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205.誤謬を広げて真を護る その一

【護真のエルダー・ギガンティア】は一〇〇メートルを優に超える白い巨体を持つ。ユニークモンスターと化しているだけあって、そのレベルは427とかなり高い。

 また、その巨体は鎧のような装甲に覆われており、胴体部分の中心に銀色のカバーで覆われた深紅の球体が嵌まっている。


「レギオンは攪乱と前衛お願い。イルメェイはゴーレムの上を集中して攻撃して」

「わかった」

「任せろ、《雷激》!」


 街一つ分もの距離があるが、ここからでも攻撃は届く。レギオンは近接が主体だが、遠距離攻撃も出来ないわけではない。


「僕の雷が弾かれた……っ! ゴーレムのくせに!」

「魔法耐性が高い……? それとも威力不足……」

「オリハルコンの装甲です。当たる直前、装甲の表面に虹色のオーラを纏っていました」


 ナーイアスの見立てによると、【護真のエルダー・ギガンティア】の装甲はオリハルコンで作られているらしい。

 色んなゲームでよく登場する伝説の金属、オリハルコン。この世界でその単語を聞いたことは無かったが、まさかこんなところで相対するとは思っていなかった。


「なら、出し惜しみは出来ないね。《天撃解放》《|竜撃《ドラゴン・ロア》》!」


 セナは矢を番え、最大火力を解き放つ。

 【天撃竜王の瞳】から膨大な魔力が矢に流れ、ドラゴンのシルエットを形作る。白銀に彩られた荒々しい力は、指を離すと同時に目標目掛けて飛翔した。


「……ダメージは入ったけど、硬い」


 頭上に浮かぶHPバーは、一割削れたかどうか。格上とはいえ、ここまでダメージが入らないのは魔法耐性が仕事をしたからだろう。

 それでもオリハルコン製の装甲に大きな罅を入れているのだから、神器の名は建てじゃ無い。


 余談だが、オリハルコンは金のように柔らかいため、武器や防具として使われることは滅多に無い。主な活用方法は杖に埋め込むか、錬金術等の触媒であり、装備に使うとしても鎧の表面に塗布するぐらいだ。


「(レギオン合わせて)――暴風、突風、腕、爪、加速」

全力殲滅形態フルオフェンスモード!」


 四腕レギオンが亜音速で突撃する。右の双腕を捻りながら固く握り、勢いのまま自壊覚悟で突き立てる。

 セナの一撃に比べれば小さいが、こちらもオリハルコン製の装甲に罅を入れた。そして、すぐさま少女レギオンが入れ替わって追撃を行う。


《――【護真のエルダー・ギガンティア】が【誤謬世界】を起動しました》


「なに、この感覚……!?」


 だが、ギガンティアから不可思議な波動が放たれると、それらのダメージは全て無かったことになった。罅が元通りに直り、HPバーは一ミリも削れていない状態へと回帰する。


「分断された……っ」


 そしてセナは気付く。パーティーが分断されていることに。

 セナ、四腕レギオン、少女レギオンはそれぞれ個別のフィールドに。イルメェイ、ラーネ、ナーイアスは纏められている。

 個別かそうでないかの判断基準はヘイト値だろう。あの装甲に罅を入れられるぐらいの攻撃を行えば、個別のフィールドへ隔離されるというわけだ。


「(パーティーが解除されたわけじゃないけど、別フィールドにいる判定になってる。神威は解いてないからレギオンはこっちに来れるはずなのに)」


 大人レギオンを憑依させているいるので、本来なら他のレギオンもセナの所に移動できる。すぐにやってこないということは、それも妨害されているとセナは考えた。

 《視界共有》や《思念伝達》などのアーツも封じられている。


「すごく厄介。レベルが高いだけでも厄介なのに。《ボムズアロー・フェイタリティ》」

『――《アストロガード》《ミサイルカウンター》』


 ギガンティアを覆うように巨大な力場が形成される。その力場に阻まれた矢が爆炎を撒き散らした次の瞬間、カウンター攻撃が力場から放たれた。

 魔法の矢だ。無属性だが数が多い。


「《ステルスハント》!」


 一部を迎撃しながら道を確保し、セナは移動しながら矢継ぎ早に攻撃を加え、力場に弱点が無いかを探る。


「(遠距離攻撃が全部防がれる)なら、これで!」


 短剣を抜き放ち、力場を斬りつける。《クルーエルハンティング》を発動しているので、防御も耐久も頑丈も無視して欠損を与える一撃だ。

 果たして、それは力場を斬り裂いた。


「《プレイグシュート・フェイタリティ》!」


 その瞬間、セナは斬り裂いた力場の隙間から疫病の矢を放った。短剣を振り抜いた体勢から前に滑りつつ、重心を後ろに下げて倒れながら矢を番えて照準を定めたのだ。

 神威発動中の《プレイグシュート》に込められた病は、無機物だろうと殺す致死性を有している。届きさえすればいいのだ。届きさえするのなら、限界まで引き絞る必要は無い。


『装甲、破損』

「《ボムズアロー・フェイタリティ》!」

『ガ、あぁ……ッ!』


 間髪入れずに叩き込んだ攻撃によって、死んだ装甲ごとギガンティアの深紅の球体が爆破される。

 だがHPバーは大して減っていない。数%削れたかどうか。そして、それよりも注意するべきことがあった。


『損害軽微。対象、要警戒……!』

「二体目……」


 吹き飛んだ球体の内側にちらりと見えたその名称は、ギガンティアとは異なるもの。【誤謬のルイナ/ファラシー】……それが彼女に与えられた、ユニークモンスターとしての銘。


 【護真のエルダー・ギガンティア】が隔離する必要の無い敵を掃討し、【誤謬のルイナ/ファラシー】が隔離フィールドで各個撃破する。それが残骸遺跡の大渓谷を守護するボスモンスターなのだ。

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