帝都の東門からフィールドに出たセナは、帝国最東端の街リマルタウリを目指して北東へと歩を進める。
なぜ直接東へ向かわないのかというと、帝都から真っ直ぐ東に直進するとヒュドラ大連峰にぶち当たってしまうのだ。
ヒュドラ大連峰はただでさえ険しい山脈が連なっているというのに、ユニークモンスターと成った個体を頂点に高レベルのドラゴンが多数生息している。ボス級のモンスターが群れで生活しているため、迂闊に近づいてはならないのだ。
なので、大陸の東に抜けるにはヒュドラ大連峰を迂回する必要があるが、南だとエーデリーデ王国を経由しなければならなくなる。セナはエーデリーデ王国に立ち入れないため、必然的に北のリマルタウリに向かう必要があるわけだ。
「……主様」
「だって効率いいし」
「此はやりませんからね。此が得意なのはサポートであって、戦闘ではありませんから」
尖兵の影響で雑魚のレベルが二段階も上昇しているが、《プレイグポイゾ》と《マナエンチャント》を掛けた兎爆弾で一掃出来る程度だ。たとえ処理しきれなかったとしてもレギオンがサクッとトドメを刺すので、どれだけ襲ってこようとセナたちの糧になるだけである。
なお、ナーイアスは憐れむような目線で自爆させられる兎たちを見たが、特に手助けをするつもりは無いらしい。
《――レベルが上がりました》
道中で小規模なダンジョンを通過したが、そちらもやはり苦戦せずに突破。ボスモンスターはレギオンが完封し捕食した。
それでもボスモンスターから得られる経験値は雑魚より遥かに多いため、リマルタウリへの道すがら幾つものダンジョンが攻略されることになる。
「――ところで主様」
「なに?」
「主様はこの大陸に何体の尖兵が封印されているかご存じですか?」
「知らないけど……他にもいるってことは知ってるよ」
あまりにも暇な道中で、セナはナーイアスから色々な話を聞いた。
その話の大半は数千年も前のことなので参考になるかどうかすら怪しいが、邪神に関する話だけはむしろ信憑性が高かった。なにせ当事者なのだから。
「主様が討滅なされたものを含め、このプロロ大陸には四体の尖兵が封印されています。西のグロリア大陸には五体、北のヴェルディリウス大陸には尖兵が三体と眷属が一体。他にも南西のミルド大陸に眷属が二体、北の果ての大陸では三体の眷属が封印されています」
「そんなにいるんだ」
ナーイアス曰く、この世界に存在する大陸は魔大陸を除けば五つのみ。その全てに尖兵や眷属が封印されているとのことだ。
話を聞いている内に、セナはこのゲームの最終目標は恐らくそれら全ての討滅か、邪神そのものの討滅だろうと考えた。いつ終わるのかと言いたくなるぐらい遠いが、セナにとってはいつまでも続いてくれた方がいいのでむしろ助かる。
「これでも少ないのですよ。此が支えた〝勇者〟たちの活躍によって眷属は七体、尖兵に至っては三〇体ほど討滅されましたから」
「……その斃された眷属とかって強かったの?」
「ええ。当時はレベルという概念が無かったので比較するのは難しいですが、眷属だと七賢人が複数人で対処に当たる必要がありましたね」
さりげなく襲ってきたモンスターを水で窒息死させながら、ナーイアスは眷属の脅威を語る。
曰く、邪神の眷属は確立した自我を有し、人間のような個性があったという。それが手練手管を用いて攻めてきていたのだ。
だが、セナはそれよりも、アグレイア七賢人が一人ではなく複数人で対処していたという部分に驚いた。七賢人は限りなく神の領域に近づいた魔法使いという認識だったからだ。
七賢人が全員使徒なのかどうかは分からないが、少なくとも使徒級の力量を持つ人物が協力しなければならない。その事実を再認識し、セナは改めて目の前のモンスターを蹂躙する。
「ただ、このプロロ大陸に残っているのはあと二体だけのようですし、他の大陸からは封印が緩んだ気配はしません。文明が滅ぶ前にどうにか出来ると思いますよ」
「なら、大丈夫なのかな。尖兵は弱いって言ってたから、帝国以外でも対処出来るよね」
メルジーナを思い浮かべ、セナは他の国も大丈夫だろうと結論づけた。強いNPCはたくさんいる。プレイヤーが居合わせなくともどうにかなるだろうと。
実際、エーデリーデ王国にも英雄級のNPCは存在するし、帝国にはセナを含め九人も騎士がいる。尖兵相手に過剰なぐらいだ。
「でも、問題は眷属だよね。〝魔王〟が復活したら……」
「今は少しでも多くの力を蓄える時です。此を含め、主様には強力な手札が揃っておりますから。〝魔王〟に関しては、復活してから考えましょう」
人間から誕生する性質がある以上、〝魔王〟は封印しようが無い。最後に斃されたのが二〇〇〇年と少し前なので、実はいつ復活してもおかしくないのだ。
ナーイアスが危惧しているのはそれで、無慈悲な自爆レベリングを許容しているのも可及的速やかに強くなる手段として有効だからである。
そうこうしながら数日が経過し、もうじきリマルタウリが見えてくる頃。夜明けと共にテントを片付け旅路を再開したセナたちは、ある事件に遭遇した。