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195.新武器お披露目の回

 三日後。またまた『ミス・グレンダの木工工房』を訪れたセナは、完成した弓の本体を受け取った。事前にサンプル品を手に持って調整の有無を確認していたので、とても満足のいく仕上がりになっている。

 だが、まだ完成ではない。『アルケイシア錬金工房』に預けた竜王の瞳と合成して初めて武器として完成するのだ。

 セナはその足で早速『アルケイシア錬金工房』に向かう。


「あのー」


 相変わらずカウンターに人がいない。

 鈴の音で客が来たのは分かるはずなのだが、やはり奥のほうから「入れるタイミングが遅かった」だの「いいやこれの分量が間違っていた」だの言い争う声が聞こえてくる。失敗ばかりしているようだが、大丈夫なのだろうか。

 それからしばらくして、一人の男がやってきた。


「……ああ、お前たちか。弓は出来たのか?」

「はい。これです」

「ふむ……やはりグレンダに任せて正解だったな。これなら竜王の瞳の能力を最大限引き出せる」


 彼はそう云うと、弓を持って奥に引っ込んだ。作業に入るのだろう。長時間待たされるとは聞いていないので、このままカウンター前で待つことにするセナ。


「――完成だ」


 一時間もせずに戻ってくると、カウンターの上に完成品が置かれる。セナはその完成した弓を受け取った。


 握りを上下から挟み込むように設けられた二つの穴。そこにスキルを用いた加工によって、宝石に似た輝きを放つようになった【天撃竜王の瞳】と【雷嵐竜王の瞳】を組み込んだ形だ。

 また、竜王の瞳を組み込むに当たって弓本体も大きく作られている。具体的には長弓を少し上回るサイズだ。二つも組み込むのだから仕方のないことである。

 装飾もかなり凝っており、【彫刻】系のスキルを駆使して彫られた繊細な意匠が随所に見受けられる。しかも黄金で縁取りがされており、とてもカッコイイ。


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【病毒神弓ヨウカハイネン】

装備制限:【〝猛威を振るう疫病にして薬毒の神〟の信徒】【女神の寵愛】【ジョブ:〝疫病運ぶ女神の慈悲無き狩人騎士〟】


 三代目ミス・グレンダの工房主が作りあげた本体に、四代目アルケイシア当主が加工した竜王の瞳を組み込んだ神弓。匠の技によって最上級の仕上がりになっている。

 〝猛威を振るう疫病にして薬毒の神〟の権能が染みこんだ世界樹の枝を素材にしているため、其の信徒でなければこの神弓は装備できない。地平線の彼方へ逃げようと、この神弓から放たれる矢は決して獲物を逃がさないだろう。

 女神の祝福によって神器へと昇格している。


装備スキル:【疫病付与・極大】【神毒装填】【エイアエオンリーカの導き】【天撃解放】【雷嵐解放】【竜撃ドラゴン・ロア

DEX+三〇〇%

DEX×一・二

MP+二〇〇%


・所有者固定

・自動修復

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 武器ステータスを見てみると、なんと神器認定を受けているではないか。装備スキルが六つも付いており、そのうちの一つは女神の名を冠しているパッシブスキルだ。【エイアエオンリーカの導き】は、獲物と定めた敵がどこへ逃げようと矢を導く追尾スキルのようである。

 【疫病付与・極大】はその名称通りで、【神毒装填】はMPを消費して魔法の矢を生み出すスキルだ。


 更に、竜王の瞳を組み込んだことによって発現した【竜撃ドラゴン・ロア】は、MPを一切消費しない攻撃スキルだった。【天撃解放】を使うと対単体の超高火力攻撃に、【雷嵐解放】を使うと対集団の超範囲攻撃に様変わりするらしい。


 しかも補正値は『プレイグ・ボウ』とほぼ同じだが、DEXが二重補正になっている。一見すると大したことのない数字だが、加算ではなく乗算なので、計算式次第ではとんでもない補正となる。


 余談だが、(基礎ステータス×分類補正)+[武器攻撃力+(スキル補正値×アーツ補正値)]-[(対象の合計防御力+装備補正値)+(対象のスキル補正値×アーツ補正値)]=与ダメージ。が通常の計算式であり、装備補正値はこの項目のいずれかに掛かるとされている。検証班が必死になって解き明かした計算式だ。

 なお、ここに加護やら環境やらで更に補正値が加わるため、『フェイス・ゴッド・オンライン』のダメージ計算式は混沌を極めている。検証班は悲鳴を上げた。


「じ、神器……」

「神器として認定される武器を手掛けたのはさすがに初めてだ。とてもいい経験だった。感謝する」


 アルケイシア錬金工房の四代目当主である男が頭を下げる。それだけ貴重な体験だったのだろう。 

 セナも、まさか神器を作りあげてくるとは思っておらず、武器を受け取った姿勢で固まっていた。間違いなく国宝級。これがたった五〇〇〇万シルバーでいいのだろうか。


「あの……お金……」


 倍額支払っても足りない完成度だ。追加料金を払おうとインベントリを開くが、男はそれを手で制した。


「料金は既に受け取っている。契約が無事履行されたので追加料金も無い」


 そう云って彼は奥へ引っ込んでいく。本当に必要無いのだろう。セナはお礼を言い、工房を後にする。

 これで帝都での用事が終わったわけだ。ようやく魔大陸への旅を再開できる。

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