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199.樹海の泉で小休止

 四腕レギオンには継続してダンジョン攻略の任務を与え、セナはとある場所に向かっていた。そこはヒュドラ大連峰より東、プロロ大陸の北東部分を覆う樹海。未開拓領域の奥深くまで旅しなければ辿り着けないこの樹海には、精霊が宿る泉が存在している。

 四方をダンジョンに囲まれており、樹海に生息するモンスターはほぼレベル100。ボスは当たり前のようにレベル100を突破しているので、難易度はかなり高いフィールドだ。


 ダンジョンは暇だというイルメェイに任せてみたが、何が出てきてもワンパンという無双っぷりを披露していた。なお力加減は出来ていない。

 樹海の中は前人未踏ゆえに雄大な自然そのもので、ナーイアスの先導がなければ迷子は必至だろう。視界も悪く、《プレイグオーラ》を使っていなければ奇襲を受けていたかもしれない。当然のようにセナに向かってくるモンスターは状態異常漬けにされて斃れている。


 レギオンに手伝ってもらいながら道なき道を進み、樹海に入った翌日には件の泉に到着した。

 その泉の中央にある岩に腰掛けているのは当然、美しい容姿をした泉の精霊だ。ナーイアスと寸部疑わぬ容姿をしているが、風景も相まってより神秘的な印象を感じる。


 ちなみに泉の精霊は世界各地に存在する。精霊は龍脈と呼ばれるエネルギーの通り道を通じて世界各地に散らばっているのだ。 

 大抵はその場から動けないが、風のように流動するものを司る精霊であれば自由奔放に動き回っていたりする。


「――……此の地に何用ですか。それも、此の同胞を連れて」

「……よかった。ちゃんとここに居ましたね」

「とうに消えたと思っていましたが。察するに、力の補充ですか」

「はい。主様の旅の過程で寄れるのがここだけでしたので」


 この地を訪れたのは休息もあるが、ナーイアスの力を取り戻させるのが理由の半分を占めている。

 精霊は同種であれば力の受け渡しが可能なのだ。それは同じ現象、同じ概念から発生した存在であるため。ついでに述べるのなら、種族名=個体名でもあるため、泉の精霊は全てナーイアスという名前を持つ。

 レギオンに似た生態をしている……というよりは、精霊の在り方を参考にレギオンというキメラが作られたため、似通うのは当然のことだ。


「そちらの役目は……」

「泉は枯れました。〝勇者〟も二〇〇〇年近く現れていません」

「そうですか。此は見ての通り、この樹海の管理です。人の子が訪れないので、戦乱に巻き込まれることなく力を温存できています」

「そのようですね。その力の一部を此に融通して欲しいのですが」

「同胞の頼みです。無碍にはしません。ですが、今すぐにとはいきません。それはそちらも理解しているはずです」


 交渉はナーイアスがしている。

 というのも、精霊が人間に肩入れするだけならいいが、精霊同士のあれこれに首を突っ込ませるのはいけないらしい。

 セナはナーイアスからその辺りの注意事項を聞かされていたので、泉のほとりに座ってゆっくり休憩しているのだ。


「――ではそのように」

「はい。月が満ちたら龍脈を通して渡します」


 木漏れ日が気持ちよくてうたた寝していると、いつの間にか交渉が終わっていた。セナとレギオンたちが固まって、端から見ると微笑ましい光景だ。

 四腕レギオンはまだ単独行動を継続している。


「ん……」

「あ、起きましたね。交渉は終わりましたよ」


 揺すられて起きると、日が傾き始める時間帯だった。泉に到着したのが正午の前だったので、交渉はそこそこ時間が掛かっていたらしい。


「どうなったの?」

「詳しくは伝えられませんが、交渉は無事成立しました。満月の日に力を分けて貰えることになりましたので、五日後ですね」

「じゃあ……」

「せっかく此の泉に来たというのに、すぐ帰るのですか?」


 目的も達成したし、じゃあ帰ろうかとしたところ、セナたちは水に捕まって引き寄せられる。

 犯人はこの泉の精霊だ。


「ナーイアス……?」

「すみません主様。此ばかり人と関わるのはずるいと言われてしまい……」

「此が人の子と会うのは数千年ぶりなのですよ。なのにすぐ帰ろうとするなんて、薄情なのですか」

「レギオンのマスターが攫われた……!」

「レギオンも攫われた……」


 三人纏めて抱きしめられ、しかも拘束力が高いので逃げ出せそうにない。

 レギオンは力尽くで抜け出せるのだが、そうすればセナを傷つけかねないので、大人しく捕まっている。


「(わたしのレベル170越えてるんだけど、それでも抜け出せないってどれだけ強いんだろう……)」

「ふむ……ふむ……人の子はやはり愛らしいですね。同種で争う欠点さえなければもっと愛らしいのですが……」


 セナのレベルでも抵抗できないほどの拘束力だが、不思議と囚われているような感覚を感じない。それは水に包まれているからで、簡単に抜け出せそうという先入観からくるものだ。

 もし敵意があれば、拘束からの窒息コンボでセナはデスペナルティに陥っていただろう。

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