータの風】【ジゼルの光】

MP+二〇%

STR+三〇%

INT+三〇%

END+三〇%

DEX+七〇%

AGI+三〇%


・所有者固定

・自動修復

・信仰値増加

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 ステータス補正は素材となった装飾品のものが合算されているので、装備しても補正自体は以前と変わらない。

 だが、そんなのは些細なことだ。装備スキルがたくさんあるのだから。

 後半の五つは番人由来のもので内容も同じ。【魔力貯蔵・極大】は魔宝石シリーズの装飾品を三つも融合させたためこれも問題無い。


 【病毒補正】はその名の通り、セナが用いる疫病及び毒物の効果が上昇するというものだ。具体的な上昇量は分からないが、大量の素材を注ぎ込んだため生半可な補正では収まらないだろう。


 そして【孤群との絆】は、【孤群のレギオン】を使役する限り、そのステータスの〇・一%をセナに合算するというもの。【従魔纏い・群】の使用中であれば更に〇・一%追加で合算すると記載されている。

 間違いなく、これが一番のぶっ壊れスキルだ。群れの総数がそのままステータスに反映されるような怪物の〇・一%が少ないわけが無い。


「満足のいく出来でなにより! では此は眠るとしよう! 分かっているとは思うが、間違ってもあの剣の打ち直しは此に――此らに頼まないことだ!」


 最後にそう述べて炎の精霊は姿を消した。当初の目的であった選定の剣についての情報は得られたので、これ以上滞在する理由も無い。

 セナたちは炎霊祭祀場を後にするのだった。

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