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196.イルメェイちょろい。超ちょろい

 新しい武器を手に入れたならば、使ってみたくなるのが人間ゲーマーというもの。

 【ルミナストリアの羽根】で再びリマルタウリにやってきたセナは、元の生息地に戻りつつある亜竜を相手にテストすることにした。


「――【天撃解放】!」


 【天撃解放】は【竜撃ドラゴン・ロア】を対単体の超高火力攻撃にするためのトリガーであり、これを使用して初めて【竜撃ドラゴン・ロア】が使えるようになる。これもMPを消費しない。

 解放すると【天撃竜王の瞳】から凄まじい力が矢へと流れ込み、白銀のオーラが発生する。オーラはドラゴンのようなシルエットになり、その目を光らせた。

 その存在感に亜竜は堪らず逃げだすが、セナの獲物となった時点で命運は定まっている。


「……【竜撃ドラゴン・ロア】っ!」


 指を離す。矢は飛翔し、一直線に獲物へと進んでいく。

 咆哮のような轟音を鳴らし、白銀のオーラは獲物となった亜竜に食らいつく。その状態のまま、まるで生きているかのように亜竜を振り回し、地面や岩や木に叩きつける。

 そして、螺旋を描きながら上昇しその顎を開くと、落雷のように真っ直ぐ地面へ突き刺さった。


 宙に放り出された時点で亜竜は死に体だったが、直後の一撃によって完全に地面の染みと化していた。

 地面が抉られ、窪み、クレーターとなっていたのだから、その威力は計り知れない。どうみてもオーバーキルだ。ドロップ品すら入手出来ていない。


「あわわあわわわ……」


 この光景を見て、イルメェイは手で口を押さえて震えていた。

 上位の純竜ですら屠れる威力を有していたのを、雷激竜イルメェイは本能で察したのだ。

 しかも、こんな強力な技なのに代償を負った様子が無い。初めて使ったというのに、セナは振り回されることなく使い熟せている。


「これはボス用かな。次は……【雷嵐解放】!」


 続けてもう一つのスキルを発動したセナ。

 これは【竜撃ドラゴン・ロア】を超範囲攻撃にするためのトリガーであり、イルメェイの師であった【雷嵐のフェリィエンリ】の能力が元になっている。


 先ほどと同じく凄まじい力が矢に流れ込み、今度は薄緑色と淡い黄色の二色のオーラでシルエットが形成された。

 獲物はレギオンが捕まえてきた亜竜である。南無。


「【竜撃ドラゴン・ロア】っ!」


 指を離すと、さっきとは異なり天へと昇っていくドラゴンのシルエット。

 やがて大きな翼を広げ地上を睥睨し、咆哮をあげて急降下する。一瞬で最高速に達したそれは、嵐のような暴風を地面へ叩きつけ、霧散するように広範囲へぶわりと広がった。

 その威力は太い木々が容易くへし折れるほど。しかも帯電しているため、先んじて訪れる雷を受けてしまうと防御体勢すら取れなくなるようだ。


 体格のある亜竜でもこの嵐の前では為す術無く吹き飛ばされ、巻き上げられ、更に落下ダメージという追撃までもが発生する。

 雷を防げなければ、回避不能のノックバック付き風属性攻撃を食らうことになるわけだ。並大抵のモンスターの群れなら一掃できるだろう。


 ただ、範囲攻撃という仕様上、威力そのものは天撃バージョンより劣っている。きちんとドロップ品が手に入っているのだ。


「使い切ってからクールタイムが発生するんだ。えっと、一二〇時間……?」


 武器ステータスを開くと、【天撃解放】【雷嵐解放】【竜撃ドラゴン・ロア】が暗転し数字が表示されていた。

 この三つのスキルはクールタイムを共有しているらしく、全部使い切ってから一二〇時間のカウントが始まるようである。

 一度使い切らないと、片方だけ延々と使えない状態が続くというわけだ。


 MPを消費しない代わりのデメリットなのだろう。使いどころを誤れば、手札を欠いた状態で強敵に挑む羽目になる。

 弱るのは獲物だけで十分。真の狩人なら相手を完封したうえで余裕を持つべきだ。ならば、手札は一枚でも多い方がいい。


「セナぁ……うぅぅ、姉さんの力を受け継いだんだなぁ……ぐすっ」

「……受け継いだってほどじゃないと思うけど」

「ひぐっ、受け継いでるよぉ」


 もう言い訳のしようがないぐらい涙を流して、イルメェイはセナを抱きしめた。


「ぐすん。セナは僕の恩人だ。恩人が姉さんの力を受け継いだんだ。僕は何があってもセナに付いていくよ」


 そして勝手に好感度がカンストするイルメェイ。ここまで上がりきると多少のトラブルじゃ離脱しない。いや、彼女は誇り高き天竜種なのだから、宣言通り何があっても付いてくるだろう。

 パーティー永住と言ってもいいぐらいだ。


「イルメェイずるい。マスターは独り占めさせない」

「レギオンにもぎゅってする権利ある。いや、レギオンにこそある」

「(……なんか、妹が増えたみたい)」


 対抗するように抱きついてくるレギオンを宥めつつ、セナはなにやら温かい感情が湧き出ることに気が付いた。

 それはレギオンへの想いによく似ていて、とてもほんわかするものだ。


「(とりあえず、頭を撫でてやればいいかな)」


 さわさわ、なでなで。

 イルメェイは喜んだ。

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