目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

204.残骸遺跡の奥地で佇む者

 残骸遺跡の大渓谷に出現するモンスターの中で最も多いのはユニオンゴーレムだ。だが、最もタチが悪いのはゴーレムを製造する工場だろう。

 というのも、ゴーレムは人造可能なモンスターの代表であり、そのカスタマイズ性の高さから古代アグレイアよりも更に大昔から利用されてきた歴史がある。むしろ、邪神がもたらしたモンスターという区分にカテゴライズされた人造物、と表現する方が正しいぐらいだ。

 つまり、材料さえあれば無限に製造されるというわけで……。


「――ああもう、鬱陶しい!」


 イルメェイが雷撃を無差別に放つ。二対の翼から放電し、雨のように降り注がせたのだ。魔力で編まれた雷はゴーレムの装甲をものともしない。

 この一撃で相当数のゴーレムが撃破されるが、すぐさま新しいゴーレムが補充されてしまう。

 このダンジョンに侵入してからずっとこうだ。


「(ボスエリアはたぶん遺跡跡っぽいところにあると思うんだけど……)レギオン、どう?」

「全然見つからない」

「こーじょー? と行き止まりばかり」


 ゲーム的に考えれば、次のエリアにはボスを斃してからじゃないと進めない。そしてフィールド型のダンジョンはどこからでもボスエリアに侵入できるため、セナは雑魚をスルーして攻略している。

 とはいえ無視できないのも事実なので、イルメェイとレギオンに掃討させつつ、小さなレギオンらを動員して無数にある洞窟を調べさせていた。


 分かったことと言えば、洞窟の殆どは行き止まりかつゴーレムの製造工場であり、必ず人工物の残骸が転がっていることぐらいだ。ゴーレムの製造工場が無い洞窟はそもそも残骸すら無い。


「やっぱり残骸がある場所を重点的に探すべきかな……」


 あまりにも広大過ぎるためMPを節約するために神威の使用を控えたが、やはり圧倒的な数は制圧という一点に於いて最も優れた手段である。短時間で効率良く探索するなら神威を使うべきだろう。


「《|神威:死を運ぶ騎士《ペイルライダー》》、《|嵐の王、亡霊の群れ《ワイルドハント・レギオン》》!」

「地上はレギオンが片付ける」

「なら僕は空だ」


 地面に落ちた影の中から亡霊の狩猟団が溢れ出す。

 レギオンの影は彼女の形無き肉体であり、亡霊の出入り口でもある。空を飛んでいようと、離れた場所に影があろうと、それがレギオンの影ならば同一のモノとして扱われるのだから。


「イルメェイ、レギオンを巻き込まないようにね」

「善処するけど、あんま期待しないでよ――《雷激》!」


 そうして大渓谷の隅から隅まで埋め尽くすべく亡霊が駆け、斃しても斃しても工場から供給されるユニオンゴーレムが為す術無く呑まれていく。

 合体して抵抗しようとしても、イルメェイの《雷激》による一撃で粉微塵に粉砕された。


「ふん、僕の雷で斃れないやつなんていないんだよ!」

「レギオン巻き込まれてる。イルメェイ下手くそ」

「数体巻き込んだところで平気だろ! あと僕だって少しは上手くなってるんだからな!」


 威力の調整はまだド下手だが、ちゃんと目標に命中しているので成長はしている。彼女の《雷激》は破裂する雷なので、多少ズレてもダメージが入るのだ。それのせいでレギオンが巻き込まれているのだが、コラテラルダメージ故しかたない。


「それに、新技も編み出したしね! 《雷激珠》!」


 イルメェイが人差し指と親指を立てると、その先端にバチバチ弾ける雷の珠が形成される。無作為に放電する通常攻撃や、破裂する性質を持たせた《雷激》とも違うこれは、簡易版ドラゴンブレスと呼ぶべき代物だ。


「姉さんみたいには出来ないけど……一発で十分だ!」


 フェリィエンリの《雷嵐破獄衝》を真似た《雷激珠》は、本来ならば複数の敵を斃すための技だ。だが、制御が下手くそなのに幾つも形成すれば、維持すらままならないだろう。

 なので彼女は、敢えて一発に絞って形成していた。


「もういっちょ!」


 一発目を放ち、すぐさま二発目を形成してチャージする。ドラゴンブレスより威力は落ちるが、何発でも連射可能なのが《雷激珠》のメリットだ。


 そしてセナは、レギオンが見つけた遺跡跡に向かって突き進む。亡霊の狩猟団はレギオンの影から際限なく溢れ出すため、どれだけ奥へ進んでも地上の敵を呑み、その妨害を許さない。


「……遺跡が増えてきたね。昔は街があったのかな」

「どうでしょう。此が覚えている限りでは、この大陸の最東端に文明が築かれたことはありませんから」


 散見される文明の痕跡にセナは疑問を抱いた。

 ここは未踏の大地であり、都市国家すら存在しない大陸の最東端だ。ナーイアスでも知らないとなると、当時を覚えているのは太古の神格ぐらいだろう。


《――ダンジョンボス:【護真のエルダー・ギガンティア】が出現しました》


 やがて水平線を見渡させる大きな丘に差し掛かると、丘の向こう側で佇む巨体が静かに蠢いた。


「(ユニークモンスター……。手記によると、最も大きな遺跡の深部から魔界に入ったみたいだから……あれの後ろにある遺跡かな)」


 ギガンティアの背後には、大教会のような遺跡がある。それがセナたちの目的地――魔大陸へと通じる遺跡だろう。そして、古代アグレイアより旧き文明の残した守護者ガーディアンを斃さなければ、その入り口は潜れない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?