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191.素材の使い道を考えよう!

 リストラ=レギオンの餌という残酷な真実を目の当たりにした兎たちがガクブル震えているが、これで当分はパーティー枠を気にしなくて良くなったと、セナは軽やかな足取りで教会へと向かう。

 インベントリを埋める亜竜や純竜の素材を捧げ物にするためだ。


《――捧げ物を確認》

『……我が信徒よ、着実に強くなっているようでなによりだ。その功績を讃え祝福を授けよう』

《――恩寵によって【疫病の加護】が強化されました》

《――祝福によって【疫病の加護】が更に強化されました》

『……汝の熱意を我は嬉しく思う。だが、これは汝が使うといい。汝の旅を助ける力となるはずだ』

《――【天撃竜王の瞳】と【雷嵐竜王の瞳】が返却されました》


 いつものように捧げ物をして祈ったセナであったが、一部の素材は自分で使うように言われる。

 セナのスキルでは加工できないアイテムだったのでとりあえず捧げ物にしたのだが、このように返却されるのは初めてのことだ。


 竜王の瞳はそれだけ強力な素材ということなのだろう。そして、それを受け取らず信徒に返すあたりに女神の優しさが滲み出ている。

 セナは改めて感激した。


『……それと、不完全とはいえ【邪神の眷属】を討滅した褒美を汝に授けよう』

《――【女神の寵愛】が強化されました》

《――『古の狩人装束・レギオン』が強化されました》

《――【純粋無垢な光】が【無垢なる混沌の光輪】へ強化されました》

《――〝疫病運ぶ女神の慈悲無き狩人騎士〟が強化されました》


 そして、【邪神の眷属ガラテア】を討滅した褒美として更なる強化を得る。

 【女神の寵愛】はどの程度強化されたのか分かりづらいが、『改宗すると呪いに転じ、成長した全てのステータス、ジョブ、スキルを失う』とペナルティが重くなっていた。

 装備とジョブは純粋な強化で、補正値が上昇しただけに見える。


 【無垢なる混沌の光輪】は少し変化が起き、パーティー内の所属が混沌陣営に傾くほどパーティー全体のステータスが上昇する効果が増えた。

 セナ、レギオン、ラーネ、イルメェイが混沌陣営なので、そこそこの補正値となる。精霊であるナーイアスは中立陣営の所属だが、補正自体は受けるらしい。


「あれ、捧げるんじゃなかったの?」

「女神様が自分で使うようにって。だから加工できる人を探したいんだけど……」

「僕に聞かれても分からないからな」


 教会を後にして冒険者組合に向かうセナたち。

 異変が解決したことをまだ報告していなかったので、ついでに竜王の瞳を加工できる職人を訊ねるつもりだ。


「っ、あれが噂の……」

「騎士様の連れだってよ。すげぇな」

「ドラゴンを従えるなんて……」


 セナもそうだが、イルメェイはかなり目立つ容姿をしているため、すれ違うだけでひそひそと噂される。

 冒険者や軍人として活動しているNPCは憧れという側面が大きいが、そうではない一般市民からは恐れの感情が窺える。


「あの」

「は、はい!」

「このまえ受けた調査依頼なんですけど」

「……あっ、何か進展がありましたか!?」


 騎士という身分が知れ渡っているので、受付嬢はやけに緊張していた。が、さすがは冒険者組合の受付嬢。クエストに関する報告をしたい旨を伝えると、即座に紙とペンを用意して聞き取りの態勢に入る。


「解決しました」

「……はい?」

「山を騒がせていた原因はどうにかしたからな。しばらくすれば亜竜も落ち着くはずだぞ」


 しかし、調査依頼なのに解決までしてくるとは考えていなかったらしく、受付嬢は思わず耳を疑った。ぽかんと口を開けて、目線が手元の紙とセナを往復する。

 イルメェイが補足することでようやく事態を理解し、異変の原因や解決に至った経緯を根掘り葉掘り聞き取って纏めた。


「――ありがとうございます。これで依頼は完了となります」


 神代の時代に討滅されたはずの【邪神の眷属】が復活し、その瘴気によってヒュドラ大連峰を治める竜の王の一体が侵され、正気を失った亜竜が大移動を始めた。生息域が広がったのもそれが原因なので、しばらくすれば森の外に出てきた亜竜も元の住処に戻る。

 要約された報告内容がこれだ。【邪神の眷属】という特大の爆弾があったこともそうだが、偉大なる竜の王が狂ったという事実は途轍もない衝撃を与えたようで、受付嬢は報告を受けただけなのにかなり疲れた様子だ。


「あと、これを加工できる人を探しているんですけど」

「りゅ、りゅ、りゅ……竜王の、瞳……っ!?」


 そして更に爆弾が投下される。

 美人が台無しになるぐらい口を開き、今度は自分の目を疑う受付嬢。

 セナは知らなかったことだが、そもそも純竜の素材が出回ることは滅多に無く、竜の王の素材ともなれば国宝になってもおかしくないそうだ。竜王の瞳はその中でも特に稀少なアイテムであり、それが二つもあるのは異常らしい。


「と、とにかく仕舞ってください! 心臓が口から飛び出そうで……はあ、はあ、はあぁぁぁ」


 彼女の様子を見る限り相当稀少なのは間違いないようで、セナは言われたとおりインベントリに仕舞った。ここなら誰にも奪われる心配が無い。


「……その、先ほどの素材なのですが……加工できる職人は帝都にしかいないと思います。この街はハッキリ言うと辺境ですので、腕のいい職人はあまり在籍していません。ドラゴンの素材を専門とする職人もいますが、純竜の素材を扱えるかどうかといった具合ですので、やはり帝都で聞くべきかと」

「そうなんですね。分かりました」


 こそこそとアドバイスを受け、セナは一先ず帝都に戻ることにした。

 【天撃竜王の瞳】と【雷嵐竜王の瞳】を死蔵させておくのは勿体ないので、魔大陸を目指す旅より優先する形だ。

 【ルミナストリアの羽根】があるので行き来も問題無い。ついでにイルメェイの装備も探せば一石二鳥になるだろう。


 ……魔大陸に行くと宣言した手前、帝都にとんぼ返りすることに気恥ずかしさを覚えるが、女神が旅の助けになると言ったのだ。仕方ないことである。

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