目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

155.本日は閉店しました(泣)

 お金を受け取り終えたセナは冒険者組合を後にした。

 帝都からリカッパルーナまで徒歩だと急いでも五日はかかるため、【ルミナストリアの羽根】のクールタイムが明ける三日後まで暇である。

 しかし、帝都に残っても特に目的が無い。セナはいつものように教会で祈りを捧げた。

 毒物は全て装飾品の強化素材として使ってしまったので、捧げ物にできるアイテムの数はあまり多くないが、捧げられる分は捧げてしまう。

 もちろん、いつか使うかもしれないレアアイテムだけは手元に残して。


 お祈りを終えて外に出るとすでに日が暮れていて、巡回をしている軍人以外の人影は見当たらない。

 冒険者組合に行ったのは夕暮れだったので当然のことだが、この時間帯だともう営業している店は無いだろう。

 セナたちは宿に戻って食事を済ませ就寝した。


「とりあえず日課は済ませたから……」


 朝起きて、体が鈍らないように軽く運動してから、セナは帝都の散策を開始する。

 リアルほど文明が発達していないこの世界では娯楽らしい娯楽はほぼ無いし、帝都付近のモンスターは大して強くない。故に暇なのだが、暇な時ほど時間が長く感じるものだ。


「ら~ら~ら~♪」

「ラーネはご機嫌だね」

「らら~♪」


 ただ、暇すぎるあまり気分が落ち込んでも従魔には関係無い。

 レギオンはセナの側にいるだけで機嫌がいいし、ラーネはのんびり光合成していれば自然とご機嫌になる。水と肥料もきちんと与えているので、ラーネが暴れることは無い。

 なお、兎たちは一切何にも考慮されないし、これからも考慮されることは無いだろう。


「ついたよ」


 セナが立ち止まったのはある飲食店の前だ。

 貴族街にほど近い一等地に建てられた三階建ての高級店で、貴族の子息や子女がよく利用するとされている。


「お一人様一万シルバーとなっております」


 入店するだけでお金を取られるが、それはサービスに対する対価だと説明を受けた。レギオンの分をいれて三人分の料金を支払うと席に案内される。

 朝だから空いているのだろうか、案内されたのは一回の窓際だ。


「こちらメニューでございます」


 ウェイターがメニュー表を持ってきて机の上に広げる。滑らかな木板を更に滑らかにしたような手触りのこれ一つで、軽く数万シルバーは掛かるだろう。それが四枚も用意されている。

 さすがにリアルのように豊富なメニューでは無いが、どれも名前からして凝った料理であることが窺える。


「わたしはこれとこれで。レギオン、好きに頼んでいいよ」

「ほんと!?」

「マスター、本当にいいの?」

「うん。このまえ頑張ってくれたから。たくさん食べていいよ」


 そう、いつもなら屋台で適当に済ませるセナがわざわざ店を訪れたのは、レギオンを労うためだ。

 第三回公式イベントで、レギオンは文字通り粉骨砕身してセナの助けになってくれた。防具が強化され、神威も使えるようになり、戦力が大幅にアップした。


 さすがに群れレギオンの腹を満たすのはどれだけお金があっても不可能だが、一〇〇〇万シルバーぐらいなら奮発してもいいと考えている。


「じゃあ、これ! 肉たくさん!」

「あの、そちらはメニュー表で……」

「レギオン、それじゃ伝わらない。レギオンはこれ全部食べたい」


 少女レギオンがメニュー表を持ち上げ、ウェイターに差し出した。それでは意図が伝わらなかったが、大人レギオンが補足したことで、彼はさぁ……と顔を青くする。

 この人間にしか見えない容姿の従魔が人間以上に食べると気付いたからだ。

 主である少女が小食なのが唯一の救いだろう。尤も、セナは食事に意義を見出せないだけで食べようと思えばいくらでも食べられるが。


 ウェイターは急いで厨房に向かい、客席まで聞こえるぐらいの声量で調理を急がせ始めた。料理人の怒声も微かに聞こえるが、聞かなかったことにする。

 彼らには気の毒だが、セナとレギオンには関係の無いことだ。だって食べる側だもの。


 それからしばらくして、大量の料理がカートに載せられ運ばれた。

 厚切りのステーキ、高級魚の刺身、ふわっふわの白パン、瑞々しい果実、ワッフルにスコーン、ソースと和えた葉野菜、贅沢なスープ、ピザやパスタ、ハンバーグ、ドリアと、テーブルの上には次々と並べられていくが、レギオンはそれらをすぐに食べてしまう。

 料理を運んできたウェイターは戦々恐々とした様子で、空いた皿を取り下げる。

 そしてセナは、自分用のステーキとピザだけ食べた。


「お代わり!」

「レギオンまだたくさん食べれる。もっと欲しい」


 そしてまた同じ注文が入り、ドタドタと忙しそうにウェイターが入れ替わり立ち替わりして料理が運ばれる。

 レギオンは自由に食事している間、セナは暇なのでブドウをつまみながら自分のステータスを再確認していた。


「「「「「――またのお越しを、お待ちしております………………」」」」」


 しらばくして、もう提供できる料理がありませんと言われたので会計に移る。レギオンが在庫を食べ尽くしたことで一〇〇〇万シルバーを優に超えてたが、容易く支払える金額だ。

 もう来ないでくれと言いたげなウェイター及び料理人一同の視線を背に受け、セナたちは店を後にする。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?